十一斬
急ぎ走る真助。1時間程度走り続けた彼はどうにかして目的地である彼岸村に到着した。
まともに情報が機能していない地図から察してかなりの田舎とされる地域、出発地点である雲禰村から辿り着ける村と呼べそうなものが1つしかないことは真助は頼りない地図で一応確認していたことで自身のついた村が目的の地だということに気づけた、
とはいえ村全体は生きてるとは言い難いほどに暗かった。何十年と経ってるであろう木造の建屋がいくつも並ぶ村には人がいる気配は感じられず、敵の存在を警戒する真助は村から少し離れた大木に身を隠しながら観察しようとした。
「……静かすぎる」
(雲禰村にはそれなりに人がいたし廃れてたとはいえ工場があった。なのにここは人の影所か人がいることを感じさせるものが全くない。矢男の野郎みたいな微かな妖刀の気配を持った人間の気配も無さそうだし……どうする?封印されてる妖刀を探すか?いや、矢男の話だとオレは妖刀の発する力を感知出来る力があるみたいだったな。あの花火で仲間が矢男の死の報せを受けたとしたらオレか誰かが来るのを警戒してるはず。妖刀の封印場所が判明してないとしたら……その敵をオレが案内することになるな)
「行動を起こしたくても起こせない、まどろっこしいな……」
警戒すればするほど動けなくなる、自らの警戒心に行動を制限させられる真助が底のない警戒心の沼に落ちかけていたその時、真助を彼が落ちかけた警戒心の沼から助けるかのように古びた建屋の扉が開き、建屋の中から2人の男が外に出てくる。
「……違うな」
大木に身を潜めながら遠目で確認した真助は一言呟いた。男は2人とも刀を腰に携行しているのが確認出来るがそのどちらも真助が警戒していた妖刀ではないらしく、遠目で確認した限りでは2人の男は刀を腰に携行している以外はこれといった武装もなく軽装だった。
資材置き場で倒した2人とは銃器と刀で武装の傾向が違うが、妖刀を持たないあたりで資材置き場にいた男が矢如月の指示を受けていた部下だったようにこの2人も妖刀を持つ誰かしらの部下だろうと真助は考えた。
「ファウストとは連絡が取れない今、殺さずに生かして倒さなきゃな……」
(けど、可能なのか?矢男の死体の消滅を見た後だとあの2人すら消滅して口封じされることもありえる。どうする……?)
矢如月の遺体の消滅の件から2人の男も同じように消えるのではないかと気にする真助。手掛かりが目の前にあるのに行動を起こせない、確証のないもしもを前にして判断を下せない真助は判断材料を得るべく大木の影から少し身を出すなり素早く 駆けて2人の男の声が出来るだけ聞こえる位置に移動して物陰に身を潜める。
2人の男が何かを話せばそれを盗み聞き情報を得る、真助は判断材料を得るために情報収集を選択したのだ。
「さて……」
何か話せ、盗み聞くべく2人の男の会話に期待する真助。そんな真助の期待通りに2人の男は真助に気づくことも無く会話を始めた。
「そういえば聞いたか?例の妖刀、あの方が弥咲様と発見して封印を解かれたらしいぞ」
「ああ、例の妖刀か。封印場所は早々に見つけたのに封印が強すぎてなかなか回収出来なかったって話だったな。あの方と弥咲様が揃いになられたとなればどんな封印も容易く破られるってことだな」
「それなんだけどよ……オレが聞いた話だと施されていた封印を解くのにあの方はある妖刀の気を持ち込んだらしいんだ。その妖刀の気があの方の血を介して封印を破ったってな」
「血を媒体に封印を破る力を発揮するとは驚きだな。で、例の妖刀はいつも通りバラされんのか?」
「それがよ、あの方が弥咲様に話してた内容だといつもみたいにバラして打ち直すのに使う欠片が足りないんだとよ。例の妖刀に高い適合反応を示すのはあの方が持ち歩く欠片と同じ妖刀の他の欠片が必要なんだとよ」
「その欠片が見つからないから打ち直せないってことか」
「でもよ、その欠片を持ち歩いてる人間には目星がついてるらしい。というか、壊れる前の妖刀の持ち主が分かってるんだとよ」
「マジか!?なら見つけて奪うしかないな!!」
「そうもいかねぇんだよ。その欠片を持ってるやつは戦闘種族とかで危険性が高い上に今世間で有名になってるあの覇王に仕えてるせいで下手に手を出せば《斬鬼会》が目をつけられるってことで下手な手出しは出来ないんだ」
2人の男が何かについて話す中、物陰に隠れ盗み聞きをする真助は予期していなかった内容を耳にして衝撃を受けていた。
「嘘……だろ……?」
(覇王ってヒロムが世間で呼ばれてる異名だ。そのヒロムに仕えてる戦闘種族はオレかシオン、その血を移植されたカズマだけ。3人の中で妖刀の欠片を……妖刀を持っていたのは1人だけ)
「《斬鬼会》の狙いは……オレの持ってる……《血海》の欠片……!?」
敵の狙い……《斬鬼会》の中心人物とされる『あの方』が探し求めるのは真助が今も持つ妖刀《血海》の欠片だと知り驚きを隠せない真助。だがそれよりも……
「……他の欠片……ってことは……」
(《血海》が破壊された時、オレが回収した欠片以外の別の欠片を誰かが回収してたってのか……!?)
かつての自分の愛刀たる妖刀の砕け散った欠片を自分以外が持つと知った真助。誰が回収したのか、どこの誰なのか……様々な事が真助の中で疑問となろうとする中、真助は黒い雷を全身に纏いながら男2人の前へと飛び出ると躊躇いなく襲いかかる。
「「うわぁぁぁあ!!」」
「教えろ……欠片を持ってったのはどこのバカだ!!」