六十四斬
真助に追い詰められた弥勒、今の真助に太刀打ちするにはもうこれしかないと割り切ったであろう弥勒は自身の持つ妖刀の柄に手を掛けながら立ち上がり、立ち上がった弥勒は妖刀を強く握ると全身に闇を纏い始める。
「やっと本気か」
「……キミのことを見誤っていた、なんてつもりは無かったがまさかここでこれを使わされることになるとは思わなかった」
「なんだ？言い訳か？」
「そうだな、言い訳だ。キミのことを甘く見ていたことは認めている」
「ならさっさと……
「だが、コレを抜かなかったのは甘く見ていたのとは話が違う。コレを抜かなかったのは……まだ抜くべき時じゃなかったからだ」
「あ？」
「この《神災》は完成したとはいえ不完全、かつての世界を破壊しようと猛威を振るいし時の力を引き出すにはまだ時間が必要になる」
「何の話してやがる？そいつは完成したって言って……
「妖刀としての形でなら完成してるさ。だが……真価を発揮するには程遠いというだけだ」
「はぁ？何言っ ……」
『妖刀《神災》の力はあくまで鞘の外に出た時のみ発動する』
弥勒の言葉に対して疑問を抱きながら言い返そうとした真助は弥勒の言葉を思い出し 、その上で真助は妖刀に触れた途端に現れた闇についてある疑問を抱いてしまう。
「……おい、その闇は何の力だ？」
「何、とは？」
「オマエの纏う禍々しいその力は完成した妖刀の使い手として得た力、だから妖刀無しでもその力を使えるんだろ。ならその闇は何だ？オマエはまだ自分の妖刀に触れただけで抜刀していない、触れた途端に現れた闇は何だ？」
「……なるほど、すごいねキミは。この闇について気づくなんてね」
すごいね、と弥勒が一言言うと闇は弥勒の全身から溢れ出るようにして強く大きくなっていき、闇が強くなる中で弥勒はこの闇が何なのか明かすように真助に話していく。
「この闇は生み出された《神災》の怒りそのものだ。不用意に妖刀の造形に手を出したが故に数々の妖刀の中に眠っていた呪いと闇を受け継いだ《神災》が私に向けてそれを代弁しようとしているのだよ」
「代弁？」
「この怒りを収めたいがためにキミを利用したがそれでもこの怒りは収まらないらしい。だから少し……この怒りを利用させてもらうことにした」
弥勒が《神災》の柄を強く握ると強く大きくなり続ける闇が弥勒の全身を飲み込み 、闇に飲まれた弥勒がその中で禍々しい気を強く放出させると真助が自身の目を疑いたくなるようなことを引き起こしていく。
闇に飲まれ禍々しい気を放つ弥勒はその身に触れる闇を肉体に 同化させるかのように禍々しい気を用いて闇を強引に体内へと取り込ませ、闇を取り込み続ける弥勒は体表に蛇にも見えるような紋様を浮かび上がらせ、さらに額に鬼を思わせる角が2本現れ、そして瞳の白と黒が反転すると弥勒の体は禍々しい気と共に闇を強く纏い始める。
「まさか……妖刀に肉体を寄越したのか!?」
「いいや、我が妖刀の怒りを借り受けているのさ。この怒りを受けたことで私はキミに……オマエに近づくことが出来た」
「あん？今のオマエとオレが同じって言いたいのか？」
「いいや、そうではない。ただ……これで私も妖刀に選ばれた者としてオマエと対等に戦える!!」
《神災》の怒りを宿したとされる弥勒が動き出すと彼は真助へと一瞬で迫り、弥勒の接近に反応出来た真助が黒刀を構えて 迎え撃とうとすると構えるよりも先に何かが真助を襲い吹き飛ばしてしまう。
「がっ……!?」
何が起きたか分からない真助は咄嗟に受け身をとって黒い斬撃を放って牽制しようとする……が、真助が受け身をとって黒刀を振ろうとすると弥勒はその背後に移動して 真助の攻撃から逃れてみせると右手に闇を纏わせながら素早く振いて真助の背に斬撃を受けたような切り傷を与えていく。
背に攻撃を受けた真助は痛みに襲われながらもそれを耐えると 敵のいる方へ振り向くと同時に黒刀を振って反撃しようとするが、弥勒は闇を纏わせた手刀で簡単に止めると弾き返してみせた。
「この、……!!」
(あの妖刀の怒りってのを取り込んだだけで人間の生身で放つ一撃が刀剣の攻撃と同格になってんのか!?)
「《神災》の怒り、甘く見ると痛い目を見るぞ!!」
弥勒の極端に強さを増した力に驚きを隠せな真助に弥勒は闇を纏った蹴りを食らわせて蹴り飛ばし、敵の蹴りを受けた真助の体は敵の纏う闇の影響か本来蹴りで負うはずのない火傷を負いながら倒れてしまう。
「……っ!!」
(妖刀の怒りが……闇の性質を書き換えたのか……!?)
「終わりだ」
火傷を負った真助が倒れる中で弥勒は闇を右手に強く纏わせると真助に向けてそれを解き放ってぶつけようとした。
急いで立ち上がり防がなければ、真助は慌てて 立ち上がろうとするが彼の意思に反するように斬甲との戦いからの連戦によって体が積んでしまっていた疲労が邪魔して立ち上がれずにいた。
「こんな、時に……
「そうはいかねぇな」
ここに来て体が先に限界が来たと真助が感じていると彼を救うかのように光が現れて迫り来る闇を消し去っていく 。
闇を消した光に真助が驚いているとその光の中から鎧を纏った青年が現れ、そして……
「少しだけ手を貸してやるよ鬼月真助」
