十八斬
砕千の軍刀の妖刀《破戯》による大気の攻撃を防いだと思われる真助の左手に握られた小太刀。真助はこの小太刀を霊刀《號嵐》と呼ぶが、それを聞いた砕千はそれを信じようとはしなかった。
「それが霊刀?しかも《號嵐》だって?
笑えねぇな。オマエの言う通りにそれが《號嵐》ならおかしいよな?だってオマエの霊刀は妖刀の欠片との一時的な同化進化を繰り返した反動で壊れたはずだ。ここにあるはずがねぇ」
「節穴か?ここにあんだろ?」
「贋作を本物と言い張るつもりか?オレの中のオマエに対する評価を下げるようなことをしてくれるなよ」
「好きに言ってろ。今ので何となく理解したぜ」
「何をだ?」
「オマエの……いや、オマエら《斬鬼会》の情報収集の甘さだ。妖刀を集めてるからこそ妖刀への知識は十分なくらいだろうが、霊刀に関しては瑣末と言える程度しかない。ガイのことを危険視してるらしいがそれはガイの強さじゃなくてガイの持ってる霊刀使い故の霊刀の知識と霊刀以外の刀剣への知識を警戒してんだろ?」
「そんなことは……
「否定し切れるか?そんなことは無いとハッキリと言い切れるか?オマエは今、この《號嵐》が2本で1つに数えられる霊刀だと知らなかった。あの方とやらと同じように妖刀の力を感じ取れるオレを危険視する中でオレがどんな装備を持ってるかを把握してないなんて事は無いよな?」
「……っ」
「返す言葉が無いってのが答えだ。オマエらは妖刀と対を成すとされる霊刀のことを詳しく知らない。求めてる妖刀さえ手に入れば他はどうでもいいと考えるオマエらの大将様の驕りが招いた情報不足だ」
「あの方を……侮辱するな!!」
真助の言葉、《斬鬼会》を束ねているとされる『あの方』を侮蔑するかのような彼の数々の言葉に感情が抑えられなくなってしまった砕千は《破戯》を振ると同時に巨大な大気の塊を真助にぶつけようと生み出していく……が、真助は小太刀に軽く黒い雷を纏わせた上で軽い力でそれを振る。すると小太刀はその見た目と力加減からは考えられぬほどの強い力を秘めた斬撃を放ち、放たれた斬撃は砕千の生み出した大気の塊を容易く両断して消滅させる。
「なっ……」
大気の塊を破壊された砕千が斬撃の秘めた力に驚いていると真助の小太刀より放たれた斬撃は勢いそのままで砕千に襲いかかり、驚いていたがために反応が少し遅れた砕千は慌てて避けようとするも左肩に斬撃を掠めて傷を負ってしまう。
「くっ……」
「律儀に話してくれたお礼にこの《號嵐》のことを話しておいてやる。コイツは2本で1つの霊刀、2つが同じように内包している力はそよ風を嵐に変えると謳われている」
「わけの……分からんことを!!」
「分かりやすく話してやるよ。コイツは纏った力、放つ力を1から100にまで引き上げることを可能とした霊刀だ!!」
左手に持つ小太刀、霊刀である小太刀《號嵐》を構えた真助は黒い雷を纏うと駆け出し、真助が駆け出すと黒い雷はこれまでに無いほどに激しく轟き力を強くさせていく。
黒い雷の力が増すと纏っている真助の身体能力も同じように強化されたらしくその動きは視認出来るような速度ではなくなり、真助の速度が上がったことで姿を見失った砕千は視認出来ぬことによりどこから攻撃されるかか分からないという現状をどうにかしようと自身の周囲四方八方に斬撃と大気の刃を放ち続ける。
砕千の軍刀より放たれる斬撃と妖刀の力が生み出す大気の刃は真助を捉えられずに彼岸村の建屋を次々に破壊していき、姿の消えた真助に攻撃を当てられない砕千は苛立っているのか叫び出す。
「クソが……!!
何でだ……何で当たらねぇんだよ!!」
「これが力の差だからだ」
砕千が叫ぶ中で真助の声が聞こえ、その声に砕千が反応しようとすると彼が認識出来ぬほどの超速で無数の斬撃が襲いかかって彼を負傷させ、斬撃を全て受けた砕千が倒れまいと軍刀の妖刀を支え代わりにしようとすると今度は強い衝撃が砕千に激突したかのように彼を吹き飛ばし倒してしまう。
「がっ……!!」
こんなもんか、と真助は倒れた砕千の前に現れると黒い雷を消し、倒れる砕千の前に立つ真助は左手に持つ小太刀の霊刀《號嵐》の切っ先を砕千に向ける。小太刀の切っ先が砕千に向けられるとその瞬間、黒い雷の刀の媒体にされていた刀身の壊れた刀は真助の右手の中で鍔から柄の全てが砕け散り粉々になって消滅してしまう。
「……やっぱその辺のそれっぽい刀じゃ素材が甘すぎて耐えられねぇか」
「……そよ風を……嵐に変える、か。
纏う力を最小限に抑えながら最大限に引き出すという矛盾を覆す刀とは……そんな隠し玉、想定も出来なかったな……」
「そりゃそうだろうな。さて……反省会はあとでゆっくりしてくれ。まずは……
「ちょっと待ったァァァ!!」
真助が倒れた砕千相手に何かをしようとしたその時、そろを妨げるかのように声が聞こえてくる。誰なのかと声の主が気になった真助が声のした方を向くと、そこには……