三十一斬
真助は美琴、刀哉と共にひとまず雲禰村に戻って調査中のファウストのもとへ窺いこれまで起きたこととこれからについてを報告をしていた。
「以上がアンタと分かれてから起きた全てだ。補足がいるなら今言ってくれ。後から言われても忘れるからな」
「補足はいらんよ。それよりも驚いたのは千剣刀哉……キミがここにいることだ」
「オレも最初は個人的に調べていた案件だったからな。まさかそれを《一条》も調べ、姫神ヒロムの仲間の1人も調べていたのは驚きだ」
「ふむ、鬼月真助については新しい妖刀の確保という見返り前提だがな。それよりも鬼月真助、その刀鍛冶の件で動くということは一旦は《一条》から外れるということでいいな?」
「やっぱそうなるのか?」
「残念だがな。《斬鬼会》を追い詰めるという点では必要なことかもしれないが私としては当主たるカズキの命令に反することだと考えてもいる。《斬鬼会》がこの村だけでなく彼岸村にも出たとなるならその調査を遂行する必要があるが……そうだな、1つだけ何とかなるかもしれない方法はあるぞ」
「本当か!?どんな方法なんだ!?」
「まぁ難しいことでは無いが……オマエが《斬鬼会》を壊滅させればそれで済む話だ」
「それで済むって……それだけなのか?」
「それだけとは言ってくれるな。《一条》がこうして情報処理で苦戦してる敵をオマエたちだけで滅ぼせと言っているんだ。数百数千の規模の組織を相手に戦争して来いって言ってるんだが伝わらなかったか?」
「要するに……アンタが情報収集してる間にオレが終わらせたら《一条》の総大将の一条カズキも納得するって話か」
「簡潔に言うならな。まぁ、ことはそう簡単には行かんだろうがな」
「よしっ、わかった。ならオレたちに……
「待て待て鬼月真助、この男の言ってることにはリスクが伴うのに構わんのか?」
ファウストの提案、真助たち3人で《斬鬼会》を滅ぼせば《一条》は何の問題も無く済むというものを真助が快諾しようとすらと刀哉は遮るように話しかけ、そして刀哉は真助に彼が気づいていないであろう事実を告げる。
「見方を変えればオマエさんは《斬鬼会》を倒すための特攻隊にさせられるんだ。何より言い方が悪くなるがオマエさんが失敗したところで《一条》は見捨てる、手柄だけ持ってこいって事を言ってるようなものだ。下手をすれば壊滅まで追い詰めた所で《一条》が介入して手柄を奪われて損する可能性もある、それでも引き受けるのか?」
「んなこと知るかよ。大体、コイツらが来る前に終わらせればいいだけだ」
「しかしだな……」
「安心しろ千剣刀哉。流石の《一条》も協力者の手柄を横取りするような真似をするつもりは無い。それに私がこの提案をしたのはあくまで鬼月真助が姫神ヒロムの率いる《天獄》の1人だという期待からもある。その期待に応えるのなら私も私に出来る対応で上に掛け合うつもりだ」
「だそうだぜ千剣刀哉」
「……オマエさん、頭がキレるのか単純なのか分からんな 」
「敵を倒せば済む話、それだけだ。そうだろファウスト?」
「そうだな。私としてもキミたちが壊滅させてくれればこの仕事を早々に終わらせられるから助かるしな。その方向でここを離れるなら移動手段を手配させよう」
「早い事頼むぜ」
任せておけ、とファウストが真助たちのために交通手段を手配すべく離れていくと刀哉は真助に確認のために耳打ちする。
「……大丈夫なのか?オマエさんや姫神ヒロムが《一条》と手を組むことが多いことは承知してるが《神災》の件をどう扱われるか分からないのに簡単に信用していいのか?」
「《神災》のことを知ってたなら《一条》はオレの妖刀確保の取引を持ち掛けることはしなかったはずだし、ファウストの提案から察するに《一条》の情報はアンタより少ない。ファウストからしたらオレらが動けば動くだけ欲しい情報に繋がるもんが手に入るだろうし、それに目を向けてるあいだにこっちがさらに事を進めれば手柄云々は気にしなくて済む」
「上手く行けばいいがな……」
「安心しろ千剣刀哉。オレは妖刀さえ手に入ればアイツらと組む理由は無くなるからその先はアンタの好きにしてくれていい」
「今後の関係に亀裂が生じていいのか?」
「今後の事はヒロムに一任するからいいさ」
(そう、あくまでそこはヒロムに任せればいい。オレのやるべきことは妖刀を手に入れること、そして……オレと《血海》の因縁の輪に入ろうとしてる野郎とのケリをつけることだ。オレの手にした妖刀が何の因果か《斬鬼会》の人間と関わりを持ったってんならハッキリさせてやるよ)
「……教えてやるさ。誰が1番持ち主に相応しかったかをな」
全容が未だ見えぬ敵を壊滅させるべく、何よりも新たな妖刀を手にするためにやる気を抱く真助。その真助の心は……




