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【3】ドラゴンナイト『剣』  作者: 生丸八光
7/8

7話 納得

 師範は、敗北に落ち込むクリスの肩を(なぐさ)めるように叩いた後、スピックに向かって


「お前の強さは桁違いだな・・まさか地区チャンピオンのクリスを簡単に倒すとは・・・それで、剣闘士になるのか?」


 と聞いた。


「うん、なるよ!俺はチャンピオンになって、マリアと所帯を持って幸せになるんだ!」


「なっ!本気(まじ)かよ!お前・・」


「マジだよ!」

 スピックは()んだ瞳を師範に向け、キッパリと応えた。


『マリアの奴いつの間に・・・だから俺が決めた縁談を断ったのか・・・』


 師範は事の経緯に納得したのか


「おい!マリアは今どこにいる?」

 と尋ねると小僧が


「マリアさんなら、門の外で待ってるって言ってましたが・・」


「呼んで来てくれねぇか!」




 マリアはその頃、門の外でソワソワ落ち着かない様子でウロウロしていた・・・


「今頃きっと、骨の2、3本は折られてるわ・・クリスは手加減出来ないから・・頭でも打たれてバカになってたら・・・いや、あれ以上バカにならないか・・」


 とそこに、小僧が門を(ひら)いて顔を出し、マリアを見つけると


「マリアさん!師範がマリアさんを呼んでます!直ぐ来て貰えますか!」


 マリアはハッとして、急いで中に入って行く!

『呼んでるって、もしかして、アイツ死んじゃった!・・私が、いきなりチャンピオンと闘わせたから・・』



 責任を感じて大急ぎで駆け付けると、スピックが笑顔で子供達にキラキラ宝剣を見せびらかしているのが見えて、ホッと胸を撫で下ろす・・


『ピンピンしてる・・』


 ホッとしているマリアを見た師範は、神妙な面持ちで


「マリア・・お前には悪い事をしたな・・無理やり結婚させようとした挙げ句、追い出しちまって・・・お前には、すでに心に決めた相手が居たんだな・・」


「はぁ?」

 マリアには、意味が分からなかったが師範は話し続ける。


「俺は師範として、この道場をより強く盛り上げて行きたかったんだ!しかし、父親としては失格だった・・・すまなかった。お前が、この男と結婚したいなら、チャンピオンになるまで何て言わずに今すぐ結婚していいぞ!」


「ちょ・ちょっと何言ってるのよ!私が結婚するって何?」


「お前、この男と結婚したくて、ここに連れて来たんだろ!」


「はぁ?違うわよ!コイツがチャンピオンになるとか無敵とか寝ぼけた事言ってたから、本物のチャンピオンと闘わせて挙げたのよ!」


「チャンピオンになったら、結婚しようって言われてんだろ!」


「そ・それは、言われたけど・・」


「なら結婚しろ!この男は絶対チャンピオンになる!俺が保証してやる!」


「保証するから結婚しろって!この男とは、今日初めて会ったのよ!」


「なっ!ほっ本当か?!」

「本当よ!」


 師範は一瞬言葉に詰まったが、すぐに

「これは運命の出会いだ!すぐに結婚しろ!」

と威嚇するようにマリアを睨み付ける!


「嫌よ!この男はバカなの!バカとは結婚出来ないわ!」


「バカはお前だ!この男はめちゃくちゃ強いんだぞ!クリスを簡単に倒したんだからな!」


「え!クリスに勝ったっの?」

「そうだ!」


 マリアは、背中を向けて座っているクリスに向かって

「あんた!チャンピオンなのに素人に負けちゃったの?」

「・・・・」


 クリスは落ち込んでるのか、背中を向けたまま黙っていると小僧が


「スピックさんは、クリスさんに圧勝だったんですよ!2回も!」


「嘘でしょ!」

 マリアが仰天するとクリスは、ぬくっと立ち上がり


「俺、引退する!」


「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」

 師範が焦りだす!

「早まるなクリス!お前は、チャンピオンだぞ!」


「負けたから、もうチャンピオンじゃない!」


 クリスは背中を向けたまま(うつむ)き、拳をギュっと握り締めていた・・


「バカヤロー!これは正式な試合じゃないだろ!稽古じゃないか!」


「稽古で良かった・・本番なら死んでる・・」


「もっと稽古して、強くなればいいだろ!だから、引退なんて考えるな!」 


「・・父さん、俺は子供の頃から死ぬほど稽古して来たよ・・おかげでチャンピオンになれたし、自分は最強、世界で一番強いと思ってた・・でも今日分かったよ・・上には上がいて俺なんかが足下にも及ばない程、強い奴がいるって・・所詮、俺の実力は地区チャンピオン止まりだって事が・・・大怪我する前に引退する・・」


 クリスの目から、すっかりチャンピオンとしての自信が無くなってるのを見た師範は


「・・そうか・・まぁ、こればっかりは、俺がどうこう言う事じゃねぇ、自分で決める事だからな・・」


 と渋々クリスの引退に納得すると、マリアを見て


「仕方ねぇ・・マリアの旦那に頑張って貰うか!アイツなら統一チャンピオンだって夢じゃねぇ!」


「ちょっと!なぜ旦那になってるのよ!結婚だってしてないし、これこそ私が決める事でしょ!」


「バカヤローッ!お前の結婚は、俺が決めんだよー!」


 そう言って、マリアの首根っこを掴むと耳元で


『道場を経営して行くのも大変なんだ!チャンピオンの看板がいるんだよぉ!嫌なら、この街から出て行け!お前がスリまがいの事をしてるって、俺が知らねぇとでも思ってんのか!』


と小声で恫喝すると、スピックを呼び寄せ


「お前!マリアと結婚したいなら明日にでも結婚していいぞ!」

と言った。


「え?明日はダメだよ!」

「何でだ?」


「だって、まだ剣闘士にもなってねえし、とっつぁんにチャンピオンになったらって言われてんだ!」


「とっ、とっつぁん?・・お前、マリアと結婚したいんだろ!」


「うん!チャンピオンになったらね!」


 マリアは、取り敢えず安心して息を付く・・・


『コイツは頑固だから、大丈夫・・』



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