暴君襲来 4
残念なことに、うちの冷蔵庫の中身は突然来訪した暴君の攻撃に耐えられるほどの備えはなく
僕は今日二度目の土下座をかましていた。我ながら完璧なフォルムの土下座で惚れ惚れする。
「で?何も作ってないわ、冷蔵庫に何もないわって、アンタあたしのことイライラさせる天才ね?」
いくら完璧な土下座をしたところで許してくれるはずもなかった。そりゃそうだよね。どうしよう、さっきから冷汗が全然止まる気配がないよ。
...今ここで答えを間違えたら確実に、死ぬ!考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!
誰だよ家が一番平穏で安全な場所だって言ったやつ!絶賛命の危機に瀕しているよ!謝ってよ!誰だか知らないけど!
おっと脱線してしまった、危ない危ない。
ごくり、と息をのむ音が響く。そして僕は意を決して
「御覧の通りこんな有様なので、大変恐縮なのですが僕と一緒にスーパーへお買い物に行っていただけませんでしょうか!?!?」
なんかとんでもないことを言ってしまっていた。
・・・終わったな。
どうやら僕の人生はここまでのようです。ごめんね姉さん、美々。これからは好き嫌いせずごはん食べるんだよ。グッバイ現世!僕は異世界をチート無双で攻略しつつ美少女侍らせて究極のリア充生活を送るね!
なんてこれから待ち受ける異世界生活に胸を躍らせていると、完全に忘れていた存在が口を開き
「...っぷ、あっははははははははアンタこのあたしに買い物に付き合えって言ったの?ふふっ、あははははは、あーお腹痛い」
なんかツボに入ったのか、大爆笑されている。そんなに面白いこと言ったつもりないんだけど。
「アンタ誇りに思いなさい、このあたしを誘った男子はアンタが初めてよ」
「え?」
一瞬ドキッとした気もしたが、僕の初めてがこの暴君なのかっていう気持ちが甘酸っぱい感情を全て闇で覆った。
「ワーイ、ウレシイナァ」
「調子乗ってんじゃないわよ、頭を垂れて、歓喜の涙を流し、私を称えながら喜びなさい」
とうとう喜び方にまでケチをつけてきたぞこの暴君。
「そ、それじゃ買い物行きましょうか?」
「は?行くわけないじゃないめんどくさい、アンタ一人で行きなさいよ」
うーん、これ僕じゃなかったら確実に心折れてるね。この人に対して特に期待も何もなくてよかった。ほんとありがとう!尊敬できるような人じゃなくて!
ということで何故か他人を家に置いて、僕は近所のスーパーへ繰り出した。