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【3】ドラゴンナイト『剣』  作者: 生丸八光
8/8

8話 闇の中の星

 日が暮れ始め子供達が家に帰って行く中、師範は明日にでも結婚させようと、しつこく説得を続けたが、スピックは「うん」と言わない・・段々、頭に血が上って来るのをグッと(こら)える・・・


「・・お前、頑固だな・・本当は、結婚したくねぇんだろ!」


「するよ!チャンピオンになったら!」


「本当だな!」

「うん!」


 笑顔で応えるスピックに師範は(あきら)めたのか一息付くと、マリアを睨み付け


「安心しろマリア!チャンピオンになったら、結婚してくれるってよっ!」


「はぁ?ワケ分かんないんだけど!」


 (あき)れるマリアにクリスが


「大丈夫だよ、姉さん!あの男なら、すぐチャンピオンなるよ!」


「何が大丈夫なのよ!って言うか、あんたの方が大丈夫なの!引退して、強いのだけが取り柄なのに・・」


「しょうがないさ!俺は一度でも負けたら引退するって決めてたし、到底敵わない相手を前に、やる気が無くなった・・」


「ふーん・・あの男って、そんな強かったんだ・・・」


 ようやくスピックの強さを認めたのか、スピックを近くに呼び寄せ


「あんたって、本当に強かった見たいね」

「へへへ~っ!」


 得意げに微笑むスピックにクリスは


「今まで何をしてたんです?あれ程の剣の腕があれば、既にチャンピオンになっててもおかしくないのに・・・」


「俺、傭兵をしてた!」


 それを聞いたマリアが

「傭兵って、あんた戦場に居たの?」

「うん!」


「じゃあ、人を殺したの?」

「殺した。いっぱい!」


「いっぱいって・・平気なの・」


「平気さ!」

っと笑顔で応えたスピックは


「俺は、赤ん坊の時にとっつぁんに拾われ、戦場で育ったんだ。戦場では、負ければ死ぬだけ、仲間が死ぬを見て来たし俺もいつか戦場で死ぬと思ってたけど、とっつぁんが『お前は剣の腕は立つが、バカだから戦場には向かねぇ、剣闘士になれ!』って言われて、この街に来たんだ!」


「そ、そう・・」

 マリアはスピックの境遇に、ただ(うなず)く事しか出来なかった・・


「戦場で身に付けた剣か・・・」

 

 クリスがスピックの強さに納得し、師範が溜め息をもらすと小僧が


「スピックさんが強かったから、生き残れたんですね!」


「俺は無敵だからな!」


「聖剣が抜けたのもスピックさんの強さを知っての事だったんだ・・」


 小僧の言葉を聞いた師範が驚き


「聖剣を抜いたって、武器屋のじじいが持ってる聖剣か?」


「そうですよ!スピックさんが聖剣を抜いて店主も驚いてました!」


 と布を広げ、持っている聖剣を師範に見せる。


「おぉ!その剣だ!若い時から何度も試したが一度も抜けなかった・・」


 師範はスピックに


「ちょっと抜いて見てくれ」

「いいけど!」


 聖剣を手にしたスピックは、軽々と聖剣を抜くと、クルクルっと剣を回して『カシャーン!』と鞘に納める。


「おぉ!」


 師範は、驚きの眼差しでスピックを見詰め


「俺にも貸してくれ!」


 と抜こうとしても抜けない・・クリスも試したが、やっぱり抜けなかった・・・


『この剣には、本当に意思が宿ってるのか・・』


 手品のような不思議な出来事を目の当たりにした師範は、背中にゾワゾワするような恐怖を感じスピックを見詰めたが、平然と微笑んでいる様子にブルブルっと寒気がした・・


『この男は、本当にバカなのかも・・』



 

 すっかり日が暮れ、辺りも暗くなり小僧が


「スピックさん!僕、そろそろ帰って良いですか?」


「うん!今日はありがとう!」


「僕の方こそ、ありがとうございました!それじゃあ皆さん、さようなら!」


 小僧が帰って行くとマリアが


「あんたも行ったら!」

とスピックに帰るように催促すると師範が透かさず


「ウチに泊まってけ!」


「何言ってんのよ!」


 目くじらを立てるマリアにスピックは


「俺、ここに泊まってく!宿代(やどだい)出すから財布くれ」

 

 すると、マリアが渋々懐から巾着袋を取り出し、それを見た師範


「何だお前!口では結婚するのを嫌がっといて、ちゃっかり財布の(ひも)握ってんじゃねぇか!」


 顔をしかめるマリア・・・


「こ・これは・・成り行きで持ってるだけよ!」


 師範はマリアの言葉を笑い飛ばし


「宿代なんか要らねぇー!コイツは、俺の道場から剣闘士になるんだからよー!」


 と言って、スピックの肩を組み


「まずは、地区チャンピオンだ!」

「分かった!」


 2人は家に向かって歩き出す


「地区チャンピオンは全部で5人居てな、コイツ等を倒して、やっと統一チャンピオンと闘えるんだぞ!」


「そうなんだ!」


「そして、この統一チャンピオンって奴が化物見てぇに強くてよぉ!全身真っ黒の鎧を着て30年間負け知らず、何人もの地区チャンピオンを(ほうむ)ってんだ!コイツを倒さなきゃ統一チャンピオンになれねぇぞ!どうだ、行けるか!」


「やって見なきゃ分かんねぇけど、そいつとヤるのが楽しみだ!」


「そうか!」

 スピックの頼もしい言葉に師範は上機嫌になっていた。


「お前!酒は、どうだ?いける口か!」


「飲んだ事無いけど、俺は無敵だ!」


「そいつはいい!今夜は旨い酒が飲めるぞー!」


「おーい!母ちゃん!食いモンと酒!ジャンジャン持って来てくれーっ!」


 と、ご機嫌で家に入って行く・・


 マリアは、そんな2人を眺めて溜め息を付き、クリスは聖剣を抜こうと何度も力を込めていたが、抜けずに溜め息を付いていた・・・



 辺りは、すっかり暗闇に包まれ、静かな夜空に満月が輝いている・・・


 そんな静かな夜空の向こうで、赤い龍が飛んで行く・・赤い龍が狂った様に満月に向かって飛んで行き、多くの人が驚きの表情で夜空を見上げ、これから何か不吉な事が起こる前兆では・・不安と恐怖を感じていたのであった・・・



(終わり)



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