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【3】ドラゴンナイト『剣』  作者: 生丸八光
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6話 一撃必勝

 門の中に入ると石畳の敷地が広がり、10人程の子供達が掛け声を合わせ木剣を振り下ろしていて、その正面にあるベンチに少年が案内した。


「ここに座ってて下さい。今、クリスさんを呼んで来ますので」

と建物の中に入って行く。


 スピックと小僧はベンチに座り、目の前の子供達を眺めて待っていたが、子供達はスピックの事が気になって仕方ない。中の一人がスピックに近付いて行くと他の子供達も一緒になって駆け寄る。 


「ねぇ、ねぇ!何しに来たの?」

「凄い剣だね!高そー!」

「いい服じゃん!」

「靴ピッカピカ!」

「絶対金持ちだ!」


 笑顔でスピックを取り囲み、興味津々で話し掛ける子供達にスピックは、満面の笑みを見せ立ち上がると、宝剣を抜き天に突き上げる。


「俺は、チャンピオンを倒しに来た!」


 輝く宝剣を掲げ、かっこ良くポーズを決めたつもりのスピックだったが、子供達の顔から笑顔が消え、後退りして身構える・・


「や・やべー・・道場破りだぞ・」


「道場破り?」


 聞き覚えの無い言葉と不穏な空気に、スピックが剣を納め戸惑っていると小僧が


「道場破りじゃなくて、マリアさんにクリスさんと一緒に稽古する様に言われて来たんですよ!」


 そう言った時に丁度、少年が師範とクリスを連れて戻って来た。師範はスピックの顔をじーっと見つめて


「お前か!マリアが連れて来た男ってのは?」

「うん!そうだよ」


「どう言う積もりだ!剣闘士でもねぇのにクリスと闘うって、こいつはチャンピオンだぞ!」


「俺は、チャンピオンを倒しに来た!」


 自信満々に剣を抜き、やる気満々で構えるスピックに小僧が慌てて

「スピックさん、剣を納めて下さい!闘技場以外で真剣を使うと罰せられますよ!」


「そうなの?」


 

 詰まらなそうな表情のスピックに木剣を渡した師範は

「お前、あぶねぇ奴だな・・防具も着けねぇで真剣でやり合おうなんて、死ぬのが恐くねぇのかよ!」


「恐くねぇけど」


 平然と言い放ち、木剣の感触を確かめる様に2.3回素振りすると、空気を切り裂く鋭い音と剣(さば)きに師範は・・・


「なるほど、そう言う事か・・」


 師範は何かを察したのかクリスに


「おい!本気で行けよ!」

と言い、その場を離れる。


 クリスもスピックの鋭い素振りを目にして、気を引き締め、木剣を手にした。


 クリスは、スピックより二(まわ)り程大きな体で鍛えた筋肉が力強さとチャンピオンとしての風格を(かも)し出し、距離を置いて身構える2人の緊張感に子供達も高揚感を感じつつも静かに見守り、師範の一声を待っていた。


「始め!」


 師範の号令に微動だにしないスピック・・クリスは横にジリジリ動きながら少しずつ間合いを詰める・・・


『・・俺はチャンピオンだからな・・まずは、相手の出方を見てやる・・いや!やっぱりここは、一気に方を付けるべきだなっ!』


 クリスは一気に間合いを詰めると、横一文字に鋭く切り込む!スピックはヒラリと交わしたが、クリスには計算の内、返しの一振りをスピックの脇腹目掛け、力強く振り上げた!


 スピックが、それを紙一重で交わすと透かさずクリスは喉元を目掛け突きを放ち、クリスの鋭い突きが空を切った所でピタリと動きを止め、静かに息を付いた・・・


 クリスの首元にスピックの木剣が当てられていて、負けた事を悟ったのだ。


 スピックはニコやかに微笑み、剣を下ろすと


「ここが戦場なら、3回死んでたな!」

と言った・・・


「3回!・・」

 呆然とするクリスに子供達もがっくり・・


「クリスさんが、負けるなんて・・チャンピオンなのに・・」


 余りにも呆気ない勝負に師範も溜め息を付いたが、小僧だけは『・・やっぱりスピックさんって、物凄く強いんだ!』と納得していた。


「も・もう一度勝負して欲しい」


 クリスはチャンピオンとしてのプライド・・力を出し切って無いのに負けを認める事が出来なかった・・・


「いいよ!」


 スピックが気軽に再戦に応じると、クリスは静かに間合いを取り、木剣を構える・・・


『大丈夫・・俺は勝てる!さっきは、力を込めすぎて少し大振りになった。奴は素早い・・力技じゃなく、もっとコンパクトに相手の出方を見て隙を突くんだ!・・・俺は勝てる!俺は、チャンピオンなんだぞ!・・』


 自分に言い聞かせ、スピックの動きを慎重に見定め、間合いを測る・・・スピックはクリスが来ないと見るや、今度は自分から切り込んだ!


 一足飛びで間合いを詰めると、下からすくい投げる様にクリスの脇腹目掛け、踏み込みの効いた一撃を放つ!


『・・速い!』


 クリスが剣を受け止めると「ガツン!」と物凄い音が響く!


『なっ・なんて衝撃だ!・・』


 クリスが今まで受けたことの無い強烈な一撃に渾身の力を込めて剣を握り(こら)えるが、体ごと空中にフッ飛ぶ!


『クソッ!』


 石畳に顔面を引きずり、スピックに目を向けると追撃に来る様子もなく、余裕でこっちを眺めていた・・・


『俺はチャンピオンだぞ・・なのにスピードもパワーも及ばない・・・なんてザマだ!ちきしょー・・』

 

 プライドを傷つけられ、悔しさと怒りで気力を奮い起こし、立ち上がったクリスは


「まだ、負けた訳じゃない・・」


 と木剣を構えたが、スピックの一撃を受け、痺れてしまった手に力が入らず、木剣を落としてしまった・・・


「そこまでだな・・」


 師範の声にガックリ膝を付くクリスに子供達も溜め息を漏らしたが、スピックの圧倒的な勝利に誰も異を唱える者はいなかった・・


 勝って当然とばかりに、ニコニコ余裕のスピックに師範は


「マリアの奴・・飛んでもない男を連れて来たモンだ・・・」


 と呟く・・・

 

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