二斬
少し話を遡ろう
世間を騒がせた騒動として語られる《十家騒乱事件》での騒動が収まり、事件の裏に隠れていた色々な問題が浮き彫りになってきた頃……大体2ヶ月半くらい前だ。騒動については割愛するとして……
鬼月真助にとっては死活問題になるある事が起きていた。
「嘘……だろ……?」
放置していればいずれ問題となりうるとされるテロ組織の殲滅作戦に参加した時にそれは起きた。
テロ組織の殲滅作戦にはオレの他に仲間である刀使いの金髪の雨月ガイもおり、今回の作戦を立案した責任者のいるある名家の《一条》の能力者が参加していた。作戦自体は成功、テロ組織の能力者と参加者は制圧して事を終えたが……
オレの手にしていた武器が壊れたんだ。手にしていた刀の刀身が粉々に砕け散り、柄にも亀裂が入っていた。
「なんで……んなことに……?」
オレの得意としてる武器が刀なんだが、使ってるのが普通のじゃなくてな。いわく付きの刀、所謂妖刀だ。呪いだの怨念だのが込められた刀として知られるそれをオレは使っていた訳だが……それが壊れた。
折られたとかじゃないんだ。戦闘中に勝手に壊れたんだ。
不思議な話だろ?まぁ、色んなことが重なってのことなんだが……
「何で壊れたんだよガイ。今までは何ともなかったのに……理由は分かるか?」
一緒に作戦に参加していたガイは刀についての知識が多い。だから理由もすぐに分かるだろうと思って聞いてみた。するとだ……
「そもそも、今まで壊れなかったのが奇跡なくらいだけどな」
「あん?」
「真助のこの刀……《狂血》は以前破壊された血を喰らう妖刀の《血海》の欠片を小太刀の霊刀の《號嵐》の刀身に同化合体させて完成した妖刀だ。妖刀の持つ力は間違いなく他にはない強さを持っていたわけだが、真助との相性が悪すぎたんだよ」
「は?何言ってんだよ?
そもそもオレが使ってた《血海》の欠片に秘められてた力と新しく得た小太刀の霊刀の《號嵐》の力が呼応して進化したのが妖刀の《狂血》だ。普通に考えればオレ専用に進化したと言っても過言じゃねぇのに何でそんな風に相性悪いとか言われんだよ?」
「オレが言いたいのは真助の技量云々での相性じゃなくて真助の力量に対しての刀の性能の相性だ」
「あん?」
何が言いたいのか分かんねぇ。技量云々じゃなくて力量に対しての性能?何が違うんだ?
オレが疑問に思っているとガイは壊れたオレの刀を指さしながら分かりやすく開設しようと話していく。
「真助の剣術は我流とはいえ能力も合わされば剣術家はともかくその辺の能力者程度じゃ太刀打ち出来ないレベルだ。そして《號嵐》も《狂血》もその辺の武器なんかじゃ到底敵わない力を発揮するだけの力を秘めている。でも、その2つの強みが噛み合ってないんだよ」
「つまり?」
「真助の実力と技術に刀が対応しきれてないんだ。今回壊れたのは使いすぎてるとかの消耗じゃなくて刀そのものが真助の力に適応していないことによる許容し切れない負荷による自壊だ」
「はぁ!?今まで何ともなかったのにか!?」
「今まで壊れなかったのは奇跡的なものだな。《號嵐》は『魔力・能力を増幅させる』という霊刀としての力を備えていたが元々の耐久性はそこまで高くなかった。そこに妖刀であれ《血海》の欠片を重ねる形で小太刀の霊刀を太刀の妖刀へと一時的な合体進化をさせて使うのが《狂血》だ。小太刀を太刀にする、この時点で刀身を形成する鉄鉱石や特殊合金が不足しているのに霊刀を別の性質を持つ妖刀に変換して使用する……簡単な言い方するなら、真助は今まで4人乗りの車に20人乗せて走らせるようなことをしてたってわけだ」
「……分かりにくい例えをするな」
「言い回しがアレだったか……とにかく、今の真助に刀が適応してなかったってのが1番の原因だからあんま気にしなくていいと思うぞ」
「そうかよ……まぁ、とりあえず打ち直しか。直せる野郎ってどこにいるんだ?」
理由はともあれ壊れた原因は分かった。あとは直して戻すしかない……ってオレは考えたんだが、どうやら考えが甘かったらしくガイは首を横に振るとオレに驚きの事実を教えてくれた。
「残念だがここまで壊れた妖刀と霊刀を直せる人間はいない。刃こぼれした程度なら引き受けてくれそうな鍛冶師がどこかにはいるかもしれないけどこんな風にひどい壊れ方をしてる刀を打ち直せる人を見つけるのは不可能だと思う。まして特異性を持った霊刀、仮に直せるとしても何年かかるか分からないし直せたとしても《狂血》のような変化のために仲介させるのはご法度にされるだろうな」
「じゃあ、諦めるしかねぇのか?」
ガイの説明から察するに壊れたオレの刀を戻すのは困難らしい。直せる人間がいるかどうかの問題もだが、オレが持ってる刀が特殊すぎるが故に手を施せる人間が限られる……そんなことを言われたとなると流石に諦める他ないかとオレは思った。
だが、ガイはそんなオレにある話をしてくれた。
「……もう1つだけ、方法はある。村正を見つけて新しい刀を生み出させる方法だ」
「村正?」
「霊刀と妖刀を生み出させるだけの技量があるとされる刀鍛冶として名を馳せる人物だ。年齢不詳、性別不明、出自すら謎だが刀鍛冶としての技量の高さは確かで日本国内で出回ってる刀剣のほとんどがそいつによって造られてるって噂だ」
「ほとんどの刀が!?」
「刀鍛冶の職を持つ人間が少ないとかじゃないんだがテロリストや密入国者に使われて職を失うことを恐れて日用レベルの包丁やらで止めてるってパターンが多いんだ。そのせいなのか賞金稼ぎや軍に手配される刀を造ってるとされる刀鍛冶で代表として扱われるのが村正ってのになるんだよ」
「そいつなら可能性が?」
「ある、かもな。噂でしか聞いたことがないが多くの霊刀と妖刀に実際に触れてる機会がある人物とされているし、真偽は分からないが折れた妖刀を直したとかって話もある」
「マジか!?なら……
「けど、今生きてるかどうかは分からない。そもそも噂が独り歩きしてるような状態だし誰もそいつと会ったことがない。オレも噂を聞いているくらいだし……変な言い方すると、そんな人間が実在してるかも怪しい」
「おいおい、振り出しに戻ったじゃねぇか……」
「そうだな……。ひとまず言えることはアテのない噂だけが頼りの村正を闇雲に探して妖刀を手に入れるか妖刀を諦めて手頃な刀を手に入れるかだな。こだわりがないなら後者の方がいいと思うがどうする?」
「……こだわりがあるからどうにかしようとしてんだけどな。
本当にアテはないのか?」
「よほど慌ててないなら避けるべき道だとオレは思う。話しておいてアレだが……夢物語に縋るようなものだからな」
「そうか……なら、博打ってわけだな」
彷徨うか手堅く行くか……ガイの示した2つの選択肢、茨の道を行くか平坦な道を行くかの分かれ道を前にしてもオレにとっては悩むことなんて無かった。
進むべき道はすでに決まっているのだからな。
「オレは妖刀使いの鬼月真助、当然使うとなれば手頃な刀じゃ物足りねぇ。だから見つけてやるよ……オレの手で村正をな!!」
こうしてオレの新たな刀を探すための第1歩が踏み出された。これが苦難だと知ることはこの時のオレには出来なかったが……