二十斬
武上美琴は何故砕千から情報を聞き出そうとしていたのか、その疑問を『村正』に辿り着くための情報があると口にした彼女に向けてぶつける真助。
真助の言葉、質問に美琴は一瞬だけ間を置き、何やら深刻そうな顔をすると真助の質問に対する答えを述べる前にある話を始める。
「……私の祖父はかつては刀鍛冶をしていた。時代の流れと共に刀の流通が途絶えると包丁などの刃物の造形を行うようになり、私の父はそんな祖父の生き甲斐をと剣術の道に進んで武芸を披露すると共に祖父の刀を広めようとしていた。そんな祖父と父はある日を境に変わった。父はある日出会った若者を弟子に取って剣術を伝授していたがその弟子と共に消息を絶ち、私が見つけた時には父は亡骸となっていた。そして祖父は父の亡骸を見るなり突然刀を作り始めた」
「それで?」
「祖父は狂ったように刀を作り続け、刀を作る時には『何とかしてあの方に応えなければ』と何度も口にしていた。その時は何とも思わなかったのだけど……2週間ほど前に私が家に戻ろうとすると突然私や祖父たちの暮らす家が爆破された」
「まさかオマエ、家族を……」
「祖父は刀鍛冶の職場にいて不在、私の母と祖母は父の亡骸を見た事と祖父の狂ったような刀作りに耐えられず家を離れていたから誰も亡くならなかった。だけど私は祖父が度々口にしていた『あの方に応えなければ』の言葉が気になってしまって祖父がいる職場に駆けつけた。そこに《斬鬼会》の下っ端がいたのよ」
「なるほど……オマエのじぃさんは《斬鬼会》のやつらの武器を作らされていたのか」
「そうなるわね。状況を知らない私はひとまず祖父を助けたが、祖父はその時に『私では村正にはなれなかった』と話した後に精神的に壊れてしまった。翌日私は祖父を襲った下っ端を手荒な尋問をする形で《斬鬼会》の存在とやつらが妖刀を手当り次第集めていること、集めた妖刀で次世代の妖刀を生み出そうとしていること、そしてやつらが自分の望みを叶えられる刀鍛冶として注目している『村正』と同等の技術を持つ刀鍛冶を見つけて拉致しようとしていた事が判明したわ」
「拉致?待てよ、オマエのじぃさんは敵の親玉の期待に応えようとしてたかのようなことを言ってたんだろ?なんでわざわざ拉致なんて真似を?」
「その辺の詳しいところは分からないわ。とにかく私の父の死がきっかけで祖父は何かを感じ取り刀を作り続け、そして《斬鬼会》はそんな祖父を狙って現れた。私が情報を求めるのは何故祖父を狙ったのか、何故祖父が刀を作り続けるような事になったのか、そして父の身に何が起きたのかを知るためよ」
美琴の話した内容、そして彼女の目的を聞いた真助は彼女のそれらに対して理解するように静かに聞くと一息つき、近くの瓦礫の山に座るなり真助は美琴に彼女の祖父の事を尋ねた。
「そのじぃさんは今どうしてんだよ?まだ狙われてんならオマエがここにいたら危険じゃないのか?」
「祖父は警察に保護されています。流石の《斬鬼会》も警察を襲撃するのは避けたいのか現れていないようだけど、1つ気になることがあるわ」
「気になること?」
「ええ。祖父は警察に保護される直前に私に向けて『ワシが助かってもアレが取られたら何も変わらない』と話したのよ」
「取られたら……」
(何だ?何を取られたらまずいんだ?コイツのじぃさんは刀鍛冶、てことは刀かそれにまつわるものだろうけど、仮にそれだとしたらじぃさんを襲撃した現場にコイツが居合わせたそのタイミングで何かしら持ち去っててもおかしくない。だがコイツのじぃさんはその後の保護段階で大切な何かの存在を伝えた……どういうことだ?《斬鬼会》は妖刀を集めて新たな形に作り変えようとし、コイツのじぃさんや他の刀鍛冶は妖刀に詳しいとされる『村正』の代わりにされようとしていた。そして警察に保護される前に伝えた『アレ』の存在……一体何が起きてるんだ?)
「ちなみにだが……オマエは私の祖父が言う『アレ』の見当はつくのか?」
「んなわけねぇだろ。むしろ教えてもらいたいくらいだ」
「そう、よね……ごめんなさい」
謝んな、と真助は美琴に向けて軽く返すなりため息をつき、少し考えるように静かになると立ち上がり美琴を見ながら彼女に今後について話し始める。
「オマエの事情は分かったし、オマエが別に怪しい人間じゃないことも理解した。さっきの村正の所への案内は有難く頼もうと思うがそれじゃ不公平だ。だから取引だ」
「取引?」
「オレは村正のところで妖刀を手に入れて《斬鬼会》を潰す、オマエはそれについて来て自分の親が巻き込まれた謎とじぃさんが言ってた『アレ』が何かを突き止めろ」
「それの何が取引になるの?」
「オレは妖刀を手に入れて強いやつと戦い倒したい、オマエは情報が欲しい……オレは多分妖刀を手に入れたら《斬鬼会》のやつらを全員斬り倒すだろうから最終的には本丸に辿り着くはずだ。オマエは本丸になら確実にあるであろう情報を持ち帰れ」
「……強引な取引ね。要するにアンタは村正と会って妖刀を手に入れた上で敵の妖刀使いを倒したい、その見返りとして私の祖父が言っていた『アレ』の正体と父が亡骸になった理由についての情報を見つけられる場所まで連れていくってことかしら?」
「悪い話じゃないだろ?」
「悪い話よ……私には何の得もないアナタの我儘なのだから。でも、受けないよりはマシかもね」
決まりだな、と真助は自身の提案に乗った美琴に手を差し伸べ、美琴がその手を掴み握手を交わすと伝えていく。
「ひとまずは《斬鬼会》の討伐に向けて共闘だ」
「そのためにまずは村正に会う、だろ?」
「ああ、案内してもらおうか……村正のところへ!!」




