三十斬
真助が導き出した1つの可能性、その可能性を聞かされた美琴は納得できなかった。
「オマエは私の祖父が《斬鬼会》の手先と言いたいのか?私たち家族は父を失い、そして祖父も敵に殺されかけたのだぞ?それなのに……それなのに疑うのか?」
「疑いたくない気持ちは分かる。というか身内を真っ先に疑えって方がどうしてるからな」
「ならばどうして……!!」
「千剣刀哉と話した内容の通りなら絡繰呪装機の事を知る方法は村正天明って野郎の記した最悪を回避するための書物か《神災》の所有者に加担してたやつが残したであろう最悪を招くための書物のどちらかだ。オマエの父親は骨董品程度の認識だったのにじぃさんはそれが絡繰呪装機だと断言した上で説明したってんならじぃさんがどうやって知識を得たのかを探る必要がある」
「だから、それごどうして……」
「そもそもオレは敵が刀鍛冶を連れ去らって村正を名乗っていた千剣刀哉の代わりを見つけようととしていたのにオマエのじぃさんだけは殺そうとしていたのかが気になる。何故オマエのじぃさんだけ扱いが違うのか、その謎を明かさねぇとオマエの家族はこの先も苦しむことになるだけだ」
「勝手なことを……」
落ち着け、と刀哉は美琴に向けて冷静に伝え、落ち着けと言われた美琴は真助に向けて言おうとした言葉を胸の内に秘めるように黙る。美琴が静かになると刀哉は真助に向けて彼の話した内容についていくつかの質問をする。
「鬼月真助、確認だがオマエさんは彼女の祖父が怪しいと疑っているのか?」
「現状そこを掘り下げる他ねぇからな」
「そこを譲るつもりは無さそうだな……なら、オマエさんは何故倒せば済む《斬鬼会》ではなく罪の有無が定かでないご老人に注目した?」
「……え?」
真助に向けられた刀哉の質問、その内容を聞いた美琴は耳を疑った。
真助は一見すると美琴の祖父を悪のように言ってる風に聞こえた。が、刀哉の質問の仕方、それはまるで……
美琴が刀哉の言葉によって疑問を抱きつつある中で真助は刀哉の問いに対する答えを述べていく。
「……結果がどうなろうと確かめなきゃコイツやコイツの家族が心に闇を負うかどうかが変わってくる。父親を失ったってんならまずはじぃさんが無実だってことを証明しなきゃ前に進めねぇ。《斬鬼会》に協力してないなら守ればいいし、協力してるってんならオレやアンタじゃなくて孫のコイツがケジメをつければいい」
「つまり、オマエさんは彼女の祖父が敵か味方かを確かめたい、と?」
「それもあるし、《神災》の話を聞いた後だから敵ならじぃさんの作った刀は破壊するし、味方だったら作るだけ作って放置されてるであろう刀を何個か拝借するつもりだ。どの道武上美琴の精神面に対する不安と家族の信頼が揺るがされる危険性があるならそれを解決して心置き無くやることをやれるようにするのが万全な方針だとおもっただけだ」
「なるほど。言ってることは滅茶苦茶だが一理ある。ここまでの話から骨董品を絡繰呪装機と認識出来た理由を説明してもらい、その上で刀を作り続けた理由を明かしてもらえれば疑う必要も無く守ることか出来るな」
「そうすりゃ武上美琴の目的である《斬鬼会》が父親とじぃさんを狙った理由が解決する。そうなりゃ後はオレとアンタで暴れて敵を仕留めりゃ解決だ」
「……結局最後は暴れるのか?」
「ヒロムから聞いてんだろ?オレは頭で考えるより行動で示す性格だってな」
「……姫神ヒロムからは戦闘狂の割に頭がキレると聞いていたんだがな。まぁいい、とりあえずの方針が決まったのなら当面のプランは確定だな」
「プラン?よく分からねぇ横文字使うなよ」
「……すまない、オマエさんが英語やカタカナ表記の言葉に弱いことを聞かされていたことを忘れていた」
真助の考えを理解した刀哉が彼の態度に呆れながら話した後、美琴は真助に歩み寄ると申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまない、私はオマエを疑ってしまった」
「あん?気にすんな。オレは口下手だからそう聞こえたんだろ?なら仕方ねぇよ」
「……申し訳ないついでに頼まれてくれないか?」
「何をだ?」
「……もし、もしもだ。祖父が敵に加担してるとわかった時はわたしに一任して欲しい。身内の落とし前は私の手でつけたい」
「ハナからそのつもりだ。オマエのじぃさんの不始末が判明したら容赦なく押し付けるから覚悟しとけ」
「ああ、肝に銘じておく」
「ならば決まりだな。武上美琴、オレたちをキミの祖父のいる所まで案内して欲しい」
「ああ、任せて欲しい」
「とりあえずは3人手を組むってことか……細かい事は苦手だから頼むぜ千剣刀哉」
「仕方ないから任されてやろう。では行こうか」
次なる道は見えた。真助は美琴、刀哉と共に真偽がハッキリせぬ疑惑に包まれた美琴の祖父の真実を明かすべく彼の居るとされる場所に向かおうと動き出す。
だがしかし……それは、彼らにとって波乱の幕開け、序章でしか無かった……




