3話 勝手な女
女はピカピカの靴と新しい服を見回し、もう一度スピックの顔を見た・・
「あんただったの!全然分からなかったわ・・」
と言って巾着袋を差し出すと、スピックは笑顔で手を伸ばす。巾着袋を渡した女は、悪びれもせずに
「言っとくけど私は盗人じゃないから!ブツかった時にその袋が勝手に私の懐に入って来たのよ!」
と言った。
「そうだったんだ!」
笑顔でスピックが応えると小僧が後ろから追い付いて来る。
「どうしたんです!急に走り出して店はあっちですよ!」
「ごめん、ごめん。ちょっと知り合いを見掛けて・・」
「知り合い?」
小僧は何気に覗き込み、女の顔を見て
「マッ・マリアさんじゃないですか!」
驚いて声を上げた小僧にスピックも驚き
「知り合い?」
「えぇ!そうです。よくご家族で店に来られてましたから・・」
小僧と顔を合わた女は、ばつが悪そうに下を向いた・・・小僧も気まずそうに
「マリアさん・・大丈夫ですか?店主も心配してましたよ・・」
「私は大丈夫!心配無用よ!」
2人の意味深な会話が気になったスピックは小僧に
「どうしたの?」
「マリアさんは家を追い出されたんです・・」
「どうして?」
「父親が決めた縁談を断ったからですよね。」
とマリアに同意を求めた。
「えぇ、そうよ!剣闘士のチャンピオンだか何だか知らないけど、でっかい図体に不細工な男で嫌だったの!」
「そう・・」
スピックが応えると更に小僧が
「マリアさんの家は剣闘士道場なんです。師範の父親が娘を強いチャンピオンと結婚させたいんですよ」
と付け加えた。それを聞いたスピック
「なら、俺と結婚しよう!俺は、とっつぁんに剣闘士のチャンピオンになったら、いい女と所帯を持って幸せになれって言われてんだ!」
「はぁ?」
マリアは冗談で言ってるのかスピックの顔を見たがマジっぽい・・
「あんた・・剣闘士のチャンピオンなの?」
「まだチャンピオンじゃないけど絶対にチャンピオンになれるって、とっつぁんが保証してくれてる!」
薄っぺらい保証と根拠のない自信で満面の笑顔を見せるスピック・・
「あんた!バカなんじゃないの!」
「とっつぁんも、そう言ってた!」
「・・・こいつは、本物だわ・・」
マリアは相手にせず、その場を去ろうと思ったが『取り敢えず金は持ってるか・・』空腹を満たそうと考えた。
「私、あなたの名前も知らないの・・私と結婚したいのなら食事でもしながら、あなたの事をいろいろ教えてくれるわね!」
「いいよ!」
二つ返事で引き受けたスピックに小僧は
「あの・・剣は?」
「腹ごしらえをしてからにする!」
2人はマリアに連れられ、高級料理の店に入って行く。
マリアは席に着くと慣れた様子で次々と料理を注文し、あっという間にテーブルの上は山盛りの料理でいっぱいになった。
「さぁ!食べましょ!」
マリアは、そう言うと物凄い勢いでガッつき出す!余程お腹が空いてたのか脇目も振らず食べまくり空の皿が積み上がって行く。その様子を小僧とスピックは唖然として眺めていた・・・
『思ってたんと違う・・』
マリアにとって、まともな食事にありつけたのは3日振りだった・・
腹を満たし機嫌が良くなったマリアは、スピックに目をやり
「あんた、名前は?」
「俺はスピック!」
「スピック!あんたねぇ、剣闘士のチャンピオンになるって寝言みたいな事言ってるけど、剣はどこで習ったの?」
「とっつぁんが教えてくれた!」
「とっつぁんね・・」
ため息を付くマリア・・
「いい、チャンピオンになるって簡単な事じゃないの・・みんな子供の頃から毎日道場に通って、厳しい稽古を積み重ねてチャンピオンを目指すのよ。あんた本気で言ってるの?」
「俺は剣の腕が立つから剣闘士になれって、とっつぁんがチャンピオンになれるって言ったんだ!」
「つまり、強いって訳ね・・・」
「今まで負けたことねぇし、無敵だ!」
自信たっぷりに微笑むスピックにマリアは
「そう・・私の弟は、この地区のチャンピオンなの、本当に強いのか今から試しに行く?」
「いいよ!」
と応えたスピックに小僧が慌てて
「ちょ・ちょっと!剣を買いに行くんじゃ・・」
「あっ!そうだった!先に剣を買わなきゃ!」
とマリアの顔を見る。
「いいわ!私も付き合ってあげる!」
スピックの支払いで店を出て、小僧の案内で武器屋に着いた店は、マリアが馴染みにしている店だった。
「ここの爺さんは、胡散臭いからボッタクられ無いように気を付けるのよ!まぁ、私が一緒だから大丈夫だけど!」
と言って、マリアは店に入って行く。中は、年期の入った古臭い感じで、壁には大量の剣や槍がゴチャゴチャに立て掛けられていて、マリアに気付いた店主が近付いて来る。
「おやおや、マリアじゃないか・・家を追い出されたって聞いたが、元気にしとるのかい?」
「見ての通りピンピンしてるわ!それより、連れが剣を買いたいの!おすすめのヤツを幾つか見せてくれる。払いはガナッシュ金貨だよ!」
と言うと、店主はマリアの後ろに要るスピックに目をやり
「お前さんが買いなさるんで?」
「うん!そうだよ!」
店主は、立て掛けてある剣の中から適当に3本引き抜くと台の上に置いて
「こんなモンでどうじゃ!」
その中からスピックも適当に1本手に取り
「じゃあ、これでいいや!いくら?」
と尋ねた。
「ガナッシュ金貨なら5枚じゃな!」
スピックは巾着袋に手を突っ込み、金貨を5枚数えるとマリアがスピックの手を掴み、不機嫌に睨み付けて
「適当に決めてんじゃないよ!」
声を荒げた・・・
「俺、なんかマズイ事した?」
と小僧の顔を見たが、小僧も分からず首を傾げる・・・