三十六斬
美琴の祖父の胸部に埋め込まれるようにして姿を見せる禍々しい色の水晶のようなものを目にした真助たちは驚きを隠せず、何か知ってるであろう刀哉は美琴に向けて叫んだ。
「武上美琴!!その男から離れろ!!」
「……っ!!」
刀哉の言葉を受けた美琴は慌てて後ろに飛んで距離を取り、真助は刀哉の言い方から何かあると察すると刀に黒い雷を強く纏わせながら絡繰 呪装機を一掃して刀哉と彼女のもとへと駆けつける。
敵を一掃した一撃を放った刀が壊れると真助はそれを投げ捨て、刀哉は美琴の前に立つと新たな刀を生み出して真助へと投げ渡し、刀を受け取った真助は美琴の前に立って構えて祖父に切っ先を向ける。
絡繰呪装機は全滅、残るは美琴の祖父だけだが胸部に見えるものが何かわからない真助と美琴は刀哉にアレが何かを問おうとした。
「おい、アレは何だ?」
「千剣刀哉、祖父の中にあるアレは何なの?」
「……その前に武上美琴、1つ答えて欲しい。オマエさんのじぃさんの名前は?」
「祖父の名前?武上柳絃だけど、それが何?」
「……そうか、そういうことか」
「おい、勝手に納得してんなよ?分かってんなら……
「村正天明の記し残した書物に誤りがあったということだ。武上美琴の祖父、柳絃は《神災》について記された破滅を望む側の書物で知識を得たと思っていた。だが事実は違う……武上美琴の祖父は知識を得たのではなく、知識を持っていたんだ」
「あん!?何訳の分からんことを言ってんだ!?」
「確認を後回しにしたオレの責任だが……武上柳絃って人間は故人であることは間違いない。そして、あの胸にあるアレは呪具……それも魂を別のものに移し替えることを目的にしたとされる代物だ」
「「!?」」
「恐らく肉体が武上柳絃で中にある魂はあの呪具の中にある呪いの意思だ。つまり……」
「見た目はコイツのジジィで中身は別人ってか?」
「そ、そんなことありえるの?」
「ありえる。呪具は呪いと憎悪が糧になり生まれることもある。その2つが強く濃く混ざることで魂が確立されたとなればありえる。呪具は呪いに適応するものを主に選ぶ性質があると同時に適せぬものに対してはその心を壊して肉体を奪うという性質がある」
「けど呪具は武具なんだろ?なのにアレは武具にもならないような飾りなのは何でだ?」
「それも村正天明の書物で読んだことがあるが、《神災》の使い手に味方するものの中には使い手が現れることの無い呪具を生み出そうとしていたと書かれていた」
「……ではその狂った人間の遺した呪具が祖父を洗脳したと?」
「違ぇだろ千剣刀哉?もうジジィは……」
「希望を全て捨てるならあの人は既に亡くなっている。武上美琴のメイスを老体で弾けるほどの力を発揮するのなら、肉体が完全に呪具に乗っ取られていると考えるべきだろうな」
美琴の祖父は呪具によって既に亡くなり、そして呪具が肉体を乗っ取ったと刀哉は語り、刀哉の言葉を受けた美琴が祖父の死に悲しみを感じる中で真助は刀を構えると刀哉に祖父とその肉体に埋められた呪具について確認のための質問をする。
「……あの呪具を壊せばコイツのジジィは救われんのか?」
「救われる、とは?」
「もはや死んでるとしてもこのまま操られんのは命を冒涜されてんのと変わんねぇ。だからせめてもの救いとしてアレを壊して弔ってやるのが今やれることになるんじゃないのか?」
「鬼月真助……」
「……たしかにあの呪具を壊せば遺体を操る呪具の負の力は消えて開放される。だが、簡単じゃないぞ?」
分かってるさ、と真助は全身に黒い雷を強く纏うと右手に刀を構え、そして左手に2本1式とされる小太刀の霊刀の片割れが壊れて1本のみとなった《號嵐》を握り構えると刀哉と美琴に伝えていく。
「簡単に済むなんて思わねぇし、簡単に終わってくれとも思わない。けど、このまま目の前で人の命が弄ばれるのを野放しにするのだけはオレの中の戦士としての誇りが許せないって怒りに満ちつつある。あのジジィも何かしらやったのかもしれないけど、だからって野放しにして苦しませるつもりは無い…… ここでオレに出来るのなら、オレの手で止めてやる!!」
「……たしかに死者を弄ぶ行為は許されざる行為だ。オマエさんの言い分に賛成だ」
「祖父が本当は何をしたかは分からない、だけど……今やれることがあるなら私もやるわ!!」
決まりだな、と真助が刀と小太刀を強く握りながら言うと刀哉と美琴が並び立って武器を構え、3人が武器を構えると美琴の祖父……武上柳絃は全身に闇を纏い始める。
「うっ……うぅ……!!」
唸るような声、苦しむかのようなその声が発せられると柳絃の胸部の呪具が禍々しい光を放って柳絃の全身を闇で飲み込み、闇に飲み込まれた柳絃はその全身を紫色の禍々しい鬼へと変貌していく。
「……いくぞオマエら!!じぃさんを、ここで救うぞ!!」




