二十八斬
鎧武者が損壊し『主様』の声も聞こえなくなった。真助は刀哉に対して自身が美琴と合流するまでの経緯と鎧武者と遭遇する前の自分たちの目的について説明していた。
「……ってわけだ。オレに関してはヒロムとは無関係の個人的な理由、こっちに関してはじぃさんや親父さんの件で色々あったってことだ。で、オレは新しい妖刀を探すために村正……つまりはアンタを探そうとし、コイツが村正に関して心当たりがあるかのように言って案内を頼もうとしてたのさ」
「なるほど。たしかにそちらのお嬢さんは面識があるな……そうか、前会った時は事情を聞かなかったがキミにそんな事情があったとはな」
「その点については私が悪い。私も《斬鬼会》の行方を追うことばかり必死になって些末な対応をしてしまった」
「過去は気にせんから問題ないが……過去といえば鬼月真助、オマエさんの話通りなら気にしないでは済ませられんぞ」
「ヤツらが《血海》の存在……つまりオレが所持していたことと以前の戦いで砕けたこと、欠片が散ってることを把握していた。そしてオレが回収した欠片の他にどこかのきっかけで欠片を盗んだ主様とやらは《血海》の力を欠片だけで妖刀の封印を解くカギに利用している」
「ふむ……だが盗めるのはオマエさんが姫神ヒロムとその仲間が激闘を繰り広げていた中だけだろ?そんな中で回収することご可能な人間は限られていると思うがどうなんだ?」
「その点に関しては犯人探しするだけ無駄って感じだな。半年以上前の事だから事実はいくらでも変えられるし見つけられたとしても犯人とする証拠を用意するのも難しい……要するにお手上げだな」
「ふむ。だがオマエさんの話のおかげで敵の動きがいくつか見えてきた。まず《斬鬼会》は封印された妖刀を集め回っている、これはあの『主様』の命令による共通事項だろう」
「真助の話の通りなら敵は彼の過去に成し遂げた荒業を再現するかのように新型の妖刀として打ち直し、それらを東西南北の門の名を持つ者に与えている」
「その通りだな。そして上下間での認識の差があることも確かなことだ。妖刀を探している或いは潜伏拠点の警備をしている下のものはほとんどが《神災》の存在を知らぬまま利用されている可能性があるし、悪く言えば彼らは『主様』の捨て駒となるために集められている」
「まぁ、2人目の門の野郎も仲間見捨てたしさっきの絡繰何とかも下っ端共蹴散らして現れてるからその点は相違ねぇわな。で、千剣刀哉さんよ……アンタはその《神災》についてどこまで知ってる?」
ここまでの話を美琴や刀哉と整理した真助は今度は自身の知らぬ情報を得るべく刀哉に対して質問し、質問された刀哉は真助と美琴に《斬鬼会》の上に立つ『主様』がこの世に生み出そうとしている厄災の妖刀について話し始める。
「昔、その手にしたあらゆる妖刀を自由に扱いし妖刀使いがいた。それが村正天明であり、彼は遥か昔に呪いや力を施されて生まれた妖刀を集めて各地に封印していた。その村正天明が唯一封印せずに破壊したとされるのが厄災の妖刀たる《神災》なんだ」
「その1本だけは封印しなかったのか?」
「何故なのです?」
「封印してもいずれは誰かが封を解く、今回の《斬鬼会》のような輩の出現を彼は危惧していたのだろう。いや、何より封印したところでその力を抑えられるか定かで無かったのかもしれない」
「そういやそれが生み出されたら日本どころか世界も終わるみたいなこと言ってたな。何でなんだ?」
「厄災の妖刀は命を喰らう……つまりは生命力を奪い取り刀の力に変えるんだ」
「あん?んだよ、そんなもんか……《血海》は血を与える度に斬れ味を増して使用者に自己再生能力を与えるって力持ってたのにそんなもんか」
「鬼月真助、オマエさんも妖刀使いなら知ってるはずだ。そもそも妖刀の力は『妖刀に触れたものにしかその力が作用しない』ということを」
「まぁ、基本知識としては当然だな。むしろ使う側が刀に試されて認められれば所有出来て認められなかったら命を奪われるって一種の契りがあんだからな」
「そう、妖刀は使い手を選ぶ。そして選ばれた者だけがその力を使い、その力は触れなければ第三者に作用することもない」
「なら……
「なら仮にオマエさんのかつての愛刀の力が『斬るもしくは間接的に血を与えることで斬れ味を増す』ではなく『一定範囲内の血を全て喰らうことで斬れ味を増し続ける』というならどうだ?」
「いや、ありえねぇだろ?そんな能力者の能力みたいなこと……」
「厄災の妖刀たる《神災》はそういう妖刀なんだ。村正天明が記したとされる書物によればその力は妖刀を中心とした一定範囲内の全ての生命力を無差別に触れることも無く奪い喰らうというもの、そして書物に残されていたかつて《神災》が通ったとされる地域は……壊滅している事実が確認されている」
「なっ……!?」
「それが本当ならその妖刀が世に出てしまえばこの国は簡単に……!?」
「如何なる強さを持っていようが簡単に死に誘われる、だからこそ危険なのだよ。そしてこの彼岸村と雲禰村はその《神災》が最初に使われたことで滅びた村だ」
「「!?」」
「オレがこの辺りに身を置いていたのは《神災》の情報を得るため、そしてオレは《斬鬼会》がそれを生み出そうとしていることを知って動いた。一刻も早く厄災の妖刀の復活を阻止するためにな」




