四十二斬
妖刀《血海》を真助が手にしたあの日、真助はたしかに殺人鬼とそれの被害に遭って殺害された一家を目撃している。
その中に娘が血だらけで倒れていたのは記憶にある。だが真助はあの現場を見て生存者がいるなどと思いもしなかった。
「ありえねぇ……!!あの惨状、あの悲惨な状態で生きてるはずがない!!あんな中で生きてられるとかおかしいだろ!?」
「ええ、普通ではありませんね」
「ならどうして……!!」
「私は人為的に生み出された命だからです」
「は……?」
「その反応は無理もありません。私は元々産まれて直ぐに病で亡くなった娘を取り戻したいと考えた両親によって大金を積まれて誕生したクローン、両親の理想を並べて造られた人造人間なのですから」
「人造人間……!?
だから死を免れたって言うのか!?」
「クローン故に両親が求め設計した強い生命力という要素がどういう因果か私を生き疑獄に誘ったのよ。おかげで私は絶望するしかなかったわ。両親の身勝手な欲望のために産み出されたのにその親は死に、残された私に向けられるのは実の家族の親族・親戚から向けられる『偽物』という人間として扱おうともしない冷たい物言いと視線、いつの日からか私は家族を不幸にした人形と呼ばれるようになったわ」
「んなもん、殺人鬼の仕業だろ!!」
「事実からすればそれが当然、でも世間はクローンを許さない。私は生命の冒涜として忌み嫌われることとなった。そんな私の中にあったのは……私の仇を殺してくれた貴方の姿だった。貴方の存在だけが私に生きる意味を与えてくれた。そう……貴方を殺したいという欲望だけが私を生かしてくれ」
「歪んでやがんな……そんなことしても帰ってこないんだぞ!!」
「そんなことは分かっています。ですがこの世界において誰かの命を奪えば必ず誰かに命を奪われる、私の憎悪を向けるべきものの命を奪った貴方の命を私が奪うだけのことです」
「その言葉……!?」
「これ以上の言葉は不要、貴方を殺して私の心を満たすだけです」
「……考え直せよ女!!死んだオマエの家族だって過去はどうであれ今はあの世でオマエの幸せを願ってるはずだ!!」
弥咲の話を聞いた真助は彼女の言葉に反論して現実を言い聞かせるかのように強く言いながら黒い雷の太刀で薙刀を押し返すと刀で反撃しようとするが弥咲は簡単に避け、真助の攻撃を避けた弥咲は薙刀を持ち直すと真助の現実を言い聞かすような一言に反論すると同時に自身の願望を明かしていく。
「もはや帰ってきてほしいとは思わないし屍人の願いなど知りません。私はただ仇を殺した貴方を殺して私の全てを仕切り直たいだけ、貴方の首を主様に献上して私の存在そのものを確かなものにして証明したいだけよ。妖刀によって導かれる戦乱の世界、そこで私は私の存在を否定した人間を否定するために」
「否定……?はっ、何だよ……ただの現実逃避か?」
「はい?」
くだらねぇ、と真助は黒い雷を強く纏いながら彼女に迫ると黒い雷の太刀による連撃を放ち、真助の放つ連撃を弥咲が薙刀で全て受け流すと真助はすかさず刀で素早い突きを放って薙刀を突くと真っ二つに粉砕して見せた。
「!?」
「存在意義とか理想とかくだらねぇ。オマエがどうしたいかだけ語ればいいものを長々と言葉並べてよ……つまらねぇわオマエ」
「つまらない、ですって……?」
「武器潰れて使いもんにならねぇんだからさっさと抜けよ……オマエの妖刀を!!」
黒い雷の太刀の切っ先を向けながら強く言い放つ真助からは殺気が放たれ、放たれる殺気を肌で感じ取った弥咲は彼の『つまらない』という一言に不満を抱きながら全身に異質な力を纏うと彼の言葉に従うかのように腰の刀を抜刀する。
「本来ならば貴方程度に使う必要も無い代物、先程の武器で済んだはずなのに……不愉快でしかありませんね。仕方ありません、ならば使うとしましょう。この……《不獄》の力を!!」
弥咲が抜刀した刀、新たな妖刀である《不獄》と呼ばれる赤黒い刀身の刀は異様な気を発すると彼女の周囲に無数の髑髏武者を出現させ、さらに彼女は闇を纏うと鬼を模したと思われる仮面を顔に装着する。
「髑髏武者を召喚しただと!?」
「これは私の願望を具現化させたもの、そしてこの妖刀はそれを可能とする一振。私の願望が尽きぬ限りこの一振は貴方には超えられない!!」
弥咲は纏う闇を強くさせると妖刀を掲げ、弥咲が妖刀を掲げると髑髏武者が一斉に動き出し、真助は二刀流を構え直すと迫ってくる髑髏武者を次から次に斬り倒していく。が、真助がいくら倒そうと弥咲の纏う闇から次から次に新たな髑髏武者が現れ、際限なく現れる髑髏武者を休むことなく倒し続ける真助は弥咲の持つ妖刀についてその力の正体が何なのか思考していく。
「あの妖刀……」
(あの女の願望を具現化するってんなら千剣刀哉の能力の上位互換ってことになるが本当に可能なのか?千剣刀哉は武具に限定された上で異空間に保存出来る権限がある訳だが……あの女はそれ以上のことを本当にやれるのか?妖刀を打ち直し新たに生み出すやり方で造られたあの妖刀、その力が本物なのか偽りなのか……)
「その全てを確かめるしかない!!」
真助は全身に黒い雷を強く纏うと二刀流による強力な一撃を放って迫り来る髑髏武者を一掃して弥咲に迫ろうとするが弥咲が妖刀を振ると彼女の纏う闇から大量の髑髏武者が現れて行く手を阻もうとする。
「貴方では私には勝てないわ。私はこれまで貴方の持てる力、技、戦術に至る何もかもを調べている。もう隠している手札が尽きていることも知っているのだから!!」
「言ってろ女!!オマエの妖刀、オレが潰してやるよ!!」




