五十九斬
妖刀を失った斬甲が消えずに存在している事に驚きを隠せぬ真助に更なる混乱を与えるかのように現れた《斬鬼会》の『主様』。主様の登場に対して真助は思わず黒い雷を纏いながら手刀を構え、空牙も真助に加勢しようとするが真助と空牙が戦意を抱く中で斬甲は主様に向かって叫ぶように問い始める。
「何故騙した!?鬼月真助が新たな刀を手に入れなければ、オレが勝つんじゃなかったのか!?アンタのあの言い方、あの言い方なら妖刀のことだとオレは考えたのに……どうして詳しく話さなかった!?」
「勘違いをしたのはキミだろ斬甲?私は一度も妖刀だと言っていない、その上で妖刀だと誤認識していたのならそれはキミの責任だ」
「んだと……!!」
「それでも私のせいだと責めたいのならば責めたまえ。キミの言葉などいくらでも聞いてあげるからね」
「まさか……こうなることも……!!」
「私の筋書き通りだよ斬甲。キミが不満を口にすることも、その矛先を私に向けることもそして……鬼月真助、キミの中に斬甲が妖刀の消失と共に消滅しないことへの違和感を抱かれてることもね」
斬甲の言葉を躱すかのように巧みな言葉で返した主様は早々に斬甲から真助へと話の相手を変えるように言うと彼の方を向き、名指しで話題にされた真助は何か思いながらも主様が口にした自身も疑問に思っていたことについて問おうとした。
「なら教えろ。どうしてコイツは消滅しない?これまでの妖刀使いは全員持ってた妖刀が壊れたら肉体も魂も消滅していた。なのにどうしてコイツだけは消滅しない?」
「斬甲に関して言えば彼は消滅しないのではなく消滅する必要が無いのだよ。矢如月や砕千、そして弥咲の消滅は《神災》の完成に必要な工程であったのに対して彼にも彼にしか出来ない事がある。それ故に彼は消滅せずに肉体も魂も保持されている」
「工程だと?オマエ、それが自分を慕い付き従っていた人間に向ける言葉か?」
「私の全ては《神災》とこの先に待っている戦国乱世の再来する未来だけ。彼らは私の理想、信じるものに共感して手を貸してくれたのだよ」
「妖刀使いにされた女は復讐のために志願したようだがな」
「ああ、弥咲の復讐対象はキミだったな。どんな気分だったか聞かせてほしいんだが……たまたま取った行動によって生じた結果の果てに憎悪が芽生え、その矛先にされた気分はどうだった?」
「……どうもこうもない」
「そうか、ざんねんだ。いい答えを期待していたのだけどね」
「そっちの質問に答えた礼に教えろ。4人目の妖刀使いであるそいつが消えない理由、オマエが言うそいつにしか出来ない事ってのは何だ?」
「人柱さ」
「……何?」
人柱、主様の口から出たその言葉を聞いた真助が聞き返すように一言口にすると主様は指を鳴らし、主様が指を鳴らすと突然天に4つの妖しい光の玉が現れる。
「アレは……」
「自壊した妖刀から放たれた光なのか?しかし何故……」
「がっ……あっ……」
現れた妖しい光の玉が何なのか真助と空牙が不思議に見ていると斬甲が突然苦しみ始め、苦しむ斬甲へと主様は近づくと右手に闇を纏わせながら斬甲の胸を勢いよく貫き刺す。
「が……っ……!?」
「私の求めるものを得るには人柱が必要になる。そのためにキミが器として選ばれた」
「う、器……だと……!?」
「新型として私が生み出した妖刀……《飛幽》、《破戯》、《不獄》、《真滅》はそれらが《神災》の完成のために必要な実績を集めるための道具でしかない。戦闘によって蓄積された実績を確かなものとするため、誰にも奪われたくないがために私はキミたち4人の妖刀使いには妖刀使いが倒されたことを他の妖刀使いに報せる防衛手段だと虚偽の情報を伝えたのだよ」
「まさか……」
「察しがいいな斬甲。キミはその妖刀の蓄えた実績をその身に内包して《神災》の贄となるべく選ばれたのだよ」
「ふ、ふざけ……」
「もう手遅れだ」
さよなら、と主様が冷たく告げると天の妖しい光の玉4つが一斉に斬甲に襲いかかると彼の肉体の中へと取り込まれていき、4つの妖しい光の玉をその身に取り込んだ斬甲は苦しみながらその全身を闇へと変異させながら主様の中へと取り込まれていく。
闇となった斬甲を取り込んだ主様は腰の2本の刀を抜刀して天に掲げると両方の刀に闇を強く纏わせ、闇を纏った刀は彼の手から離れると妖しく光りながら重なり合って1つになっていく。
「私の持つ妖刀は2本、片方は斬った相手の生命力を使用者の生命力に変換する妖刀《呪命》。そしてもう片方はこの時のために用意した新型の妖刀《無代》だ」
「まさか……」
「千剣刀哉と組んだところでキミは私の計画を止められなかった。なぜなら私の計画はキミたちが私の計画を阻止するために新型の妖刀を壊す度に進むように仕込んだものなのだから。すべては私の持つ《呪命》と《無代》が斬甲という器に集められた妖刀の力と闇を取り込み1つになるためにな」




