暴君崩壊 5
僕があげるばかりじゃ不公平だからと言った先輩が差し出してきたのは、先輩の手作り弁当だった。
「えっと...これからはわたしも卯月にお弁当作るから、交換...しない?」
今まで生きてきた人生ではじめて家族以外の女性から何かを貰った気がする。しかも手作り弁当。
予想外過ぎる展開に一周回って冷静になった僕。先輩の表情や雰囲気からドッキリではないことは確かだった。
だめだにやけてしまう!今まで散々な目に遭わせられたけど、こんな綺麗で可愛い人から手作りお弁当を貰えるなんて...最高かよ!
僕の頭の中はお花畑と化した。一瞬で陥落。我ながらチョロ過ぎるとも思うが可愛いは正義なので屈するのは悪いことじゃない。
「ぜ...是非!」
にやけてしまう顔を必死で抑えるも、声は喜びに満ち溢れていた。
「ほんとに!?よ...よかったぁ」
パぁっと明るくなった表情からにへらと笑う表情。僕の知ってる先輩とは全然違うことに驚くことはもうない。だって可愛いから。可愛いければそれで全て良し、オールオッケー。
「えっと、これ食べてもいいですか?」
「あ、うん!食べて食べて」
蓋を開け中身を見る。そこに広がるのは漫画やアニメでよくある真っ黒こげの料理でも、独創的、前衛的な料理でもなく
ただただリアルに美味しくなさそうな見た目の料理達だった。
反応に困る。普通に美味しくなさそうなものほど反応に困るものはないと思う。
そんな僕の心情は露知らずの先輩は、目を輝かせ僕を見つめている。早く食べてほしいんだろう。
食べてもいいか?といった手前引き下がることはできない。「いただきます」と先輩に言い、この中でも一番まともに見える卵焼きをつまみ、口へ運んだ。
うん、見た目通り普通に美味しくない。塩を入れ過ぎたのかめちゃくちゃしょっぱいし、焼杉でぼそっとした食感だ。
他のものも食べてみるがやはりしょっぱかったり、固かったり、焦げの苦みがあった。
僕は思わず笑ってしまった。多分はじめて作ったんだろう、そんな感じがする。でも不思議と嫌な気持ちにはならなかった。だってこんな可愛い人が一生懸命僕の為に作ってくれたんだと思うと嬉しい気持ちにしかならないもの。
笑っている僕を見た先輩は、不安そうに僕に感想を尋ねてきた。
「やっぱり、美味しくなかった?」
「はい、普通に美味しくないです」
作ってくれたものに対して嘘は吐きたくなかった。
「ご...ごめんね!はじめて作ったからどうやったらいいかわからなくて...」
やっぱりそうだった。確信を得た僕は余計に嬉しくなった。
「美味しくはないですけど、僕は好きです」
「え?」
「だから、明日からのお昼すごく楽しみにしてますね」
「いいの?美味しくないのに作ってきても...」
「言ったじゃないですか好きだって、だから作ってきてください。僕も美味しいの作ってくるんで」
「うん!作る!これからも一緒にご飯食べようね!」
今までの暴君はどこへ行ったのか、女神モードとはちょっと違う先輩に僕の心臓はドキドキしっぱなしだった。




