暴君降臨 4
水無梅子
2年G組に在籍し、成績優秀、2年生にして学園の生徒会長も務めている。
この聖麗学園でその存在を知らない人はいない。カーストの頂点に座するお方だ。その容姿に男子も女子も先生でさえも虜になってしまう程。
誰とでも分け隔てなく接するそのお姿から、「聖麗学園の女神」なんて呼ばれている。
そんな女神が、今僕の目の前で全裸で仁王立ちしている。
やはり僕は異世界に飛ばされていたのかもしれない。
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全裸で仁王立ちする美少女と土下座する地味な男。どうみても事案ですありがとうございました。
「ねぇ、あんたここで何してんの?」
おや?僕の知っている女神はもっと優しい口調だったような...
あと全裸で仁王立ちとかしないよ...女神じゃなくてもしないけどさ...
「ここでお弁当を食べようとして入っただけなんです」
「は?こんな所にわざわざ来てんじゃないわよ」
それは貴女にも言えるのでは?なんてことは口が裂けても言えない。僕はただ「すいません、誰にも言いませんから許してください」と言うばかりだった。
「まぁいいわ、あんたみたいな奴に見られた所で何かあるわけでもないし」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
そもそも全裸でいる事がおかしいんだけどね?勿論こんな事も言えない。言ったところで僕に勝ち目はない。
というかいい加減服着てくれませんかね...土下座の体制って割と辛いんですよ?
「でもただで見られたのも癪なのよね....そうだ!今日お弁当忘れちゃったのよ、だからあんたのお弁当よこしなさい、それでチャラにしてあげる」
ぐ...学園生活唯一の楽しみであるお弁当を奪われるのか....
でもそれで許されるのなら....
「わかりました...差し上げます...差し上げますのでまず服を着てください!そんなんじゃ渡せないです!」
「...それもそうね、また裸見られてもあれだし」
そういうと水無先輩は溜息をつきながら制服を着ていく。溜息つきたいのはこっちですよ。
着替え終わったのを確認した僕は、袋からお弁当を取り出し水無先輩に渡した。
ちなみに今日のお弁当は姪っ子のリクエストでオムライスだ。時間が経ってもベチャッとしないよう米は水分少なめに炊き、オムレツもふんわり食感を出すためマヨネーズを入れたこだわりの一品だったりする。
渡したお弁当の蓋を開けると今までの鬼の様な形相が一転、子供のように目を輝かせ、笑みが溢れていた。
「あ、オムライスだぁ」
え...誰ですか?この一瞬の間に別人に入れ替わったのかな?
まごうことなき学園の女神がそこにいた。
「いただきまぁす....んぅ!美味しい!」
その表情を見てしまった僕は、完全に心を掴まれていた。
自分が作ったものをこんなに美味しそうに食べてくれるなんて....
少し目頭が熱くなる。きっかけこそ最悪だったがもうそんなことどうだっていい。
この笑顔を見れたのなら、なんだっていい。
あっという間に食べきった水無先輩は僕に対して
「ごちそうさま、それじゃ明日からもお弁当よろしくね」
突然の契約改訂を言い渡した。
「え!?あの...お弁当渡したら許してくれるんじゃ....」
「そのつもりだったんだけどね?あんたのご飯あまりに美味しかったからさ、一度だけじゃ勿体無いなって」
「とんだ詐欺じゃねぇか!!」
いやさっきまでの気持ち返してよ!一瞬まじで恋に落ちそうだったけど踏みとどまったわ!台無しだよ!
「は?あんたあたしに文句言える立場な訳?いいのよ?あんたに裸見られたって言いふらしても」
ここにきてとんでもない脅しをかけてきやがった....
「ぐぬぬ...」
「きっと想像絶するくらい地獄よ?学園の女神の裸を見ただなんて、あんた確実に殺されるわね」
「喜んで毎日お弁当作らせていただきまぁす!」
こうして僕の無味無臭な学園生活は、暴君というスパイスによってとんでもない方向へ進んでいくのであった。