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第1話:出逢い

俺には(みさき)が居た。


「おにいちゃん、大好き。大きくなったら、おにいちゃんのおよめさんになる。」


そんな言葉を言っていた気がする。でも、アイツはもういない。

もういないはずなんだ。それなのに、どうして(みさき)が俺の目の前に居るんだ?



我が物顔で黒雨が世界を蹂躙する中、定期試験の結果が貼りだされた。


「なんで人の成績を貼り出すんかね」


俺の成績は言わずもがな。ドベとまでは言わないが、決して誇れる成績でもない。

どうやら、今回も補習の席が用意されているようだ。

まあ、補習している間に雨が止めば儲けもんだ。

そんな楽観的な捉え方でもして、気を紛らわせよう。


補習科目群に一通り目を通しながら、そんな物思いにふけていると、

太ももを撫でるこそばゆさを感じた。ちょうど妹から連絡が来たのだ。


「おにい、今日も補習?」

「あれだけ勉強したのだ。補習なわけなかろう?」

「ウッソダー。おにいに限ってありえなくなくなーい?」

「意味わからんくらい、なくなっとるぞ。」

「それなー!でも、おにいバカだし。」


兄として、妹にバカ認定されるのは心に来るものがある。

だが、我が妹ながら真実を言い当てて来る。


「そうだよ、補習だよ。悲しくなるよ」


自分で言っていてさらに悲しくなってくる。


「今、おにい学校でしょ?雨降ってるし、傘を持って行ってあげるよ。

どうせ傘も持ってないんでしょ?」

「どうして、そんなことまで言い当てられるんだよ?」

「おにいバカだし。」


バカで一蹴されてしまった。我が妹ながらバカバカ言い過ぎである。


「ちょっと用心深さが足りなかっただけだ」

「学校の校門で待ってて。帰りにファミレス寄ってこうよ。」

「たかる気かよ」

「ヨシヨシしてあげるから。」

「要らねーわ、キショク悪い。」


兄想いな風体で俺にたかろうとは100年早い!


「補習している間に雨が止むかもしれないに、わざわざ来なくて大丈夫だ。」

「そんなこと言って、雨が止まなかったらどうするつもりなん?」

「水も滴るいい男」

「なにソレ?ウケるんだけど!びしょ濡れになったら風邪ひくよ?」

「お前は風邪ひかないもんな」

「誰がバカは風邪ひかないですって!!」

「バレたか」

「とにかく傘を持っていくから、補習終わったら校門で待つこと!」

「へいへい」


ここまでしてファミレスで奢らせたいのか、コイツは。

現金がいくら残っていたか、財布に目を落とすと千円が入っていた。

まあ、ソーダくらいは奢ってやるか。食い物を注文するには、ちと厳しいが。


「それじゃあ、補習が終わる頃に連絡するよ。」

「先に校門に行って待っててあげようか?」

「それこそ風邪ひくだろ?今は学校か?」

「違うよ、もう家に帰ったもん。」


自宅からわざわざ学校に戻ってくるのかよ。

こんな雨の中、兄のために傘を持ってくるとは出来た妹だよ、ホントに。


「おにい、連絡待っているから。」


そう言うと電話を切られた。やれやれだ。

さて、そろそろ補習でも受けますかな。



補習も終わったことだし、アイツに電話でもしてやるか・・・。


「・・・・・」


なかなか電話に出てこない。

自分で傘を持ってくるって言っていた割に、寝てるんじゃないだろうな?


「仕方ない、帰りに傘でも買って帰るか」


バカ妹は今頃グースカ寝ているのだろう。

さすがに、これ以上はアイツを待っていられない。

念のため校門周りを探してみたけど、やっぱりアイツは見つけられない。

帰路につくことにし、コンビニを目指す。

確か、この近くにコンビニがあったよな・・・。



学校帰りコンビニに寄り道して買い食いする日課を持つバカ妹と違い、

普段はめったにコンビニには入らない。

そのせいか、塗れたままコンビニに入るのは少し躊躇われたが、背に腹は代えられない。

多少の後ろめたさはあるが、煌々と光る不夜城に攻め込むことに決めた。

冷えたせいか、下腹部に不快感を覚える。真っ先に化粧室を目指す。

誰か先住民が居たら、膀胱は破裂してしまうかもしれない・・・。


幸いにも化粧室は空室だった。決壊する前に無事に化粧室に入ることができた。

至福の時間を過ごした後、手洗い場で奇妙なものを見つけた。


「なんだこれは?ナメクジか?」


なんというか、ナメクジというかスライムというか。

その形状は定かではないが、どうやら干からびているようだ。

軟体動物に詳しくない俺では正確な鑑定はできないが、コレが死にかけていることは理解できた。

今はちょうど手洗い場に居るし、少し水を与えてやろう。

蛇口の水を少し出し、手に載せた軟体動物に水をかけてやる。

その時、水しぶきが飛び跳ねたのか、目に何か異物が入った。


「イテェ、目に何か刺さった?」


目を突き破らんばかりの激痛が走った…。痛む目を擦ってみても、痛みは取れない。


「目が真っ赤だ」


化粧室の鏡に映る自分の目を見て、思わず言葉が漏れてしまった。

(まぶた)を持ち上げても異物らしいものは見つからなない。

洗眼も試してみたが痛みは引いてくれない。


「痛みが続くようだったら、明日眼下に行くか。」


ふと手元に目をやると、さっきまで居た軟体動物が見つからない。

痛みの間に居なくなってしまったのだ。

落としてしまったのだろうか・・・。悪いことしたな。


傘を探してさっさと帰ろう。とりあえず安い傘を探してレジに並ぶ。


「いらっしゃいませー。」

「お願いします。」


手に持った傘を店員に渡す。ついでに10円ガムも。

10円ガムは当たり券を持っていたので、タダでもらえる。

辛いことがあった時は、10円ガムで自分を慰めるのだ。


「お会計は・・・」

「どうも」


店員に現金を渡し会計を済ませて、家路を急ぐ。

夜遅いせいで周りが見えづらい。コンビニの明るさに慣れた目では益々だ。


「救急車が通ります。道をあけてくださーい。」


こんな時間帯でも救急車が走っている。公務員の方々には頭が上がらない。

熱中症かなんかで倒れた人でもいるのだろうか・・・。


そうそう、もうそろそろアイツも目覚めた頃だろう。

もう一度アイツに電話でもしてやろうか。

携帯電話を取り出したとき、着信があった。母からである。


「もしもし、お母さん。どうしたの?」

「もしもし、みさきが交通事故にあって、今病院なのよ」


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