五十八斬
倒れた斬甲に背を向けた真助。4人目の妖刀使い、つまりは《斬鬼会》の東西南北の最後の門の名を持つ剣士を倒した真助が一息つこうとすると彼の宿す黒狼の精霊・空牙は呆れたような口振りで彼に尋ねる。
「魔力と能力を喰らう妖刀相手に最後の黒狼絶雷弾、アレが通用する見込みはあったのか?」
「ん?」
「たしかにヒロムの考えである『能力同士のぶつかり合いは力の強い方が主導権を握る』はそれを口にした本人とそれを信じる者たちによって何度も立証されてはいるがそれはあくまでの能力者の内包する能力でのみだ。なのにマスターはあろうことか妖刀の力に対してオレという存在を重ねて発動した能力で真っ向からぶつかろうとした……どう考えても無謀だったんだが強行したからには何かの見込みはあったのだろうな?」
「あー……見込み?んなもんはなかったぞ」
「なかっ……なかっただと!?」
「そもそもオレはあの《真滅》って妖刀の力を喰らう特性の全てを把握してなかったしな。あの妖刀が喰った力が何処に行くかを見定めたかったのもあったから試しに撃ったんだよ」
「馬鹿な真似を……!!その判断であの男に逆転の機会を与えたらどうするつもりだったんだ!?」
「逆転されることは無かったと思うぜ空牙。それに関してはここに来るまでで立証してるしな」
「立証?」
「東門、西門、南門……先に倒した3人の妖刀使いにも言えたことだがコイツ含めた4人の妖刀使いに言えることは妖刀を使う人間としては精神面が未熟ってことだ。アイツら4人揃って不測の事態になると精神状態が不安定になってしまう傾向にあった。東門は力に頼る傾向が強く不利になると冷静さを欠き、西門は《號嵐》を抜刀した途端に形勢が変わるまでに一転、妖刀の力が段階式だった南門も空牙の登場と本能に身を任せた戦い方に切り替えた途端に押され、さっきの北門も空牙が霊刀になった途端に感情が不安定になってオレを一度追い詰めるほどの動きが途端に悪くなった」
「つまりそれらの事からあの男の妖刀が本来の力を発揮出来ないと考えたのか?」
「ああ。本来の妖刀が人間側に選択権を与えずに妖刀自らが選択権を握り選ぶのに対して新型とされる《斬鬼会》の妖刀が人間側との相性によって妖刀として機能するとしたら新型の妖刀ってのは使い手の状態に左右されるって考えたんだ」
「…… そういえば西門の大気を操る妖刀も《號嵐》が2本で1つと数えられる霊刀と知らなかったことによる動揺が見られてからはその力が十分に発揮されていなかったし、南門の女の幻覚も幻覚慣れがあるにしてもマスターが容易く見抜けるほどに弱化してたものな」
「ああ。だからオマエが霊刀に形態変化してアイツが動揺した時に博打に出ることに決めたんだ」
「……呆れた。博打も博打、とんだ大博打ではないか」
「そんくらいしなきゃ勝てないかもしれなかったからな。それに……オマエが霊刀になった時に受けられる恩恵を悟られたく無かったってのもある。戦闘での情報がヤツらの主様とやらに筒抜けになってるんならバレかねないからな」
それもそうだな、と真助の言い分について空牙が理解を示すように一言口にするとそれに重なるかのように斬甲が手にしていた真助により壊された太刀の妖刀《真滅》が完全に砕け散り、これまでのように天へと妖しい光を打ち上げる。
「……この流れか」
「この男も最後は主様とやらに利用され死ぬ運命のようだな」
妖刀が砕け散った後に起こることは何度も目にしてきた。妖刀が消えれば使い手も消滅する、それを理解している真助は空牙と共に4人目の妖刀使いの最期を見届けようという気持ちがあるらしく振り向くのだが、振り向いた真助と空牙は驚きを隠せなかった。
「なっ……!?」
「馬鹿な……!?」
砕け散った妖刀が闇となって消えていくそばで倒れる斬甲、その斬甲は消滅する気配もなく真助に負わされた傷から血を流しながらも何とかして立ち上がるとフラつきながらも真助を睨む。
「く、そ……たれ……が……!!」
「どうなっているマスター!!ヤツらの持つ妖刀は自壊した後に使い手も道ずれにする厄介な代物じゃないのか!?」
「オレに聞くなよ空牙!!これまでの流れならそのはずなのに……コイツには何か特別なもんがあると考えるしかねぇだろ!!」
(どうなってやがる!?これまでの流れからしたらコイツが消えるのはおかしくもないのに何で消えない!?)
「ふざ、けんな……主様……!!
テメェ、オレたちを騙したのか……!!」
「騙した……?おい、それって……
「おや、斬甲。どうやら気づいたみたいだな」
斬甲の『騙した』という言葉を真助が疑問に感じて尋ねようとするとどこからか声が聞こえ、声がした方に真助が体を向けるとそこには2本の刀を腰に携行したフードを深く被る黒い衣装族の人物がいた。
「オマエは……」
「こうして会うのは初めましてだな鬼月真助。私は《斬鬼会》を従える者……皆からは主様と呼ばれている存在だ」




