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二十五斬


 数ヶ月前……

 

 オレは特訓を兼ねてある人物の見学する中で雨月ガイと模擬戦を繰り広げていた。

 

 本来なら木刀だの竹刀だので危険性を取り除く形で行うが、オレは実戦さながらの緊迫感を求めるが故に真剣を用いていた。剣術使いのガイも同じように真剣を使っており、オレとガイは互いに持てる技をぶつけるように戦っていた。

 

 その様子を少し離れたところである人物……赤い髪の男が胡座をかきながら見学していた。赤い髪に桃色の瞳、上下共に動きやすさを重視した服装で揃えているそいつはため息をつくなり手を叩き、そいつが手を叩くとオレとガイは動きを止めて武器を下ろした。

 

 オレたちが武器を下ろしたのを確認するとそいつは……姫神ヒロムはオレを見るなり模擬戦を見学していた感想もとい指摘を話し始めた。

 

「雑念が多すぎるぞ真助。ガイを相手に真剣になるのはいいが攻撃1つ1つに無駄があるし防御と回避のアクションも1つ1つに難点がある。指摘したらキリがない」

 

「酷評かよ。剣術道場通ってるガイの流派に沿った技とやり合えるんだからその辺を評価してくれよ」

「流派の有無と技の数は所詮飾りでしかない。現にオマエはこれまで我流というやり方で多くの敵を倒しているだろ」

 

「それは相手が剣術使いじゃないことが多かったのもある」

「結果だけを見ればそんなのは関係ないんだよ。大体、どこの流派にも属してないのはオレも同じだし、オレがガイとやっても負けないんだから流派の有無を言い訳にはさせねぇ」

 

「……分かった、なら教えてくれ。オレには何が足りない?」

 

 ヒロムの言いたい事はよく分かったし、とりあえずこのまま言い返すのも埒が明かない。だからオレはヒロムに今の自分に何が足りないのかを答えさせるべく尋ねた。するとヒロムから意外な言葉が返ってきた。

 

「技術面では無い」

「そうか……って、無い!?」

 

「正確に言うなら精神面では難ありだ。オマエは何かにつけて行動に雑念が生じること……敵を倒すことに感情が強く動かされて視野が狭くなる癖がある。さっきの模擬戦も手数ではガイが有利だったが反面力量面ではオマエに分があった。互角になっていたのはガイが少し油断してたのとオマエの雑念が力量面で枷になってたからだ」

 

「つまり……?」

「雑念を捨てて今見るべきものを見て選択肢を増やせ。戦いにおいて絶対は無いし正攻法も無い。1つの結果を導くための道は無数にあると理解しろ」

 

「難しいことを言うなよ」

「それに流派の件だが……我流だって立派な1つの流派だ。そういう意味では我流だからこそ築き上げられる技を見つけることが出来ればって話になる」

 

 難しいことを淡々と語るヒロム。一応言ってることはそれっぽく理解出来てはいるが、雑念だの何だの言われても改善の仕方なんて分かんねぇし……

 

 

 ヒロムの言葉にオレが難しく考えていると、それを察したであろうヒロムはため息をつくなりオレにある話を始めようとした。

 

「流派云々を話すなら我流一筋の真助にも戦い方はある」

「そんなのあんのか?」

「ガイみたいに1つの流派を極めた上であらゆる流派に対応できるように我流を織り交ぜ昇華させた技でない限り、流派を持つ者にはその流派のやり方に従うが故に癖が生じる。その癖を見抜きオマエの技で打破すれば相手の流派そのものを覆すことは可能だ」

 

「流派を……覆す」

「まぁ、初見で見抜くのは困難だがな。ただし……オマエなら出来るはずだ」

「どういうことだ?」

「神経を研ぎ澄まし意識を集中させろ、そうすればオマエに見えないものは無い。オマエの中にある『感覚』、それはオレたちには無いものだからな」

 

 流派を持つ者を倒す術、『感覚』、その道筋を語るヒロムの言葉を受けたオレはその言葉の意味を理解した。ヒロムの言葉で強くなるための可能性を見出せた、はずなのに……

 

******

 

「……忘れてたな」

 

 鎧武者を前に苦戦を強いられる真助はかつて言われた言葉を思い出すと自身の不甲斐なさにため息をついてしまい、そして真助は黒い雷の刀を構えると落ち着いた様子で美琴に伝えていく。

 

「作戦は変えない。オレが前に出てオマエが仕留めろ」

 

「何言ってんのよ!?アンタの動きは……

「問題ない……こっからはオレが追い詰める」

 

 鎧武者に向けて殺気を向ける真助、その殺気を感じ取った美琴は今の彼が少し前とは異なると察すると反論せずに静かに頷いて後ろに下がり、入れ替わるように真助が前に出ると鎧武者から『主様』の声が発せられる。

 

『鬼月真助、キミではこれには勝てない。流派を持たず我流でひたすら戦うだけのキミではこれの持つあらゆる技の前で為す術もなく倒されるのだよ』

「そうかよ。けど……オマエの自慢の人形もここまでだ」

 

『何?』

「目ん玉見開いてよく見とけ拘りクソ強野郎」

 

 真助は全身に纏う黒い雷を激しく轟かせるとさらに強い殺気を放ち、殺気を放つ真助は黒い雷の刀を構えながら告げる。

 

「オマエの言う数多の流派はこれからオレの見せる技に崩される。オマエのご自慢の技が全て通用せずに負かされる光景を脳裏に焼きつけろ!!」

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