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【3】ドラゴンナイト『剣』  作者: 生丸八光
3/8

3話 勝手な女

 女はピカピカの靴と新しい服を見回し、もう一度スピックの顔を見た・・


「あんただったの!全然分からなかったわ・・」


と言って巾着袋を差し出すと、スピックは笑顔で手を伸ばす。巾着袋を渡した女は、悪びれもせずに


「言っとくけど私は盗人じゃないから!ブツかった時にその袋が勝手に私の懐に入って来たのよ!」

と言った。


「そうだったんだ!」

 笑顔でスピックが応えると小僧が後ろから追い付いて来る。


「どうしたんです!急に走り出して店はあっちですよ!」


「ごめん、ごめん。ちょっと知り合いを見掛けて・・」


「知り合い?」


 小僧は何気に覗き込み、女の顔を見て

「マッ・マリアさんじゃないですか!」


 驚いて声を上げた小僧にスピックも驚き

「知り合い?」


「えぇ!そうです。よくご家族で店に来られてましたから・・」


 小僧と顔を合わた女は、ばつが悪そうに下を向いた・・・小僧も気まずそうに


「マリアさん・・大丈夫ですか?店主も心配してましたよ・・」


「私は大丈夫!心配無用よ!」


 2人の意味深な会話が気になったスピックは小僧に

「どうしたの?」


「マリアさんは家を追い出されたんです・・」

「どうして?」


「父親が決めた縁談を断ったからですよね。」

とマリアに同意を求めた。


「えぇ、そうよ!剣闘士のチャンピオンだか何だか知らないけど、でっかい図体(ずうたい)に不細工な男で嫌だったの!」


「そう・・」

 スピックが応えると更に小僧が


「マリアさんの家は剣闘士道場なんです。師範の父親が娘を強いチャンピオンと結婚させたいんですよ」

と付け加えた。それを聞いたスピック


「なら、俺と結婚しよう!俺は、とっつぁんに剣闘士のチャンピオンになったら、いい女と所帯を持って幸せになれって言われてんだ!」


「はぁ?」

 マリアは冗談で言ってるのかスピックの顔を見たがマジっぽい・・

「あんた・・剣闘士のチャンピオンなの?」


「まだチャンピオンじゃないけど絶対にチャンピオンになれるって、とっつぁんが保証してくれてる!」


 薄っぺらい保証と根拠のない自信で満面の笑顔を見せるスピック・・


「あんた!バカなんじゃないの!」


「とっつぁんも、そう言ってた!」


「・・・こいつは、本物だわ・・」

 マリアは相手にせず、その場を去ろうと思ったが『取り敢えず金は持ってるか・・』空腹を満たそうと考えた。


「私、あなたの名前も知らないの・・私と結婚したいのなら食事でもしながら、あなたの事をいろいろ教えてくれるわね!」


「いいよ!」

 二つ返事で引き受けたスピックに小僧は


「あの・・剣は?」

「腹ごしらえをしてからにする!」

 

 2人はマリアに連れられ、高級料理の店に入って行く。


 マリアは席に着くと慣れた様子で次々と料理を注文し、あっという間にテーブルの上は山盛りの料理でいっぱいになった。


「さぁ!食べましょ!」


 マリアは、そう言うと物凄い勢いでガッつき出す!余程お腹が空いてたのか脇目も振らず食べまくり(から)の皿が積み上がって行く。その様子を小僧とスピックは唖然として眺めていた・・・

『思ってたんと違う・・』


 マリアにとって、まともな食事にありつけたのは3日振りだった・・



 腹を満たし機嫌が良くなったマリアは、スピックに目をやり

「あんた、名前は?」


「俺はスピック!」


「スピック!あんたねぇ、剣闘士のチャンピオンになるって寝言みたいな事言ってるけど、剣はどこで習ったの?」

 

「とっつぁんが教えてくれた!」


「とっつぁんね・・」

 ため息を付くマリア・・


「いい、チャンピオンになるって簡単な事じゃないの・・みんな子供の頃から毎日道場に通って、厳しい稽古を積み重ねてチャンピオンを目指すのよ。あんた本気で言ってるの?」


「俺は剣の腕が立つから剣闘士になれって、とっつぁんがチャンピオンになれるって言ったんだ!」


「つまり、強いって訳ね・・・」

「今まで負けたことねぇし、無敵だ!」


 自信たっぷりに微笑むスピックにマリアは

「そう・・私の弟は、この地区のチャンピオンなの、本当に強いのか今から試しに行く?」


「いいよ!」


と応えたスピックに小僧が慌てて

「ちょ・ちょっと!剣を買いに行くんじゃ・・」


「あっ!そうだった!先に剣を買わなきゃ!」

とマリアの顔を見る。

「いいわ!私も付き合ってあげる!」


 スピックの支払いで店を出て、小僧の案内で武器屋に着いた店は、マリアが馴染みにしている店だった。


「ここの爺さんは、胡散臭(うさんくさ)いからボッタクられ無いように気を付けるのよ!まぁ、私が一緒だから大丈夫だけど!」


と言って、マリアは店に入って行く。中は、年期の入った古臭い感じで、壁には大量の剣や槍がゴチャゴチャに立て掛けられていて、マリアに気付いた店主が近付いて来る。


「おやおや、マリアじゃないか・・家を追い出されたって聞いたが、元気にしとるのかい?」


「見ての通りピンピンしてるわ!それより、()れが剣を買いたいの!おすすめのヤツを幾つか見せてくれる。(はら)いはガナッシュ金貨だよ!」


と言うと、店主はマリアの後ろに要るスピックに目をやり

「お前さんが買いなさるんで?」

「うん!そうだよ!」


 店主は、立て掛けてある剣の中から適当に3本引き抜くと台の上に置いて

 

「こんなモンでどうじゃ!」


 その中からスピックも適当に1本手に取り


「じゃあ、これでいいや!いくら?」

と尋ねた。

「ガナッシュ金貨なら5枚じゃな!」


 スピックは巾着袋に手を突っ込み、金貨を5枚数えるとマリアがスピックの手を掴み、不機嫌に睨み付けて


「適当に決めてんじゃないよ!」

 声を荒げた・・・


「俺、なんかマズイ事した?」

と小僧の顔を見たが、小僧も分からず首を(かし)げる・・・


 



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