二十三斬
《斬鬼会》の兵士たちを蹴散らすように天より落ちて現れた髑髏の意匠の仮面をつけた鎧武者を前に真助と美琴は武器を持つ手に自然と力が入ってしまい、鎧武者はゆっくりと真助と美琴の方を向いて立っていた。
漆黒の鎧に身を包みし太刀を携えた鎧武者。ただ立つだけでも異常な気を放つそれを前にした真助は2本の刀を持つ手に力を入れながら体勢を低くしつつ構えて臨戦態勢に入るが、そんな中で美琴は何やら動揺してるかのような反応を見せていた。
「ど、どうして……ここに……!?」
「……あん?
おい、アレについて知ってるのか?」
「ええ、一応は。おそらくアレは……絡繰呪装機、妖刀が生み出された裏で妖刀に匹敵する力を生み出そうとして生み出された呪いの産物。別名は呪具であり、妖刀が使い手を探すように各地に散って生みの親たちと共に現代まで言い伝えられ受け継がれているのに対して存在することを秘匿され表と裏の両方から消えた負の遺産よ」
「呪具……聞いたことがあるな。能力者が扱うことを前提として適合する能力が無ければ機能しないとされる『霊刀』や脅威的な力を秘めた反面で意思を持つかのように使い手を見定めて彷徨う『妖刀』と並ぶとされる呪いと力を秘めて使い手を飲み込み心を壊すと畏れられる代物、だろ?」
「ええ、その通りよ。呪具はその力と呪いに適応するだけの素質を持つ者が手にすれば強力な武器となるがそうでない者が手にすれば心を蝕まれ最終的にはその心が潰される。そしてあの絡繰呪装機は呪具の性質を最大限に活かすことを前提に鎧の形に変えて纏わせた人形を使役するというものよ」
「つまり中身は……」
「遠隔操作された人形よ。だけど……それがおかしいのよ」
「あん?どういうことだ?実物は目の前にあんだろ?」
「それがありえないのよ。あの絡繰呪装機は操作をするための役割を担う石が必要不可欠だけどその石は今は手に入らないはずよ。だからアレが手に入っても動かすことなんて……」
『それが可能だとしたらどうかな?』
目の前の鎧武者を『絡繰呪装機』という呪具だと話す中でここにあるのがおかしいと真助に話す美琴の言葉を遮るように鎧武者から声が発せられ、その声を聞いた真助と美琴が思わず構えを強くさせると鎧武者の声は2人に話し始める。
『驚かせたかな?まさかこれに意思疎通する知能や会話する機能が備わってるとは思わなかったかな?』
「美琴、これは何だ?」
「絡繰呪装機が……話している!?」
『彼女を責めるなよ鬼月真助。この会話に関しては彼女が知らないことだからな。そもそも絡繰呪装機は言葉など不要な殺戮兵器だ。だから本来なら不要である機能を遠隔操作の園長として備えていれば驚くのは無理もない』
「……オマエ、《斬鬼会》の人間か? 」
『私との会話は成立させないつもりか?まぁいい……お察しの通り、私は《斬鬼会》の人間だ。まぁ、周りからは主様と呼ばれているがな』
「「!?」」
鎧武者から発せられる声、それは遠隔から発せられるものであることと共にその声の主が《斬鬼会》の『主様』だと言うことを明かすと真助と美琴は驚きを隠せなかった。
いや、当然のことだろう。真助は矢如月と砕千を倒した今も『主様』の素性に繋がる情報を得ることが出来ておらず、美琴についてもその存在がある事だけを掴んでいるだけで同じように何も知らないに等しい状態だった。そんな『主様』と呼ばれる敵の組織の上に立つ大将格だと名乗られれば驚かない方がおかしいものだ。
敵の目的、その素性が気になる真助は刀を強く握り鎧武者を警戒しながら声の主に問う。
「オマエが猿山の大将ってんなら答えろ。オマエらは妖刀を集めて何を企んでる?何故妖刀を作り替えてまで揃えようとしている?」
『質問が多い男だな、鬼月真助。そんなことでは見えるものも見えなくなるぞ?』
「この彼岸村を襲ってまでここで何をしようと企んでる?」
『……どうやら矢如月と砕千は私の命令通りに明かすことも無く散ったようだな。否、彼らに与えた妖刀が口封じのための呪詛を起動させたなら話すのは不可能か』
「口封じだと?」
『まぁいい。ここまで私の戦士を倒し生き延びた褒美として情報を与えてやろう。そうだな……私の目的はこの国の破滅だ』
「破滅だと?」
『少し大袈裟に聞こえるだろうが私はこの国を転覆させて戦乱の世を甦らせる。そういう意味では今のくだらないこの国は破滅するということになる。そのためには目障りな羽虫が多いからね。そんな羽虫を根絶やしにするために妖刀が必要なのさ』
「戦乱の世だ?そんな世界……
『戦闘種族の末裔たるキミにとっては血飛沫乱れる世界が見られるのだから嬉しいだろ?』
「……嬉しいわけねぇだろ。今の世界に生きる人間を殺すような事が許されるわけがねぇんだよ」
『私たちもこの世界に生きる人間だ。このくだらない世界を作り替えるためにまずはこの国を転覆させて戦乱の世を始めさせる。そして妖刀を手にした《斬鬼会》が世界を煉獄に変えて世界そのものを憎悪です染める……これこそが私の理想世界の入口だ』
「ふざけたことを……!!」
『ふざけてなどいない。それを教えてあげよう』
声の主の語る傲慢かつ身勝手な理想に真助が怒りを隠せずにいると鎧武者が闇を纏いながら刀を抜刀し、刀を構えた鎧武者は真助と美琴を倒すべく動き出す。
「来る……!!」
『お手並み拝見だ鬼月真助。妖刀に選ばれた男、裏切りの男よ』




