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三十九斬


 呪具に飲み込まれ鬼と化した美琴の祖父・柳絃は呪具の破壊によって救い出されるもその命までは救えなかった。

 

 そして柳絃を救った真助は突然強い衝撃に襲われ自身の能力であるはずの黒い雷が暴発するようにして自らに襲いかかろうとしていた。

 

「こ、この……!!」

(クソが……無理やり力を引き出した代償が……こんな時に……!!

アイツのじぃさんを助けられたとはいえ、敵がまだいるかもしれないのに……こんな……)

 

「安心しろオマエさん、手を貸してやろう」

 

 真助が痛みに苦しむ中で刀哉は彼に向けて伝えると勢いよく手を叩き、刀哉が手を叩くと真助の四方を取り囲むように天から杭が飛んできて地に突き刺さり、四方に杭が刺さると杭はそれぞれを結ぶかのように一筋の光を放って陣を描き始める。

 

 さらに杭の末端から光の鎖が放たれるとそれは真助の体に巻き付き、四方から巻きついた光の鎖は真助の肉体を襲う痛みに呼応するように光り始める。

 

「な、何を……!!」

 

「少しだけ耐えろ鬼月真助!!

護光防術・災殺鎖陣!!」

 

 何が起こるか分からない真助が戸惑う中で刀哉は叫ぶと右手に光を纏わせると勢いよく地に叩きつけ、刀哉が地に手を叩きつけると真助を襲う衝撃と黒い雷の暴発の勢いが光の鎖を伝うように流れて杭を通じて地に逃げていき、衝撃と暴発による激痛が逃げゆくことで真助は苦しみから救われたのか表情が戻っていく。

 

 そしてしばらくすると真助を襲っていた衝撃と黒い雷の暴発は完全に収まり、光の鎖が砕け散ると真助の黒い痣は元々の右頬にあった状態の規模にまで縮小され、広がっていた痣が治まると真助は疲弊したかのように膝をついてしまう。

 

「痛みが……痣が……引いた……?」

「一種の防御術だ。痛みを肉体から逃がすのが目的とされる術だがオマエさんの能力にも効果があってよかったよ」

 

「……助かった」

「気にするな。妖刀や霊刀を邪な心で手にして暴走する輩もいるからそういう人間用にと覚えたものが役に立っただけだ。それに、礼を言うならこちらの方だ。武上柳絃の魂をよく救ってくれたな」

 

「……とはいえもう手遅れなんだろ?」

「時すでに遅し、と言うべきかもな。残念なことにオレたちは鬼と共に遺体を消すのを防げただけでそれ以上のことは出来んかったよ」

 

「……そうか」

 

 刀哉の術に救われた真助は何とかして立ち上がると少しフラつきながらも息を引き取った柳絃のそばで泣く美琴に歩み寄り、真助が歩み寄ってきたことに気づいた美琴は彼の方を見ることも無く感謝を述べていく。

 

「……祖父を苦しみから救ってくれたこと、感謝する」

「命は救ってない」

 

「そうするには手遅れだった。既に魂は死の域を迎えていた、ならば肉体だけでもこの地に埋葬してあげられるように戻ってきたのだから私としては有難いことだ」

「……そう、か。それで、どうするんだ?

さっきまで聞いてた話が呪具に操られてた事による出鱈目だったらオマエの父親は《斬鬼会》に手を貸し、じぃさんも内通してたって話は信用性が無くなって来る訳だが……

「当然、弔った後に私は2人に同行する。何故父が手を貸していたのか、何故祖父がこんな目に遭ったのかの真実を突き詰める」

 

「……そうか。オマエがついてくるなら止めねぇけどな」

 

 美琴の意志を聞いた真助は止めようとせずに彼女の意志を尊重しようとする言葉を返すと刀哉の方を見つめ、刀哉は頷くと真助と美琴に今後について話し始める。

 

「武上柳絃の遺体を埋葬後、ここを離れる。おそらく先程の戦闘で下にいる人間が騒ぎを聞いてやって来るだろう。一応は人目を避けてここに来ている身だ、もし目撃されたらオレたちが怪しまれることになるから自分たちの身のためにも撤退する」

「次はどこに行くんだ?ここに真実があると思って来たのにその次なんてあんのか?」

 

「次は《斬鬼会》とは無縁だ」

 

「あ?どういう……

「鬼月真助、オマエさんの妖刀をオレが作ってやる」

 

「オレの妖刀を……!?」


 真助のための妖刀を作る、刀哉の口にした言葉に驚きを隠せない真助が聞き返すように言うと刀哉はその理由と共に敵の動きについてのある予想を話し始めた。

 

「ここでの戦闘の一部始終が《斬鬼会》の主様とやらに何かしらの術で知られているとすれば敵はオマエさんの今の力を危険視して攻めてくる。オマエさんがここに至るまで手の内を小出しにして全て晒すことを避けてきたことが情報不足によって敵の動きを活発化させなかったが、さっきのでオマエさんの手の内にある程度の底が見えたと判断されれば残る南と北の門を冠する主様の部下が用意を済ませて攻めてくる危険性が出てきたからな。敵は妖刀を持つ、そんな相手に妖刀無しでここまで太刀打ちしてきたオマエさんが妖刀を手にしたとなれば敵も勝ち目はなくなるだろうから……ヤツらを根絶やしにするためにも、継ぎ接ぎの妖刀ではなく純粋な妖刀を使うオマエさんの真価を見せつける必要があるってわけだ」

「純粋な妖刀……」

 

「オマエさんの戦い、力を見てオマエさんの事は把握した。あとはオレが手を貸してやるだけだ」

 

 探していた新たな妖刀、真助の求める妖刀を手にする瞬間が迫りつつあった……

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