三十三斬
真助について知る美琴の祖父。彼は真助の事を『現代において奇跡』などと大袈裟に語り、それを受けた真助はその言葉を否定しようとした。
「やめてくれよじぃさん。奇跡とかんなのは信じねぇ性分何だよ。第一、会ったこともないじぃさんがオレの何を知ってるって言うんだ?」
「オマエさんの顔と名前はこの間亡くなったワシの息子の遺品の中にあった紙切れで知ったくらいじゃから詳しくは知らん。だが、オマエさんは現代においては奇跡と呼ぶ所業を成し得ている」
「……その奇跡ってのは何なんだ?」
美琴の祖父の繰り返される言葉……『奇跡』という単語について聞く他ないと悟った真助は話を早々に進めるべくそれが指すものについて尋ね、真助に質問された美琴の祖父は真助が何を持って『奇跡』と称されるのかを彼らに明かしていく。
「オマエさんは現代の人間においては極めて珍しいほどに妖刀と極限状態まで共鳴出来る心身を持っている。そしてその心身が本来は交わるはずの無い妖刀の欠片と霊刀を共振させて霊刀の性質を受け継いだ妖刀に一時的な合体を実現した。これは本来相反するとされる妖刀と霊刀を拒絶反応を引き起こさせずに成功させている、それが奇跡に等しいことなのじゃよ」
「そういや《斬鬼会》の下っ端もそんなこと言ってたな。《斬鬼会》の野郎共はオレの《血海》の欠片と霊刀《號嵐》の重ねて完成する妖刀に注目して妖刀を集め打ち直すなんてことを始めたんだもんな」
「そしてその完成系として理想とされるのが《神災》か。ご老人、《神災》のことはご存知か?」
「名前と力は知っておるよ。それについても息子の遺品でのぉ」
「……失礼を承知で聞くが、アナタの息子さんでありお孫さんの父親は何故そのような資料を所有していた?」
真助を『奇跡』と称した美琴の祖父の会話の中から気になる点を見つけた刀哉はここに来た目的でもある真偽の確認を進めようと祖父に美琴の父親の遺品とされる資料が所持品として存在しているのかを尋ねた。
刀哉の問いを受けた美琴の祖父は軽く咳をすると椅子に腰掛け、祖父は問われたことについて答えていく。
「恥ずかしい話じゃが、息子は《斬鬼会》の人間と金銭による契約を交わしていたらしい。契約上はやつらの協力者ということになるため必要な情報を提供されていたようじゃ」
「お父さんが……《斬鬼会》に加担してた……!?
でもお父さんはやつらに殺されたようなものじゃなかったの?」
「それは間違いない美琴。ただし、その道をアイツが……バカ息子が選んだということじゃ」
「どういうこと?」
「罰が下されただけの事じゃよ。天は人を見ている、それ故にあのバカ息子に罰が下ったのじゃよ」
「自業自得ってことか?コイツの父親……アンタの息子が死んだのにあっさり割り切ってんだな」
「割り切るなどでは無い、ただワシは大金欲しさに罪を背負ったあのバカ息子が悪いんじゃよ」
「その金は今どこにあるのです?」
「さぁな。ワシが知るわけない。もらっているなら金を持って逃げることも出来ただろうしそうしなかったということは貰えんかったのかもしれんし……とにかくワシには分からんよ」
「そうですか。余計なことを聞いてしまい申し訳な……
「でもおかしいよなじぃさん。アンタ、何で自分の息子が金を貰ってるなんて知ってた?」
美琴の祖父の言葉と質問への答えに刀哉が納得して幾度とない問い掛けに謝罪でもしようとすると真助が割って入るなり金の有無についての認知に関して問い、問われた祖父は困ったような顔で答えていく。
「変な事を聞かんでくれ。息子のことは親のワシがよく知っとる。危険なことを安請け合いする性格でも無いのだから金銭による取引があったと思う他なかろう?」
「なら聞くが《斬鬼会》と組んでたアンタの息子がやつらに殺されたってのにどうしてやつらは自分たちの与えた情報を完全に消してない?《斬鬼会》を消したいと情報集めに奔走する《一条》ですらそれに苦戦するほどの相手なのに何故やつらはアンタの息子に形に残る方法で情報を与えた?」
「そんなことはワシには分からん」
「分かるはずだぜじぃさん。手を組んでいたはずの当人が死んだはずなのに第三者は死に物狂いで集めなきゃならない情報が残っている……つまりよ、アンタの話に嘘があるってことだ」
「ありえん!!オマエさんがワシの話をそういう解釈の仕方で聞いてるからそうなっとるだけじゃろうが!!」
「いやいや、そんなことねぇよ。この女のオレたちに話した内容……父親とアンタの話は謎が多いことばかりだってのにアンタは何故か詳しく語れるんだ。おかしいよな……亡骸で見つかったアンタの息子の行動の一端を把握してるんだよ?」
「おぬし……!!」
「言い方変えてやろうか?じぃさん……アンタ、孫のこの女に嘘ついたろ?」




