二十一斬
真助はそれぞれの目的のためにと武上美琴にほぼ私欲を優先させた提案をして手を組み、真助はひとまず美琴の案内で『村正』のもとへ向かおうとしていた。
その頃……
フードを深く被った怪しげな黒い装束の『主様』と呼ばれていた人間と軍服のような装束を纏った女が乗っていた怪しい船はとある港へと着港しており、『主様』と呼ばれた人間と女は100人近い黒の装束を着た戦士たちを引き連れて港を歩いていた。港には彼ら以外の人の姿も気配もなく、女が指を鳴らすと100人近い戦士たちは港を調べようとするかのように散開して別々の建物内へと入っていく。
「主様、先程の光は砕千が敗北した報せ……ということは鬼月真助が門の名を冠する我々の同胞を倒したということになります」
「そうだな。矢如月の《飛幽》と砕千の《破戯》が自壊して口封じで彼らを消滅させたということは鬼月真助が彼らを倒したということだ。まぁ、この程度は想定内だ」
「よろしいのですか?残る門は南門の私と北門のあの男だけ、今下についている戦士たちは鬼月真助の足止めになるかも怪しい中でこのように呑気にしていても大丈夫なのですか?」
「急いだところであの男は私たちのもとへ辿り着く。それより……面白いことを教えてあげよう。鬼月真助が武上美琴と手を組んだようだ」
「武上美琴……!?
まさか、あの男の血筋が動いていると言うのですか!?では鬼月真助にあの事を知られて……」
「焦る必要は無いよ。武上美琴はまだ真相に辿り着いていないし、『アレ』のことはハッキリと把握しているわけじゃないはずだから鬼月真助に話せることなど限られているから焦ることは何もない。それよりも……私が気になるのは村正の動きだ」
「村正が動いていることが何かまずいのですか?」
「情報通りなら鬼月真助は妖刀を失った後に手持ちとして持っているのは2本で一式とされる霊刀《號嵐》だけ。2本のうち片方は度重なる戦闘と強引な使い方で限界が来て砕けているだろうから残る1本だけが頼りであり、隠し刀があるにしても矢如月や砕千を相手にして我々の存在がまだあることを知ってしまった以上簡単に出すはずが無い。となれば村正の手により生み出された刀を求めている可能性が極めて高い」
「村正と鬼月真助が合流する可能性がある、と?」
「素直に村正が手を貸せばの話だが、仮にもこの可能性が実現されては困る。何せこちらの新世代の妖刀と妖刀だけでなく刀を知り尽くした現代における稀代の刀鍛冶の手で新たに生み出された妖刀では格が違うからな。そうなれば残る門の名を冠するキミと彼でも太刀打ちが難しくなるかもしれない」
「ですが主様にはお考えがあるのですよね?」
『村正』の存在、そして真助が村正と邂逅することで自らの立場が危うくなるかのような話をする『主様』に対して女は『主様』が何か手を打つ算段があると信じるように尋ね、尋ねられた『主様』は天を見上げながら彼女に伝えていく。
「そうだな。では……少し派手に行こうか弥咲」
「かしこまりました」
******
一方……
一時的に美琴と行動を共にすることとなった真助は村正がいるとされる場所へ彼女に案内させようとしていた……はずなのだが、真助は未だに彼岸村を発っておらず、何故か真助は彼岸村にあったかつては民家だった瓦礫の山を漁るようにして何かを探していた。
「これでもない……あれでもない……ここにも、ない」
何かを探す真助を離れたところから若干呆れたかのような目で見ている美琴。真助が何を探しているのか気になってはいるものの様子を見ようとしていた美琴は少しだけ待つと彼に声をかけた。
「鬼月真助……
「真助でいい」
「では真助……何をしてるの?」
「オレの武器になるようなものを探してる」
「民家だった瓦礫の中から?あったとしても包丁程度でしょ?」
そんなことはない、と真助は美琴の言葉に軽く返して瓦礫の山をさらに漁り、瓦礫の山を漁った真助は何かをその中で掴むと力任せに引き抜いた。
「思った通りだ」
瓦礫の山より引き抜かれた真助の手には鞘に収められた刀が握られており、刀を手にした真助は鞘から刀を抜くと刀身を見ながら美琴に話していく。
「この村には《斬鬼会》の人間がいた。村人がいないところから察するにここは既にヤツらの拠点のように扱われてたんだろうからどこかしらに刀が隠されてると思ったんだ」
「村正に会うのに何故刀を探すの?」
「村正に会うためだ。むしろオマエが案内してくれてすんなり会えるとは思えないし《斬鬼会》がいてここに村人がいないって点から敵が潜んでる可能性を考えたら備えておかなきゃってだけのことだ」
「なるほど……意外と慎重派なのね」
「いいや、刀が手に入れば話は変わる……こっからは派手にやるぜ」
「派手に?」
「ほら……来たぜ」
刀を手にした真助が鞘を投げ捨てるなり後ろを振り向き、美琴も真助の向いた方を一緒に見ると《斬鬼会》の兵士と思われる大量の男たちが刀や槍を持って数km先からこちらに向かってくるのが確認出来た。
敵の接近を確認した真助は首を鳴らしながら刀を構え、美琴は大型のメイスを両手で持ち上げ構える。
「じゃあ、オマエの手並みを拝見させてもらうぞ」
「足でまといにはならないつもりだから……よろしく頼むわ!!」
「ああ、いくぞ!!」
迫り来る敵を迎え撃つべく真助と美琴は勢いよく駆け出し、そして……




