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五十七斬


 太刀の妖刀《真滅》を手に持ち自らの勝利を確信していた斬甲のその確信を覆すかのように精霊・空牙が変化して生まれた黒刀……霊刀《空牙》を手に構える真助。

 

 黒い刀身の刀、その刀を目にした斬甲は驚きと動揺を隠せぬ様子を見せ、斬甲の精神状態が不安定なことを確認した真助は黒刀を構えながら自身の持つ黒刀について話していく。

 

「空牙はオレの戦闘を支援する単なる精霊じゃない。空牙はオレの中の本能を開花させる力を秘めた精霊であり、オレの求める力となる存在だ」

 

「ありえない……!?

精霊の存在は認識していた、だが……精霊が刀になるなんてありえない……!!」

「ありえないなんてことはない。そもそも空牙は半年程前にオレの中に宿った精霊、宿る過程でこの空牙はオレの能力とオレの力を高められる力を秘めた。それがこの黒い霊刀の姿だ」


「精霊がオマエの力に適した形で宿ったと言いたいのか……!?」

「簡単に言うならそうなるな」

 

「ふざけるな……!!そんなことあるはずが無い……!!

オマエたちは……どうして恵まれた人間はオレたちが求めるものをそうやって簡単に手に入れられるんだよ!!」

 

 真助の言葉を聞いた途端に斬甲の態度が急変し、どこか余裕のある落ち着きの中に殺気を内包していたのとは程遠い怒りと不満に溢れたようなものを感じさせる斬甲は妖刀を強く握ると真助を倒そうと斬り掛かるが、真助は落ち着いた様子で黒刀を構えると斬甲の攻撃を容易く防いでみせた。

 

「なっ……《真滅》の刀身に触れても魔力が削げないだと!?」

「オマエ、自分の言葉忘れたのか?その妖刀は周囲の魔力と能力を喰らって力に変えんだろうが」

「そうだ!!ならばその刀も……

「これは能力では無いし魔力の塊でもない。精霊という存在がその姿と形を変えただけ、そしてその精霊もオレの魔力を得て実体を得ている生命だ。オマエの言う削ぐ喰らうってのは受け付けねぇんだよ」

 

「ふざけ……

「それよりオマエ、そっち側……持たざる者だったんだな?」

 

「何?」

「恵まれた人間、その言い方から簡単にオマエが持たざる者の側だってことは分かった。能力を持ってない、能力が無いことで蔑まれるなんて事は多々あるがオマエの場合は能力の異質さ故に忌避された感じだろ?その《鬼魂》って力の異質さが原因による、な」

 

「黙れ……!!だったら何だって言うんだ!!オマエもてオマエもアイツらと同じことを言うのか!!」

「別にとやかく言うつもりは無い。オレは持つ者持たざる者の枠組みなんて気にせず己の欲望、本能に身を委ねて血の道を歩いてるだけだからそんなものに興味は無い。けど、持たざる者と蔑まれ人としての尊厳も奪われるような烙印を押されても尚這い上がり全てを覆した人間をオレは1人知っている。だからこそ今のオマエに言えることがある」

 

「オレのことなど分からないオマエに何が言えるって言うんだ!!」

「ならハッキリ言ってやるよ……今のオマエの事なんざどうでもいい!!」

 

 真助は黒刀を勢いよく振って一閃を放つと斬甲の妖刀を押し返すと共に彼を吹き飛ばし、真助は黒刀を強く握ると吹き飛ぶ斬甲へと一瞬で迫って連撃を放っていく。

 

 吹き飛ばされた斬甲は立て直すと妖刀で真助の連撃を防ぎ止めるが真助は連撃を止めることなく放ち続ける中で斬甲に向けて言葉をぶつけていく。

 

「オマエが何者なのか、どんな人間なのか、何を知ってるかなんざ戦いにはどうでもいい!!戦いにおける理解なんざ血を流し合えば自然と成されるもの!!剣士ならば刃を交えれば全てを諭せるほどに通じ合える!!」

「オレには何も伝わらない!!そんなものは!!」

「オレには伝わってんだよ……オマエの覚悟、意思の無さが!!」

 

 真助は黒刀を強く振って一閃を放つと斬甲を妖刀ごと吹き飛ばし、斬甲が吹き飛ばされる中で受け身を取ろうとすると真助は黒刀に黒い雷を強く纏わせるとそのまま振り上げる。

 

「無駄だ、能力はオレの《真滅》には……」

 

 真助が黒刀に黒い雷を纏わせるのを目にした斬甲は妖刀を構えると同時に彼の黒刀が纏う黒い雷をその力で奪い喰らおうとする……が、斬甲が妖刀を構えても真助の黒い雷は先程までのように斬甲のもとへ流れようとしなかった。

 

「な……」

「いい事教えておいてやるよ。これはアイツの理論にしてオレたちが何度も証明してきた確かな理……『能力同士のぶつかり合い

は力の強い方が主導権を握る』、今の時点でオマエの妖刀よりオレたちの力が上になったって事なんだよ!!」

 

 真助は地を蹴ると高く飛び、高く飛んだ真助が斬甲に向けて一閃を放つかのように黒刀を振られると黒い雷は黒刀から解き放たれる中で分裂するように無数の狼の頭の形となって斬甲に向かって飛んでいく。

 

「喰らえ……黒狼絶雷弾!!」

 

 狼の頭の形を得た黒い雷は雄叫びのような轟音を鳴らしながら斬甲に迫ると一斉に噛みつき、斬甲に狼の頭の形となった黒い雷が噛み付くと炸裂して斬甲に致命傷を与えていく。

 

「がぁぁぁぁあ!!」

「これで……終いだ!!」

 

 黒い雷の炸裂で致命傷を負った斬甲が血だらけになって叫ぶ中で真助は斬甲へと迫ると黒刀を振り抜き、真助が黒刀を振り抜くと妖刀《真滅》が斬り砕け、そして斬甲の体に大きな斬り傷がつけられる。

 

「く……そ……」

 

 真助の攻撃を受けた斬甲は微かな声で呟くと倒れ、斬甲が倒れると真助は黒刀を精霊・空牙に戻し黒い痣をも元に戻すと背を向けながら敵に告げる。

 

「……オマエのことは何も知らないがこれだけは言える。オマエはヒロムを倒せる強さを得て満足してそこで止まってた、だからオレに負けたんだよ」

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