五斬
白髪の女を僅かな時間でも目撃したことにより真助の中には微かな疑問が生まれつつあった。
何者だったのか?何が目的だったのか?何故現れたのか?
考えたところで分からないことしかないのに、真助は僅かな時間しか目にしていない女のことが気になっていた。
そんな真助のもとへと電話に出るべく離れていたファウストが戻り、戻ったファウストは真助に何回か折り畳まれた地図を手渡そうとする。
「それは?」
「この地域の簡単な地図らしい。先程集落の者に貰ったのだが、この地域……雲禰村と森を抜けた先にある集落の彼岸村、そして2つの集落のどちらからも迎えるとされる孤島について記載されている」
「うんねい……ひがん……変な名前の村だな。聞いた事もねぇし」
「今では地図に乗るかどうか不思議な地域だからな。妖刀が封印されている地域というのは政府が世間にその存在を悟られないようにあやふやにする例もある」
「そのあやふやにしてるはずの地域に妖刀を封印してることが《斬鬼会》に悟られてんなら世話ねぇな」
「その世話ならない政府の尻拭いに派遣されたのが私なのだよ。私としては《斬鬼会》が何故こうも妖刀の在り処を容易に見つけ強奪出来ているかを探らなければならない。本来ならばオマエが連れ帰った2人を捕虜にして尋問なりしたかったのだが……片側は瀕死、片側は戦闘時のショックによる気絶で使い物にならん」
「そういうことなら事前に話しとけっての。オレは細かいこと気にして戦えるほど器用じゃねぇんだしよ」
「……そのようだな。それはそうと、先程カズキからの連絡があった。今後についての指示だ」
「一条カズキから?」
《一条》の当主からの指示、《一条》に仕えているファウストからそれを伝えられた真助は何かあると思ったのか真剣な面持ちで話を聞こうとし、真助が真剣な面持ちで話を聞こうとしているのを目にしたファウストは自らが受けた今後の指示について話していく。
「雲禰村と彼岸村、敵が片側の集落ではなく双方のどちらにも潜伏している可能性があるとしてオレはこの雲禰村の調査の実行と警戒を引き受け、オマエは一足先に彼岸村に向かって敵がいないか探ってくれ」
「敵の区別の付け方は?」
「カズキの伝言だ。『戦闘種族なら戦闘種族らしく気配を感じ取って見分けろ』とのことだ」
「要するに怪しい野郎は潰せってことか。いいね、分かりやすくて」
「それと、数時間後にカズキの派遣した増援が彼岸村に到着するらしい。以降の彼岸村での行動はその増援の伝言を受けた上で行ってくれ」
「あいよ。任せとけって」
次なる指示が伝えられた、真助が取るべき行動は決まった。が、そんな真助の頭の中には別の考えがあった……
そう……
強いやつがいるなら倒してやる、と……
******
別の場所……
《一条》の屋敷
一条カズキが執務を行っている部屋にある人物が訪れていた。
ボサボサの赤い髪、ピンク色の瞳を持った少年が部屋に入ってくるとカズキはペンを置き、座っている椅子の背もたれに少し深くもたれかかると彼に向けて尋ねた。
「……貴様の方からここに来るとはな。報告が入ったということか?」
「ウチには常軌を逸脱した情報収集の天才がいるからな。今回のオマエの独断に関しても耳に入ってんだよ」
「なるほど。流石は今の日本を守る最強が集まると噂されている《天獄》のリーダー、姫神ヒロムだ。部下を動かすのが上手いな」
「部下じゃない。仲間だ。
その仲間もたよろうにも各々動き始めてるんだがな」
「例の件……《鮮血団》の件は解決したんだろ?」
「ひとまずはな。戦闘種族たる《月閃一族》を再現しようとして生み出された強化人間によるテロ組織、《鮮血団》による戦闘種族の末裔のシオンを狙った一連の騒動はシオンの活躍による黒幕の撃破で終わった」
少年……姫神ヒロムが語る《鮮血団》、それは1日、2日ほど前に起きた事件の主犯組織である。ちょうど真助が妖刀探しに旅立った直後に起きた次元だが、毒ガスによる住民の人質化やヒロムの仲間であり戦闘種族の純粋な末である紅月シオンを狙った計画的な攻撃が世間を混乱に陥れようとしたが、シオンの奮闘により幕を閉じ街は平和を保たれることとなった。
その事件の解決した今、ヒロムは真助の不在について何やら意見があるらしく、カズキのもとを訪れていた。
「《十家騒乱事件》の解決の立役者にして今や日本の重要な防衛戦力と認識されている貴様が手を貸したとはいえ紅月シオンは見事に解決したのだな」
「それは別にいい。真助の件だ。
アイツを勝手に連れ出したのは事実か?」
「話せば長くなるが……どうだ?
少しコーヒーでも飲むか?」
「……長話をする気は無いが、話してくれるならよこせ」