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【3】ドラゴンナイト『剣』  作者: 生丸八光
2/8

2話 ピカピカの靴

「ちょっと!(さわ)らないでよ!」


「お前が盗んだって事は分かってんだ!さっさと出しやがれ!」


「だから、私じゃないって言ってるでしょ!」

「お前が盗んだのを見た奴が要るんだよぉ!」


「知らないわよ!見間違いでしょ!」


 道端で若い女と大柄の男が言い争っている様子を馬車からじっと見詰めるスピック。


「このヤローッ!」

 男が女に掴み掛かろうと手を上げた瞬間、スピックが飛び降り、その手を掴んだ!


「なっ何だ!てめえは?」

 睨み付ける男にスピックはニコニコ微笑み

「女の子には優しくしろって、とっつぁんが言ってた!」


「知るかっそんなモン!コイツは俺の金をスリやがった!盗人だぞ!ただじゃおかねぇ!」


 スピックは、男の怒りを押さえ込む様に力を込め、男の手を引き寄せると小声で

『盗まれた金って、これで足りる?』


 金貨を1枚握らせた。


「ガッ・ガナッシュ金貨じゃねぇか・・」

 

 目の色を変える男にスピックは『盗まれた事を忘れるなら、その金貨をあげるよ!』と言うと、男は喜んで何処かに行ってしまった。


「許してくれたみたいだね」

 スピックが女に微笑み掛けると


「あんた!私を助けたつもりだろうけど礼なんて言わないよ!私は盗人じゃ無いし、あの男の勘違いだからね!それに、人に金を渡す位なら自分の身なりを整えたらどうだい!汚れた服に穴の空いた靴、恥ずかしくないの!」


「ナハハハハハッ!」

 スピックは笑ってごまかし、逃げる様に馬車を追い掛けて行った。




「旦那!着きましたよ!」


 荷馬車が靴屋の前で止まり、飛び降りるスピック

「ありがとう!遠回りさせて悪かったね。」


「悪いだなんて飛んでもない、旦那にはしっかりお代を戴いてますんで、礼を言いたいのはこっちの方ですよ!」


「そう!それならよかった!それじゃあ、元気で!」


「旦那も達者で!」


 馬車を見送り靴屋に入ると、年寄りの店主がスピックの頭のてっぺんから足先まで目をやり顔をしかめる。


「戦場から来たのかい・・ボロボロじゃないか・・」

「ナハハハハッ・・」


 店主の皮肉なのか冗談なのか笑ってごまかすスピック・・・


「お前さんに靴が必要なのは分かるが、ちゃんと金を持ってるんだろうね・・」


 不機嫌な様子の店主にスピックはニコニコ微笑み、懐から巾着袋を取り出すと金貨を1枚指で弾き飛ばす。

 キラっと輝きクルクル回転しながら、山なりに飛んで行く金貨を店主は目の前で『パシッ』っと掴み取り、手の中を覗き込む。


「ほぉーっ!ガナッシュ金貨じゃないか!」


 ポケットのハンカチで金貨を磨き、更に輝きを魅せる金貨に微笑んだ。


()りはいいから、ピッカピカの(やつ)が欲しいんだ!」


 店主は、スピックを椅子に座らせると小僧を呼び、ボロボロの靴を脱がせて足を綺麗に洗わせると、スピックの足のサイズを丁寧に計り、奥から新品の靴と真っ白な靴下を持って来る。


「コイツでどうだ?」


 ワックスでピカピカに光るブーツを目の前に出されたスピックは目を輝かせ


「ピッカピカだ!」

 

 笑顔で靴下とブーツに足を入れ満足した様に立ち上がったが、店主は


「そのボロボロ服・・せっかくの靴が台無しじゃな・・」

と呟いた・・・

「服も新しくするよ!高くて流行(はや)りの(やつ)をね!」

「そうかい!それならワシの弟の店で買いなされ!良いのが揃ってるぞ!」


「いいけど、その店って何処あるの?」


「お前さん、この街は初めてかい?」


「そうだけど」


 店主は、小僧に弟の店まで連れて行く様に言うと更に

「今日は、もう店に来なくていいから、旦那に街の案内をして上げるんだ。」

 

 店主にそう言われスピックと一緒に店を出た小僧は、金貨を1枚渡される。


「なっ何ですか!この金貨は・・」

「チップだよ!」

「チッ・チップって!こんな高価な金貨を戴いたら店主に叱られますよ!」

「なら、黙っとけばいいじゃん!」


 スピックの気前の良さに驚きながらも嬉しさ一杯の顔で


「あっありがとうございます!」

 感謝の言葉を発した・・

 

 スピックは小僧に案内された洋服屋に行き、店で一番高くて流行りの服を着て出て来る。


「お似合いですよ!スピックさん」


「へへぇ~!王様になった気分だな!」


 ピカピカの靴に流行りの服で、ご機嫌な様子で歩くスピック。


「他に欲しい物はありますか?」

 小僧が尋ねるとスピックは

「剣だな!剣を買わねぇと」

「け・剣って、何に使うんです・・護身用ですか・・・」

 物騒な物を欲しがるスピックに戸惑い、足を止める小僧・・・


「剣を手に入れて剣闘士になるのさ!」


「剣闘士・・強いんですか?」


 小僧が尋ねるとスピックはニコニコ得意げに

「そうだな!俺なら絶対剣闘士のチャンピオンになれるって、とっつぁんが言ってた!」


 スピックの自信に満ちた顔・・剣闘の盛んなこの街では剣闘士は憧れの職業、小僧は尊敬の眼差しを向け

「それなら、いい店を知ってますよ!」

と再び歩き出す。

 

 スピックは小僧の後に続き、人が笑顔で行き交う様子や食べ物屋のいい匂いにキョロキョロ歩いていたら『ドンッ!』と誰かにブツかってしまった。


「ちょっと!気を付けてよ!」

 ブツかった女は、急いでいるのか一声を発して走って行く。


 女は、全速力で人波をすり抜け、裏道を通って人気の無い所に入り、身を隠して大きく『ふーっ』っと息を付いた。


 (ふところ)から巾着袋を取り出し、中を見て喜びに目を輝かせ


『凄い!大当たりだわ!さっきの(やつ)は、銅貨2枚だったからね・・・』

 金貨を掴んで微笑んだ


「その金、俺のだぞ!」


 後ろから聞こえた声に驚いて振り向くと、そこにはスピックが立っていて、顔を見合わせた2人は思わず

「あっ!」

 っと驚きの声を上げた。


 この女は、さっきスピックが助けた女だった・・・







 




 




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