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終斬


 

 数日後……

 

 

 《一条》の屋敷、その建屋の中にある執務室で大きな椅子に腰掛ける《一条》の当主の一条カズキと執務用の机を挟むようにして立つヒロムが待っており、ヒロムの隣にはクライスが立っていた。そして一条カズキの前には倒された弥勒の中より落ちて最後に遺ったとされる砕けている球体状の石が置かれていた。

 

「……以上が《斬鬼会》に関しての報告だ。《斬鬼会》の総大将の弥勒と呼ばれた男は鬼月真助が仕留め、遺ったのがその砕けた遺物だ」

 

 《斬鬼会》との戦い、そしてそれを束ねていた主様こと妖風弥勒との決戦とその最後についてクライスは一条カズキとヒロムに報告しており、報告を受けた一条カズキは遺物となる石を見ながら話し始めた。

 

「……妖刀の封印を解き集めていた人間がまさか呪具によって命を繋ぎ合わせて延命し、その上で周囲の生命を狩ろうとしていたとはな。《神災》の話が本当なら使用者も潰える可能性もあったからある意味では持ち手として選ばれたってわけか」

 

「その妖刀も消えたみたいだがな」

「それについてはオマエのお仲間の働きがあったからだぜ姫神ヒロム。あの薬、相当感謝してたみたいだし」

 

「……感謝される覚えは無いけどな」

「つれないねぇ、相変わらず。それよかご依頼通りの仕事は果たしたんだ、そろそろ報酬の話を……

「その薬を受け取った真助はどこにいる?」

 

 クライスは何やら金銭の話でもヒロムと進めようとしたがヒロムは冷たい口調で問い、ヒロムに問われたクライスは急にどうしたと言いたげな顔で驚いていた。そんなクライスの反応を見たヒロムはため息をつくと彼に向けて『依頼』に関して説明した。

 

「オレが薬を預けた際に依頼したのは薬を届けることと《斬鬼会》の件が終わり次第真助を連れて帰ることだ。その依頼の前金として金は渡してるがオマエは薬を届けただけで真助を連れ帰る方は頓挫してるよな?」

「えっ……いや、無理矢理でも連れて来るべきだったか?」

「無理矢理も何も世間知らずのあのバカが他で問題起こさないようにしなきゃならないから連れ帰るように依頼したんだ。半分しか果たせなかった以上、前金だけの報酬は無しだ」

「嘘だろ!?仕事こなしたのにか!?」

 

「結果として半分しか果たせてない、て話だ」

「姫神ヒロム、その件はこちらで補填しておこう。その報酬とやらはこの遺物を持ち帰ったことで免除としておく」

 

「流石《一条》の当主だな」

「……アンタがそれでいいなら勝手にしろ」

「そうさせてもらう。《斬鬼会》の件については残党が潜んでる可能性があるがその点は引き続き千剣刀哉に任せておく。オマエたちは各々のやるべき事、やろうとする事に専念しておけ」

 

「了解、報酬の件は頼みますよ当主様」

 

 一条カズキが報酬を支払うと約束したことで機嫌を良くしたクライスは先に去ろうとし、ヒロムは彼の態度に呆れながらも部屋を出ようとする。が……

 

「……」

(あのバカの事だ、どうせ……)

 

 

******

 

 

 とある田舎の村付近。

 

 周囲が森林で生い茂る道で誰かを待つかのように真助は腕を組みながら1人で立っていた。

 

 田舎の森林生い茂るような待ち合わせに選ぶような場所でも無い、まして野盗が現れても不思議のない場所に立つ真助、そんな真助が何かを待つように立っていると前方から1人の男が歩いてくる。真助はその男をよく知っている。

 

「ん?オマエさん……どうしてここに?

たしか武上美琴を母親たちのもとへ送り届けて……

「1つ聞きたくてな。アンタの行動理由について」

 

 真助の前から歩いてきたのは千剣刀哉、《斬鬼会》を倒すべく行動を共にし、そして真助の新たな妖刀を作製した男だ。刀哉 は何やら大きな荷物を持って歩いていたが立ち止まるとその荷物を下ろし、何故真助がここにいるのかを問おうとするがそれを遮るように真助が先に彼に向けて質問をした。

 

「アンタはオレと美琴が絡繰呪装機と戦っている最中に都合よく現れた。そしてオレや美琴に《神災 》の事を話し、アンタはオレが求める妖刀を作ろうと手を貸してくれた」

「タイミングについてはオレも驚いていたよ。まさかオマエさんたちが戦闘中のところに遭遇したのだからな」

「違うだろ千剣刀哉?アンタはずっと《斬鬼会》の核心を追い続けていた。妖刀を求めるオレが渦中に入ってきたのを知ったことでオレを利用した、そうじゃないのか?」

 

「……何故そう思う?」

「否定しないってことはそうなんだな?」

 

 真助の言葉を聞き返した刀哉だったがそれが真助に答えとして捉えられると少し間を開けてため息をつき、観念したかのように刀哉は真助が聞きたいであろうことを話し始める。

 

