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三十二斬


 ファウストの手配した交通手段にて早速移動した真助、美琴、刀哉は真実を知るとされる美琴の祖父が滞在するとされる場所が近い周辺地域へ到着していた。

 

のどかな自然に囲まれた田舎風景の広がる地域、そしてそれを見下ろすように聳える大山は枯れた樹々が並び大地がむき出しになっている部分もあり、その部分についてはこの自然豊かな環境の中で目立っていた。

 

 大山の麓には集落のようなものがあるが、その大山の中腹部分には小屋のようなものが建っていた。

 

「のどかなところだな」

「ああ、こんなところにお嬢さんの祖父がいるとは思えないほど穏やかでいい場所だ」

 

「祖父はあの中腹部の小屋で生活しているはずよ。《斬鬼会》の襲撃に際して他の人に被害が及ばないようにと離れることを選んだそうなのよ」

「なるほど、理にかなってる理由だな」

 

「まぁ、その方が好都合だ。万一にも抵抗された時に周囲にヒトが集まりやすい環境だとやりにくいからな」

「だがまずは彼女の祖父から真意を聞くことが先だ。その万一が来るまではオマエさんのそのやる気は抑えててくれ」

 

「そのつもりだ。下手に刺激したくねぇからな」

 

「案内するわ、ついてきて」

 

 

 

 

******

 

 美琴の案内によって大山の中腹部にある小屋前に到着した真助と刀哉。2人は彼女の祖父が生活してるであろう小屋を前にして何かあるかもしれないと警戒心を高め強く抱いていた。

 

 真助は真偽が定かでないことから敵かもしれないとこの瞬間も考えており、刀哉も絡繰呪装機をことを知っていた人物として何かが起こることを危惧していたのだ。警戒する2人と共にいる美琴、今から会う人物が自身の祖父である彼女は2人とは異なる心情を抱いていた。

 

「……考え過ぎであってほしいわね」

 

 真助の話した最悪の可能性、それわ思い出したであろう美琴は祖父を信じたい心から最悪の可能性には至るなと願っていたのだ。当然のことだろう。血の繋がりのある祖父を疑うことなどしたくないだろうし、たとえ何か根拠があろうと身内を疑い敵として認識することは簡単なことでは無い。

 

 美琴の心情を察している真助と刀哉は彼女に声をかけることも無く互いの顔を見て頷く形で意思疎通を行い、真助は小屋の扉の前に立つと軽く扉を叩いて中に人がいるかどうかの反応を確かめようとした。

 

 コンッ、コンッ、コンッ……

 

 3度扉を叩いた真助は中からの反応を確認すべく待つがしばらくしても返事はなく、反応がないことを確認した真助は刀哉の方を見るなり何かを言うでもなく静かに頷くと扉に向けて勢いよく回し蹴りを放って扉を蹴り壊し、躊躇うことも無く扉を破壊した真助は小屋へと当たり前のように入っていく。

 

 後に続くように刀哉と美琴も中に入り、真助たちは小屋の中を見渡そうとする。

 

 電気が通っていないらしく家電と呼べるようなものは一切なく、灯りの類も蝋燭等の火気を伴う代物があるくらいの一昔前の時代を感じさせるような雰囲気があった。

 

 生活してるような痕跡はいくつかあり、台所と思われる所には包丁とまな板があるだけでなく食事後に放置しているとされる食器が無数に積み上げられていたし、台所近くの机には服用してると思われる薬のゴミが置かれていた。

 

 何より……

 

「この匂い……誰かいるのは間違いねぇな」

 

「匂いだけではない。外からは分かりにくかったが気配もある」

 

 真助は嗅覚、刀哉は気配を感じ取ることで何者かがいることを感知し、真助は警戒心を高めると共に置かれていた包丁を手に持って武器代わりに構え、刀哉も手刀で対処しようと構える。2人に続くように美琴も自前の大型メイスを構えようとしたが彼女が構えるよりも前に小屋の奥から誰かが姿を現す。

 

「騒がしいやつらじゃな」

 

 現れたのは白髪頭に鉢巻きを巻いた腰の曲がった老人で、老人は何やら使い古された金槌を手にしていた。

 

 手にする金槌は抵抗の表れかもしれないと真助が殺気を放とうとすると美琴は構えようとするのをやめて老人に話しかける。

 

「おじぃちゃん、急にごめんなさい。私たちおじぃちゃんに確かめたいことがあるの」

 

「確かめたいこと?何じゃ?あの件以来ワシのもとを離れたはずの孫が今更何を聞きたいんじゃ?」

 

 美琴が話しかけると老人はため息をついた後で言葉を返し、美琴と老人が話す様子を見た真助と刀哉はこの老人が彼女の祖父だと認識して警戒心を一旦解いていく。が、あくまで一旦だ。

 

 警戒心を解きつつも真助は手にした包丁を離そうとせず、刀哉も老人の視界から外れるように体を少し斜めにしながらその体で手刀を隠していた。

 

 2人の警戒心は完全に解けていないことは美琴も薄々気づいてはいるが、その事を老人も気づいているのか再びため息をつくと話していく。

 

「……警戒せんでもええわい。ワシが暴れてもオマエさんらには敵わんし抵抗もせん。ここに孫と来たということは大方ヤツらのことじゃろ?」

 

「オレたちが《斬鬼会》の遣いかもしれないって疑わないのか?」

「わざわざここに来てノックする辺り、あの野蛮人とは違うことは察してるわい鬼月真助」

 

「オレのことを知ってんのか?」

「よく知っとるよ……何せオマエさんは現代において奇跡に等しい素質ある若者だからの」

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