二十九斬
厄災の妖刀の力、そしてその恐ろしい力によって真助がこれまで通ってきた雲禰村と彼岸村が一度滅びた村だと刀哉から明かされて衝撃を受ける真助と美琴。
2人が衝撃を受ける中で刀哉は厄災の妖刀である《神災》についてさらに……いや、《神災》に関わるある物の話していく。
「さっき現れた絡繰呪装機、アレは元々《神災》を危険視した国の長が国の壊滅を阻止するために生み出させた量産型呪具だった。だがある時、絡繰呪装機の発案者の男が国を裏切り《神災》の所有者に寝返ったことで敵側に持ち込まれ、敵は生命力を奪うだけでなく死ぬ事のない軍勢を生み出せるようになった。村正天明の記録によれば《神災》の破壊に伴う大戦で全ての絡繰呪装機は破壊されたが防衛側の絡繰呪装機の動力となっていた核の呪具が壊れずに残ってしまい、万が一の備えとして妖刀の知識を持つ刀鍛冶が厳重に管理することになったとされる」
「呪具……それって呪いの産物っていうアレか?」
「そうだ。使いてと呼応する霊刀や使い手を選ぶ妖刀のように異質な力を持つ呪いの道具……呪具と呼ばれるそれは呪いに適合するものに力を与え適合せぬものを支配すると同時にどちらであろうと呪いで蝕むというものだ。そして絡繰呪装機はそのリスクを度外視出来るレベルにまで小型化したものを核として利用して操っている」
「その操作には呪具を使うのか?」
「それについては記録されていない。おそらく村正天明が最悪の事態を想定してあえて記さなかったんだろうな」
「だが現代に……今オレたちは絡繰呪装機の存在とそれが操られている事実を目の当たりにしている」
「そこが問題だな。誰かが絡繰呪装機を完成させたと同時にその方法を独自に確立させたか、あるいは……村正天明が危険性を伝えようと記録を残したのに対して《神災》の使い手の側の人間が自分ちの遺志を継ぐ存在が現れることを信じて記録を残したものが存在していたか、だな」
絡繰呪装機の存在とその誕生経緯が語られ、そしてそれを運用する方法を誰がどのようにして見つけたのかが問題だと語る刀哉。
刀哉の話を聞いて絡繰呪装機の謎について真助は考えようとしたが、ふと絡繰呪装機が現れた時の美琴の反応を思い出して彼女に事の真意を尋ねようとした。
「そういやオマエ、アレについて多少の知識はあったみたいだけど、 どこかで見た事があんのか?」
「あるも何もアンタの壊したやつが私の父が骨董品として保管していたものと外観が酷似していたのよ。それが何かについては祖父が詳しくて、祖父から絡繰呪装機であることと動かすためには千剣刀哉の言う核となる石が必要になるって教えられていたのよ」
「なるほど……」
「1つ教えて欲しいんだが、その骨董品の核は誰が持っているか分かるのか?」
「それは分からないわ。祖父は今の時代で動くことは無いと話していたけど父は生前に必要以上に近づくなと話していたくらいで……」
「……ならおかしいよな」
刀哉の質問に対して無駄な間を置くことなくしっかり答える美琴の言葉を受けた真助は何かに気づいたような口振りで言い、真助の言葉を受けた刀哉は彼に聞き返す。
「どういう事だ?彼女の話は何も不自然ではなかったはずだ。こちらの質問に答えて……
「忘れたのか?核となる小型化した呪具は厳重に保管されることとなり、その管理者は村正天明によって選ばれた人間が任されていたはずだ。書物に記されたその点を踏まえて話すが……骨董品として扱われていたものを何故絡繰呪装機だと認識出来、動くための核となる小型化された呪具のことを知り、そしてそれが石だと何故コイツのじぃさんは言い切れた?」
「それは……オレの持っていたものとは別で書物があったとしたら不思議では無いだろ?」
「そう考えれば不思議じゃないかもな。なら聞くがアンタのもってるその書物には小型化された呪具の形状は書かれてんのか?」
「いや、そんなことは記載され……まさかっ!?」
「会話の流れとしてアンタが一度でも石であることを口にしてるなら不思議でもなかった。けど、アンタは『小型化された呪具』としか話さなかったからコイツが自然と『石』と語る事が違和感に思えた」
「私は……
「落ち着け。オマエは聞いた通りに話したはずだ。オマエの父親は家にあったものを骨董品として保管していたのに対してじぃさんの方は骨董品を絡繰呪装機だと断言した上で核の存在と石である事を話した……ってことは、オマエのじぃさんが《斬鬼会》を相手に何かしら深い関わりがある可能性が高いってことになる」
「だが彼女の父親は《斬鬼会》に殺されている。それについては?」
「その父親が亡骸に至った経緯は不明のはずだ。そしてコイツのじぃさんは亡骸を見たのをきっかけに狂ったかのようにカタナを生み出し続けた……てなると応えは1つだ」
「まさか……」
「武上美琴の父親とじぃさんは巻き込まれたのではなくじぃさんが武上美琴とその父親を巻き込んだ、こう考える他ねぇってことだ」