「……《一条》は《十家騒乱事件》の解決後に10ある名家うちの7つが陥落したことを受けて調査を行った。その結果として陥落した名家7つの中のいくつかが不当な金銭の横流しや秘密裏な国外への流通を行っていたことが判明した。《斬鬼会》はオマエさんたちの解決した事件の黒幕たる《十神》に加担したとされる《三日月》の家が刀剣の横流しをしたテロ組織の1つであり、《十神》と《三日月》の陥落後に妖刀の封印にまつわる情報が狙われるようになった」

「だから妖刀に詳しいアンタが選ばれたのか?」

 

「それもあるが1番の理由は刀剣を生む刀鍛冶の職を持つオレが生み出したものがヤツらに悪用されていたということだ。《センチネル・ガーディアン》になる者としてテロ組織に自身の生み出した物を利用されているのを見過ごすのは責任問題に発展するだろうと指摘されたこともあってオレは解決のために動いた」

 

「聞き方を変えるが何でオレに手を貸した?オレの妖刀探しとそれは無関係だろ?」

「《斬鬼会》の探しているものがオマエさんのかつての愛刀たる《血海》の砕けた刀身の欠片だったというのもあるがオマエさんが新たな刀を探してると《一条》から軽く聞かされていたからだ。オマエさんが妖刀を求め動けばヤツらも動くし、オマエさんが新たな刀を手にすればヤツらを壊滅させられると思ったからこそ頼りにさせてもらったんだ」

 

「オレがアイツらに負けるとかは思わなかったのか?」


 微塵もなかった、と真助の言葉に対して簡潔に答えると刀哉は真助が《斬鬼会》に負けることは無いと思っていた理由を明かした。

 

「オマエさんは《十家騒乱事件》を解決に導いた1人で日本を解放した戦士、一時の感情で願望を叶えようと企み動く輩に負けるはずはないと思っていたさ」

「……そうかよ」

 

「さて、オマエさんは新たな妖刀を手に入れてオマエさんと因縁のあった男と共に《斬鬼会》は潰えた。ここに来る理由が今の話なら終わりでいいな」

「いいや、これからしばらくはアンタについて行く」

 

「何?」

 

 真助の言葉に刀哉が聞き返すと真助は右手に黒い雷を纏わせながら1点に集めるとそれに形を与え、形を与えられた黒い雷は刀の形を得ると妖刀《狂鬼》へと変化して真助の手に握られる。

 

 新たな妖刀《狂鬼》、それを手にした真助は刀哉に同行しようと考えている理由を彼に話していく。

 

「コイツにはまだ秘められてる力がある気がしてな。それを確かめるためにはオレより妖刀に詳しいアンタに頼るのが効率的だと考えたし、まだヤツらが集めて隠してる欠片が残ってんならそれを集めてコイツと合わせて妖刀としてさらに完成させたいんだよ」

「それほどの力を得ながらまだ望むのか?」

「この先のことを考えればこそだ。それにアンタ、これから残党狩りに行くだろ?《斬鬼会》の幹部と弥勒は死んだがそいつらを崇拝してたやつらは今もどこかにいるだろうし《神災》を完成させるためだけに拐われた刀鍛冶たちを見つけなきゃならないんじゃないのか?」

 

「……お見通しだったか」

「そんな気がしただけだ。こっちにとっても妖刀探しで因縁が出来た敵の残党、なら一緒に潰すのもおかしくは無いだろ?それに残党狩りに行くんならオレとしても修行のついでになるから好都合だ」

「そうだな。そうか……いや、オマエさんがそうしたいなら止める理由は無いな」

 

「なら、しばらくよろしく頼むぜ」

 

 こちらこそだ、と刀哉は真助に言葉を返すとどこからともなく刀を出現させて装備し、刀を手にした刀哉は真助の隣に並ぶなり彼にここでの目的を伝えていく。

 

「数日前にここに刀鍛冶と思われる男を連れている集団が目撃された。集団の方は《斬鬼会》の残党で間違いないとされているし、もしかしたら拐われた刀鍛冶たちがここに集められているとなれば一気に救出するチャンスとなる」

「要は残党倒しながら拐われた人間探してたすけりゃいいんだな?」

 

「ああ、その通りだ」

「なら……始めようぜ、刀哉!!」

 

 妖刀を構えた真助は走り出し、真助が走り出すと刀哉は刀を構えながら走り出す……

 

 

 

 

 

 

 求めていた新たな刀、かつて手に持ち愛用していた妖刀とその後の仲間と戦うに手にした小太刀を合わせ 生まれた妖刀を得た真助。過去の因縁と決着をつけし真助は戦う力を得て敵を斬り伏し、そして今、彼は更なる未来へと進むべく駆け出した。

 

 彼の走る先にあるものは果てなき道の先にある強さか、それとも終わりなき道の先で待つ強さなのか。その答えは、この先で戦う彼のみが知ることとなるだろう。

 

 

 

ー終ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの廃墟

 

 

 そこに怪しげな人物がいた。

 

「……さて、そろそろ動くとしようか」

 

 怪しげな人物はわざとらしく足音を立てながらゆっくりと歩き進む。そのすぐそばには血塗れの遺体が転がっており……

 

 

 この怪しげな人物は、果たして……

 

 

 

 『次回外伝ヲ待機セヨ』

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