平和なゴブリンの集落
久しぶりに投稿します。
<3話:平和なゴブリンの集落>
『これから勇者召喚の儀が始まるというのに嫌にピリピリとした緊張感が空気を支配している。
これはただ緊張しているだけではなく、目の前にいるこのご老人、司祭様が威圧スキルか、
それに類するものを使っているに違いない。この司祭は私とは教会内の敵対派閥だから面倒を起こさないことを祈ろう。
追い出したり、交代したりすることはできない。
彼は私と敵対している保守派の中でもトップクラスの実力者なのだ。
代わりは教皇様かそれと同じくらいの方ではならない。なんとも憂いことだ。』
頭が割れるように痛い。
唸りながら起き上がると体には粗末な布が掛けられていた。なんだか腐ったような匂いがする布だ。
そして周囲がとても暗い。まるで洞窟のようだ。
だがすぐに目が慣れてくると、周りが見えてくる。
岩肌がしっかりと見えていて、本当に洞窟にいることが分かる。
……ああ、異世界に来たんだった。
自分の手を掲げ、見てみる。
やはり緑色だ。
前世の火傷の跡がくっきりと残る手とは大違いだ。火傷がなくてもだいぶ違うが。
今世ではよい人生、魔物の世で魔世か?語呂が悪いな、人生でいいか。まあ前世よりは周囲の環境はいいだろう。ゴブリンだけど。
そんな取り留めのない思考もすぐに終わることになる。
「どうやら、起きたみたいだな。」
頭の方から声が聞こえてきてびっくりして、見上げると、老人みたいな皴だらけのゴブリンがいた。
そっちがこの部屋の入口みたいだ。起きて数秒とたたずに来るなんてタイミングが良すぎる。
「ここはわしらの氏族の家である、洞窟だ。前ゴブリン・ロードの命により勇敢な若者達がそれぞれの氏族より数十人集まり、住みやすいように掘りなおした傑作だ。まあその勇敢な若者はわしも含んどるがな、はっはっは」
無駄な自慢話が8割くらい含まれていそうな話だが、とりあえずここは安全地帯のようだ。
と、そんなことよりも―――
「僕のために、ここまで連れて帰ってもらい、そして看病もしてくださったようで、ありがとうございます。」
―――礼を言わなくてはいけない。
「これは親切にどうも。ですが安心なされ、あなたはもうほぼ我ら氏族の仲間と思うておる。まあ、
息子達のように礼も何も言わぬのは悲しくなりますがな。はっはっは」
良く笑う人だなと少し思ったところで。
「それより、一日も寝込んでいたんだ、少しは腹が減っているだろう。動けるなら洞窟より出てすぐのところにワ―ピッグの肉を焼いてある。食べてくだされ。」
oh...一日も寝込んでいたんだ...。お腹はかなり減っている。だが、まともな食事はこんなゴブリンの洞窟で出てくるのか?
洞窟から出ようとする途中、壁や岩に光るキノコが生えていた。
あの長老と名乗った老ゴブリンはやることがあると洞窟の奥の方に向かっていった。
だから自分は一人で向かっている。道中にすれ違うゴブリンなどはいない。長老曰く、どうやら食事時でみんな外にいるらしい。火は洞窟内で焚けないからね。
それで、あの光るキノコだが洞窟内のいたる所で生えており、前世日本にも分布していたヤコウタケとは違い青色に光っている。ちょっと不気味だ。
そんなワクワクするような小さな発見をしながら一分とかからず、洞窟から出ることができた。
外に出たとたん、周囲にいた30人くらいのゴブリン達からの視線に晒される。
人じゃないからか、はたまたこんな非現実的状況からか、あまり緊張はしない。
「おー、元気になったのか、緊張はしないでいいぞ!」
「こっちに来いよ、ワ―ピッグのデカい肉を分けてやるよ!」
ゴブリン達もかなり好意的だが、一つ疑問を感じた。
喉から出かかるが寸前で止める。ゴブリン達の中では当たり前かもしれないし、
それは、ここにいる全員、男しかいないのだ。同人誌かな?
後でそれとなく聞いてみようと思い、肉を受け取る。そしたら本当に他の人よりでっかい骨付き肉を渡してきて周囲から羨望のまなざしが向けられた。
「おい!俺にもおんなじ大きさのをくれ!」
「お前にはもう肉は渡した後だろ。」
「うるせー、おかわりってやつだ!」
「残りは保存する。」
悔しがりながらも諦めた様子の兜を装備していた昨日のゴブリンは、手に持っていた肉を噛みちぎる
反動で尻もちをついてしまった彼に笑いが起きる。とても平和的な雰囲気だ。
自分も地べたに腰を下ろし、今の自分の腕よりも一回り、二回りも大きい肉に食らいつく。
太陽が地平線の向こうに落ちるような時間だった。
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