六十一斬
主様の正体を見抜いた真助はフードで隠れる素顔を暴こうと詰め寄るようにかつての友人の名を叫び、真助が真相に迫ろうとすると主様はため息をつくなりフードを被ったまま彼に尋ねていく。
「何故私が弥勒と呼ばれる男だと思った?キミの記憶通りなら彼はキミに殺されたはずだぞ?」
「ああ、オレが殺した。妖刀《血海》でな。死体も確認して花を添えて弔ったから間違いねぇけど……迂闊だったな」
「迂闊?弥咲にキミのことを話したことか?」
「武上美琴のじぃさんを利用したことだ。利用せずに殺しときゃオレだってオマエの正体は見抜けなかった」
「あんな老いぼれ1人でなにが分かるって言うんだい?」
「あのじぃさんは既に死んでいて呪具の中の悪意に操られていた。あの一件さえ無ければ……答えには辿り着けなかった」
「答え?」
「オマエの中には呪具が入ってるんだろ?オレに殺されたオマエは本来なら死ぬはずだったが体内の呪具が新たな生命装置となってオマエを蘇生したんだ。だから死んだはずのオマエは生きてられたんだ」
「……その話だとその弥勒とやらはキミに殺される前から体内に呪具を入れていたことになるんだがそれについてはどう説明するつもりかな?」
「《血海》のこと知ってたんなら呪具の事も知ってたとしてもおかしくはない。使う者を選ぶ妖刀とは異なり使う者が悪意と闇の呪いを受け続ける代わりに力を容易く得られる呪具……適応しなければあのじぃさんみたく傀儡になるだけだが適応すれば簡単に力が手に入る。あの当時、妖刀を手にしたオレと弥勒では力の差があったからな……妖刀と持ってたオレを殺したいならその選択をしてもおかしかねぇだろ?」
「……なるほど。全てにおいて裏付けるものを見つけていたか」
「違うだろ弥勒。オマエは……試してたんだろ、オレのことを」
主様の正体、それが弥勒であることと死んだはずの男が生きてる謎について考察を話す真助は主様が自分を試していたと言うと何故そう考えたのかを語り始める。
「わざわざ妖刀使い4人を差し向ける必要なんてなかった。矢如月が倒れた時点で砕千を撤退させてオレたちに悟られない場所で《神災》を完成させて黙ってその力でこの世界を壊せばよかったのにオマエはそうせずに砕千をオレにぶつけ、絡繰呪装機越しに語りかけ、そして弥咲と斬甲を差し向けた」
「忘れたのかな?私はせんと戦闘によって得られる実績を求めていたのだ。彼らの行動は……
「オマエらが集めた妖刀全てを束ねりゃその実績とやらは集めずに済んだろ?なのにそうしなかったのはオレがどう動くかをその目で見たかったからだろ?戦闘によって得られる実績なんてのはオマケ、オマエにとって本当に手に入れたかったのは弥勒を殺した妖刀使いとしてのオレの力の全てを把握することだったんじゃねぇのか?」
「……」
「そこまでしてオマエがやりたいこと……それはかつてオマエを殺したオレが手にする妖刀をオマエは完成させた妖刀で破壊した上でオレを殺すことだろ?違うか……弥勒!!」
ヤレヤレ、と主様は深いため息をつくと拍手をし、拍手をした主様は鞘を天へかざし、鞘がかざされると斬甲を巻き込むようにしてこの場で誕生した1つの刀が意思を持つかのように飛んで鞘へと納まり、鞘に納まった刀を腰に携えた主様はゆっくりと自身の素顔を隠すフードを外していく。
フードが外されるとその下からは白い髪の青白い肌の青年の素顔が現れる。顔の右半分は火傷を負ったかのような悲惨な状態で、残る左半分には額から 頬にかけて大きな切り傷の痕が存在していた。
青年の顔を見た真助は一瞬信じられないような表情を見せるもすぐに平常心を取り戻して殺気を秘めた目で睨み 、真助に睨まれた主様は不敵な笑みを見せながら真助のここまでの言葉について称賛していく。
「素晴らしいね真助。キミが私 の正体に気づき見抜くなんてね。あの覇王の下について腑抜けたかと思ったのに洞察力の高さは現在のようだね。まさか私の思惑の全てを把握して全て繋ぎ合わせて答えを見出すなんて流石だよ。まさか4人の妖刀使いだけでなく武上美琴の祖父まで何かあると読むなんてすごいよ」
「バカにしてんのか?」
「褒めてるのさ。キミは戦闘狂として強さを求める一面を持つ中で必要とあらば思考する力を持ち合わせているし妖刀を手にしても己を失わずに保つだけでなく妖刀を自らの意思で押さえ込み従える素質があるんだからね」
「そこまで分かってたんなら野望を阻止されることを想定して無いわけじゃないよな?ここでオレがオマエを殺せば何もかもが無駄に終わるんだぜ?」
「あまり甘い考えは持たない方がいいよ真助。キミは……今のオレを知る術が無いのだからね」
真助の言葉に対して不敵な笑みを見せながら返した主様……妖風弥勒の全身から禍々しい気が解き放たれ、禍々しい気が解き放たれると真助と空牙は見えない何かに吹き飛ばされて勢いよく倒れてしまう。
「ぐぁっ!!」
「完成した《神災》の力はあくまで鞘から外に出た時にのみ発動するもの。そしてこの妖刀を手にした者は……抜刀せずとも全てを破壊する力を宿せるんだ」
「手にしてしまえば……いいって事なのか……!? 」
「真助……完成させてくれた礼として、この力を味わせてあげるよ」




