四十六斬
少し前に話した『感覚』の話をした昔の話の続きをする。
あの時の話から数日後、オレはヒロムが見学する中で仲間の1人である黒川イクトによる指導を受けていた。
黒髪に所謂美形と言われる整った容姿のイクトだが見た目に反して中身は空っぽに思えるほどに軽い人間だが、戦闘における技術はヒロムも認めるほど。さらにイクトは情報を集めるという点においてはヒロムをも凌ぐほどの収集能力を持っている。
そんなイクトは幻術を扱える。コイツの扱う幻術は他の能力者と異なり幻でありながら現実と錯覚するほどの高等なものであり、他者の幻術を取り込み支配するほどの力を持っているとされている。
そのイクトの幻術に対してオレは対幻術用の戦術と幻術の対処法について学んでいたわけだが……
「違う違うって真助。そんな頭ごなしに動いても幻術からは抜け出せないって」
「あぁ?んでだよ?」
「今の真助は幻術っていう海中深くに沈んでるのに無駄にもがいてるようなもの、最適な抜け出し方があるのにそれをせずにジタバタ暴れてるようなものだってこと。だから落ち着いて……」
「力で押し返せばどうにか何だろ?幻術空間だろうと脆い部分があるならそこを突けばいいって話だ」
「違うってバカ!!何、野蛮なやり方しか理解出来ない思考してんの!?てかこの会話7回目なんだけど!?」
「オマエの説明が悪いからだろ?」
「オレのせい!?真助の理解力の問題じゃなくてオレのせい!?」
「てかオマエくらいの高度な幻術でもなきゃ力比べでどうにでもなんだろ?なら……
「なら真助の考え方、イクトのやり方の両方を組んだ最適な手段があるならどうする?」
イクトの教えがいまいちピンと来てないオレが反論しようとしたその言葉を遮るようにヒロムは話し、ヒロムの話した方法とやらが気になったオレはひとまずそれを聞くことにした。
「んだよ、んな方法あんのか?」
「要は真助がイクトみたいな冷静な判断を嫌うところに問題があるんだからその点をどうにかすればいい。オマエは時間をかけてやるのが面倒でイクトは効率よく的確に見抜くことを重視したい……それなら2人のやり方を同時にやれるやり方をオマエが覚えれば済むだけだ」
「んな方法あんのか?」
「オマエが抜け出すんじゃなくて敵を引きずり出す、さっきのイクトの例えで言うなら海中深くに沈んでるのならそこに適応した上で敵をその中に引きずり込んでオマエの力を喰らわせればいい」
「……どういうことだ、つまり?」
「幻術から抜けるんじゃなくて幻術に適応して術者の存在を見つけ出して仕留める、オマエが望む手っ取り早い方法だろ?」
いまいちヒロムの言いたいことが分からなかった。イクトとは言ってることが違うのは分かったけど、結局オレとイクトのやり方とどう異なるのかオレには理解できなかった。
オレが理解出来ずにいるとヒロムのやり方を聞いたイクトがそのやり方についてある指摘を始めた。
「大将のやり方って簡単に言うなら自分から相手の術の中に入ってしまうってことだろ?それって言い方変えたらかなりリスキーじゃないか?いくら真助が戦闘慣れしてるにしても自分から幻術の中に入るのは下手したら自殺行為になりかねないのにさ」
「ただの人間ならそうかもな。けど真助はオレたちの中で気配を感知する事に長けているし妖刀使いとしての経験から考えればそのやり方が1番性に合うと思うってだけだ」
「けど大将……」
「それに真助は理屈やら常識で縛られるようなタイプじゃない。コイツはその身を本能に任せる方がその力を発揮出来るタイプだ」
だから、とヒロムはオレの方を見るとここまでのイクトの幻術指導でのイクトとの意見のすれ違いに対する答えをオレに伝えてくる。
「無闇に壊さず見極めろ、その果てでオマエの中にある本能に従え。オマエの中にある本能は戦いの中で必ず答えを導き出すだろうからな」
『本能』、オレの中にあるそれに従えと言うヒロム。あの時はよく分からなかった、けど……
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真助の逆手持ちの刀による背後への突きを妖刀で防ぐ弥咲。真助の突然の攻撃に反応して防御した弥咲だったが、彼女は何故自分が背後から攻撃することが見抜かれたのか分からずにいた。
「何故……!?
貴方は私の術中にあるはずなのに、どうして本体である私を見抜けたの……!?」
「簡単な話、オレが強いからだ」
「ふざけたことを……!!
妖刀を持たない貴方が私に優るはずがないのに……!!」
「どうやらオマエには見えてないらしいな……いや、オマエの中の本能とやらが眠ってんのか?」
「何を……
「どうでもいいか。オレの中の本能はもう、オマエを倒す道筋をオレに示してくれたからな!!」
逆手に持つ刀を素早く持ち直した真助は振り向くと同時に一閃を放って弥咲を吹き飛ばし、吹き飛ばされた弥咲は妖刀でそれを防いで直撃を免れると受け身を取って構え直すが、真助はそんな彼女に刀を向けると告げる。
「オマエはオレに勝てない……今のオレは、オマエ程度じゃ止められねぇ!!」




