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【3】ドラゴンナイト『剣』  作者: 生丸八光
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1話 雨のち晴れ

 今にも雨が降りそうな空に眉をひそめ、荷馬車の手綱を握る男・・・

 荷馬車の後ろでは、1人の青年が退屈そうに、穴の空いた(くつ)をブラブラさせていた・・・


 ポツリ、ポツリと雨が降り出すと御者(ぎょしゃ)が青年に

「旦那!この板で(しの)いで下され」

とボロボロの板を差し出す


「大丈夫!俺、濡れるの平気なんで」


にこやかに断ると青年は、雨が頬に伝わる感触に目を閉じ、空を見上げると、記憶の中に意識が入って行くのを感じた・・

 


 ・・どしゃ降りの雨の中、剣を手に突っ走り、3人の兵士に斬り掛かると横から襲って来た1人を返り討ちにした。


『おい、スピック!先に進み過ぎだぞ!下がれ!』


スピックは、後ろから怒鳴る声に足を止め


『とっつぁんが遅いんだよぉ!』

『バカやろーっ!早けれりゃあ良いってもんじゃねぇ!早く下がれ!』

 

怒鳴る声に舌打ちしながら、後ろから来た兵士達を見送るスピック・・


『とっつぁん!モタモタしてたら、他の奴等に大将首取られちまうよ!』


大将の居る場所を見詰め、苛つきながら待っていたが、見詰める先の兵士達が、突然、姿を消した・・


『ん?』


前方の異変を感じると、とっつぁんが追い付いて来て

 

『落とし穴だ!何かあると思ったぜ!』

と言った時、脇の森から大軍が姿を現す!


『こいつは・・退却だな・・』


とっつぁんがそう呟くと、遠くから退却命令の声が聞こえ、スピックは泥濘(ぬかるみ)に足を取られ、泥を被りながらも後ろから来る敵兵を斬り捨て、返り血と雨でズブ濡れになり陣営に逃げ帰っる・・


『スピック!血と泥は綺麗に落としとけ!後で痒くなるぞ!』

『分かってる・・』


 どしゃ降りの雨に体を(さら)し、血と泥を洗い流す・・



「チキショー!やっちまった!」


荷馬車の車輪が泥濘(ぬかるみ)にはまり、御者が声を上げ、スピックが目を開いた。


「俺に任せときな!」

素早く飛び降り、泥濘に石を詰め馬車を押し上げる。


「すまない・・旦那にそんな事させちまって・・」


「このくらい平気さ!」

笑顔で馬車に飛び乗り、手の泥を雨で洗い流す・・・



『スピック!こっち来て乾かしな!』

とっつぁんが、岩影の焚き火からスピックを呼び込む


『お前!あのまま突っ込んでたら死んでたぞ!俺の(そば)を離れるなって言ったろ!』


スピックが苦笑いを浮かべると、とっつぁんは小声で


『いいか、この(いくさ)は負けるから無理するな!所詮、俺達は傭兵だぞ・・』


と言った2日後、とっつぁんの言った通り全面降伏して、傭兵の俺達は、お払い箱となった・・


『とっつぁん!次は、何処で戦うんだ!』


『そうだなぁ・・南のナバルにでも行くか・・』


『ナバル・・初めて行く所だな・・』


すると、とっつぁんは眉をひそめ、スピックを睨み付ける・・

『スピック・・前に言った事覚えてるか・・・』

『何を?』


『いつまで傭兵を続けるか考えとけって言った事だ!』

『それなら、ずっと傭兵で居るつもりだけど・・』


『バカやろーっ!ちゃんと考えたのか!』

『考えたさっ!俺は傭兵しかできねぇし、他にする事ねぇもん!』


『剣闘士になれって言ったろ!』

『剣闘士?そんな事言ってた?』


とっつぁんは呆れて溜め息を付いた・・

 

『いいか!バカ見てえに突っ込んで、死んでいった奴等を腐る程見て来たろ!お前は、剣の腕は立つがバカだから戦場には向かねぇ!剣闘士になれって言ったよな!』


『そう言えば、そんなこと言ってた!』


スピックは何となく思い出したが

『でも俺、産まれてからずっと戦場で生きて来てんだし、今さら向かねぇって言われてもな・・』


『俺が面倒見てやってたから、生きてんだ!でなきゃ、とっくに死んでる!』


『そりゃ、そうだけど・・』


『それに、お前は戦場しか知らねぇ!まだ若いんだから他の世界も見て来い!』


『う~ん』

考え込むスピックにとっつあんは


『いいか!戦場ってのは地獄みてぇなモンだ!お前はその地獄しか知らねぇ!平和な街の(にぎ)やかな暮らしを見たら、もっと早く来れば良かったって後悔するはずだ!それに、お前の腕なら絶対チャンピオンになれる!俺が保証するからウダウダ考えてないで行って来い!』


『分かったよ・・行けばいいんだろ・・』


スピックがそう応えると、とっつぁんはニコやかに微笑み


『そうか!行く気になったか!』


 ドカッとその場に座り込み、スピックを近くに呼び寄せると、(ふところ)から巾着袋を取り出した。


『街で暮らすには金がねぇと話にならねぇ!コイツを持ってきなっ!』


受け取った巾着袋の中を見ると金貨がたっぷり

『すげぇ、金貨だ!』


『その金貨は、ただの金貨じゃねぇぞ!ガナッシュ金貨と言って、その辺の金貨の10倍は価値がある。お前が今まで傭兵で稼いだ分に俺の餞別(せんべつ)を加えといてやった!』


『とっつぁん・・』


ケチのとっつぁんが、大金をくれるとは思いもよらなかった・・


『街の奴等は人を見た目で判断するからな!街に着いたら、まず(くつ)を買え!ピカピカのいい靴を買うんだ!そして、高くて流行りの服もだ!分かったな!』


『うん!分かった』


『それと人には優しく、常にニコニコしていろ!特に女の子にはな!』


『分かった!』

『よし!』


 とっつぁんは、スピックの髪の毛をグシャグシャっと撫で立ち上がると


『お前には、新しい世界が待っている!』

と言ってスピックの剣を取り上げ

『剣も新しいのを買え!』

と歩き出した・・


『で、とっつぁん!俺、何処の街へ行けばいいんだ?』

スピックが尋ねると、とっつぁんは立ち止り、背を向けたまま


『そうだなぁ・・サルタン共和国のタバコスに行け!あそこは剣闘が盛んだし、いい街だ・・』


『タバコスだな!』


『そこで剣闘士のチャンピオンになって、いい女を見付けて所帯を持つんだ!』


そう言って、とっつぁんは振り返る事なく、片手をチョイと上げると


『幸せにになるんだぞ・・』


歩いて行った・・


『とっつぁん・・』



「旦那!もう着きますぜ!あの橋を渡ったらタバコスです」


 御者の声で橋に目を向けると、雨も上がり、雲の間から射し込む光が街を照らし、虹が掛かっていた。


その虹をくぐるように荷馬車はゆっくりと走って行く・・・









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