十六斬
刀身の砕け散った柄だけになった刀は最早使い物にならないガラクタも同然。本来ならばそうなのだが、真助は手に持つ刀の壊れた刀身を補うかのように黒い雷を用いて刃を形成して武装の確保を行い、想定外の事に砕千に驚く中で虚を衝くように真助は一閃を放って敵の大剣を両断して武器として使い物にならない状態に変えてみせた。
あまりに大胆な真助のやり方、それを見せられた砕千は真助から離れようと後ろに跳んで距離を確保し、両断されて壊れた大剣に目を向けると砕千は驚きからなのか笑ってしまった。
「ハハハハ!!愉快な野郎だ!!
まさかこんな技残していたとな!!」
「……武器壊されても余裕かよ」
「にしても……そんな技を残してるんなら何故最初から使わなかった?矢如月の時もその前に倒したアイツの部下を倒した後に壊れた刀を持ち歩いてりゃ使えたんじゃねぇのか?」
「だからだよ。あの《一条》が追いかけてる組織の人間を相手にするってなればお仲間がどこからか監視してる可能性があると考えた。どんだけの敵が潜んでるか分からねぇのに早々に手の内明かしてお手上げになるのはゴメンだからな……だから隠してた。それにこういうのは隠しといて敵が余裕見せてる時に不意に使った方が効果が大きいんだよ」
「なるほど……戦闘種族の戦闘狂程度に認識していたがどうやらオマエは事前情報にはない高い思考能力があるらしいな」
面白い、と砕千は真助が今この時に黒い雷の刃を壊れた刀に施した理由を聞いて納得すると嬉しそうな言い方をし、真助は黒い雷の刀を構え砕千に切っ先を向けると今度は敵に向けて告げていく。
「楽しそうなところ悪いがそろそろオマエの本気を見せろ。
大剣はもう使えない、ってなったら抜くしかないよな……その軍刀の妖刀を」
「なんだ、軍刀が妖刀って見抜いてたのか?」
「簡単な話だからな。仮に大剣が打ち直された妖刀だったとしてオマエが途中で魔力を纏ったのはおかしいからな。妖刀には妖刀特有の力がある。妖刀の力を高めるために能力を併用することはあるにしても単なる身体強化程度に終わる魔力を妖刀と併用する意味なんて無いからな。だからオマエが大剣を使う中で魔力を纏った時、その軍刀がオマエのために打ち直された妖刀だって理解したよ」
「……なるほど。オマエの本気を試そうとしたのがヒントになるなんてな。さすがにそこまで思考働かせてるとかは予測出来ねぇな。けど……」
真助に軍刀が妖刀だと推理され、そしてそれが正しかったと言わんような反応をした砕千は真助によって刀身を両断されて使い物にならなくなった大剣を投げ捨て、そして砕千は腰に携えている軍刀に手をかけると静かに抜刀する。
抜刀された軍刀は青白い刀身に光を反射させ、抜刀された軍刀の刀身を目にした真助は鞘に納められていたことで隠れていた力を肌で感じ取り、そしてその力の強さをすぐに理解した真助は黒い雷の刀を構え敵の動きに反応出来るように用意していた。
「矢男の《飛幽》って妖刀とは違う強い力を持ってるようだな。それにその鞘、矢男は無数に札を貼って封を施してたのに一切無しに封を施せるってのは大したもんだ」
「矢如月の名はアイツの妖刀の名前は律儀に覚えているのか。不思議な男だな」
「超速化を可能にさせる妖刀……砕け散ったのは勿体なかったが、壊れてなきゃオレの新しい得物にする予定だったからな。そのつもりの刀の名前くらい覚えているさ」
「超速化……?なるほど、そう解釈してるのか」
「あ?」
「失礼だが《飛幽》は超速化の妖刀ではないんだよ。あの妖刀の力は正しくは転移……つまりは座標移動を可能にさせる妖刀だ」
「座標移動?空間移動か何かか?」
「その解釈でも構わない。《飛幽》はそれを短時間に何度も使うことが可能な妖刀だが、それだけでは決め手に欠けるとして打ち直しを行って複数の力を施して完成させたのが短剣型の異型妖刀だ」
「異型妖刀……てことはあの形は普通じゃないって認識してんのか?」
「刀と言いながら刀でない形をしている……矛盾してると思うのが自然だろ?だからオレは正しき形をしている軍刀を選んだ」
「正しいからって理由で選んでよかったのか?聞いた話だと使い手に馴染むようにって配慮もあんだろ?」
「ああ、その点は問題無いことだ。何せ……大剣も軍刀もオレの得意としてる得物だからな!!」
軍刀の妖刀を手にした砕千は構えるなり一瞬で真助へと接近し、接近と同時に砕千が軍刀を振ると真助はそれを受けまいと黒い雷の刀で攻撃しつつ防ぎ止める。
互いの武器がぶつかり、その際に生まれた力で2人は引き離されるように吹き飛ばされるも2人は倒れることなく着地すると構え、そして砕千は軍刀を構え直すとどこか嬉しそうに強い力を全身に纏い始める。
「今のを耐えるとは能力で補強されてるだけとは思えない強さだな。これなら……最初からこの《破戯》の力を使えそうだ!!」
嬉しそうに語った砕千が軍刀の妖刀……《破戯》を振り上げると大気が大きく振動し始め、そして……
真助が警戒しようとした瞬間、強力な力がどこからか生まれ飛んできて真助を吹き飛ばす。
「!?」
「さぁ、鬼月真助……楽しもうぜ!!」




