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三十八斬


 右頬の黒い痣は物心ついた時から存在している。最初はたしか小さかった、ガキの頃に手で隠そうとすれば隠れる程度の痣だった。

 

 医者が診察した結果に出された診断が病的なものではなく能力による副作用の可能性があると聞かされた。この時にオレは自分の中に黒い雷の能力である《狂》を所有していることが判明した。

 

 《狂》という名は別に医者が名付けたとかオレの面倒を一時まで見てくれてた大人がつけた名前じゃない。幾度となく戦いを繰り広げ、この黒い雷を使い続ける中でオレが自分で名付けて自分でそう呼び始めた。

 

 命名の理由は簡単だ。戦闘訓練を受けるようになり、能力を使うようになってから黒い痣はオレの右頬で拡大し、気づいた時には右頬と首の辺りにまで広がるようになった。気づいた段階ではその程度で済んでいたが、いつからか能力を極端に使うとその痣が顔の右半分と右腕……上半身の右側を染めるかのように広がることがあった。ここまで広がると不気味だがある程度日が経てば収まり、そして右頬と首の辺りの範囲の痣に戻っていく。

 

 これを何度か繰り返すうちに広がる前のこの右頬にある状態が正常なものだと思うようになり、過度な能力の発動さえ避ければ広がることも無くなった。十五、六の歳になった時には能力を過度に使ってもそこまで広がることも無く能力を制御してるのかと思ったが……

 

 半年くらい前の戦いの中でオレは仲間を助けるために能力を限界まで酷使し、その中で痣を右半身に広げるまでの負荷を起こす力を発動させた。結果として力に耐えられずオレは自滅して気を失って終わったが、この時オレは確信した……

 

 この《狂》の力を高めれば痣が広がり、その痣の広がりはオレの力が高める鍵でもあり、オレを苦しめる枷なのだと……

 

 

 ******

 

 黒い痣を顔の右半分と右腕にまで広げた真助は黒い雷の刀を構えながら鬼を見つめ、真助の高まる力を感じ取った鬼は真助の方を見ると闇を纏いながら真助に襲いかかろうと走り出す。

 

「やはり動くか」

「今度こそ……

「必要ねぇよ」

 

 鬼が走り出すと刀哉と美琴は迎え撃つべく構えようとするが真助はそれを却下し、2人の手出しを拒んだ真助は地を蹴ると一瞬で鬼へと接近して敵の顔面に蹴りを喰らわせる。

 

 接近から流れるように放たれた蹴りはその移動時の瞬間的な加速が上乗せさせられていることもあってかそれを受けた鬼は蹴り飛ばされて勢いよく倒れ、倒れた鬼は何とかして立ち上がろうとすると真助は鬼が立ち上がるよりも先に再度接近して頭を掴んで敵を持ち上げると軽く投げ、投げられたことで鬼が数秒無防備となったと同時に真助は黒い雷の刀で連撃を放って鬼を負傷させていく。

 

『がぁぁ……!!』

 

「まだ耐えられるよな?」

 

 連撃を受け負傷した鬼が痛みに悶えるような声を発する中で真助は冷たい眼差しを向けながら問うと回し蹴りを放って敵を蹴り上げ、蹴り上げられた鬼が抵抗も出来ずに飛ばされると真助は地を強く蹴って天高くに跳び上がる。

 

 跳び上がった真助は一気に加速するとその姿を消し、そして真助の姿が消えると鬼は蹴り上げられた先で四方八方から斬撃による攻撃を幾度となく受けて致命傷に等しい傷を負って地に落とされてしまう。

 

 鬼が地に落ちると真助が姿を現すと共に着地し、真助は着地すると鬼に冷たい眼差しを向けながら黒い雷の刀の切っ先を向ける。

 

 先程までは一手及ばなかった真助が圧倒的なまでに追い詰めている。苦戦を強いられる鬼は苦しそうに悶えながらも立ち上がると闇を纏い、鬼が立ち上がると真助は黒い雷の刀を強く握りながら体勢を低く構える。

 

「……まだやれるか。しぶとい野郎だ」

『殺……す。殺す……!!』

 

「さっき話してたのがじぃさんか(オマエ)なのかは気になるが、もうそんなこと言ってる暇もないよな?そろそろ決めないと……オレもオマエも終わりそうだしな」

 

 真助が言葉を口にすると黒い雷の刀は刀身を形成した雷を四散させるようにして消失してしまい、黒い雷を刀として形成・維持していた刀身のない刀も砕け散ってしまう。さらに真助の全身に衝撃にも似た激痛が駆け巡り、真助はそれによって一瞬よろけてしまう。

 

「ぐっ……!!」

『がァァァァ!!』

 

 真助がよろけた、それを好機と見た鬼は叫ぶと同時に闇を纏うと駆け出し、駆け出した鬼は真助に迫る中で両手の爪を鋭く尖らせて彼の肉を抉り裂こうと攻撃を仕掛けようとした。しかし……

 

「……オレの勝ちだ」

 

 よろけたと思われた真助の右手は黒い雷を纏うと轟かせるかのようにその力を強くさせ、黒い雷を強く纏った右手を前に突き出すようにしてかまえた真助は鬼の胸部を見つめると姿が見えなくなるほどの循環的な加速で走り出すと一気に鬼を追い抜き、真助はその一瞬の交差の瞬間に右手で鬼の胸部を穿ってみせた。

 

『が……』

「安心しろ、もう終わりだ」

 

 鬼に向けて冷たく告げた真助が右手を天に突き上げるとそこには柳絃の胸部に埋め込まれていたものと同じ呪具があり、真助は黒い雷を右手に集めながら力を入れるとそれを握り潰した。

 

 呪具が破壊されると鬼は苦しそうに奇声を発しながら闇と共に消えてしまい、闇と共に鬼が消えると鬼がいた場所に美琴の祖父・柳絃で現れて地に倒れる。

 美琴は慌てて駆けつけるも柳絃に触れた時に全てを悟った彼女は思わず涙を流してしまい、それを見た真助と刀哉は何も言うことも聞くことも無く静かに見守ろうとした、が……

 

「が……ぁぁぁあ!!」

 

 瞬間、真助の全身に強い衝撃が駆け巡り、さらに黒い雷が暴発するように真助に襲いかかろうとした。

 

 

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