暴君崩壊 4
膠着状態は今も続いてる。
僕も先輩も一言も発さないまま向かい合って座っているが、正直どうしたらいいかわからない。
教室に入るまえから先輩の様子はおかしいけど、入ってからもそれは同じだった。
いつものようにふんぞり返るわけでもなく、僕に無茶ぶりするわけでもなく、顔を下に向けたまま黙っている。
こんな先輩初めて見たんだけど...やっぱりこの前のこと相当怒ってるんだろうなぁ...
ただいつまでもこうしてるわけにもいかないので、意を決して僕から切り出すことにした。
「えと、この間はほんとすいませんでした!!」
「!!?」
いきなり大声を出したからか、先輩は身体をびくっとさせつつようやく顔を上げてくれた。
「僕なんかが先輩に対してあんなひどいこと言ってしまって、しかも泣かせてしまうだなんて...ほんとすいませんでしたぁ!!」
キレイに決まった渾身の土下座。いくら暴君とはいえここまで謝ればさすがに少しは譲歩してくれるだろう。
そんな期待を込めた僕に、先輩は耳を疑うような一言を繰り出した。
「...顔あげて?その...私の方こそいつもわがまま言って卯月を困らせちゃってほんとごめんなさい!」
へ?今謝ったのか?あの暴君が?
なんかいつものドスが効いた声ではなく、すごくかわいらしいきれいな声だし、一人称もわたしだし...やばいここ現実だよね?パラレルワールドとかじゃないよね?
「その...いくら裸を見られたとはいえ、毎日お弁当作ってもらったり休みの日もごはん作ってもらったりっぞんざいな扱いしたりやりすぎてたよね、ほんとごめんね!」
だから誰だよこの人!僕の知ってる水無梅子はこんなこと言わないし、声はドス効いてるし、威圧感半端ないんだぞ...だめだ頭がおかしくなりそうだ。
「え?先輩?ちょ...ちょっとどうしたんですか!?僕のせいですか?僕が言い過ぎたからおかしくなっちゃったんですか!?」
「ち...ちがうの、いやえっと、ちがくはないんだけど...その...」
顔を真っ赤にしながらまた俯いてしまう先輩。いやめっちゃ可愛いな...ってばか!冷静になれ!これはあれだ優しくすると見せかけておいて後でドッキリでしたーのパターンのやつだから!きっと..多分...
顔を上げた先輩は変わらず真っ赤だが、手をグッと握りしめ、何かを決意したのかすぅっと息を吸い込み僕にこう言った。
「は..はじめて怒られたの!あんな面と向かって...しかも年下の男の子に。でもびっくりして泣いちゃったし、もうどうしていいかわからなくなって...でも卯月はまたご飯作ってくれるって言ってくれて...」
確かに突然泣かれたことに動揺して下剋上は失敗に終わった。なんなら申し訳なさが勝ってしまいこれからもお弁当を作るって自分から言ってしまった。
やばい...やっぱりドッキリパターンだ。「言質とったからなぁ?」とこれからどんどん要求が増してくるんだ...畜生!!あんな涙に惑わされなければ...
「そ...それでね、わたしばかりじゃ不公平だから、卯月にも何かしてあげたいなって思って...」
もうどうにでもなれ!僕の人生はこの人にいいように使われれるんだ!あはははははははは!!
心の中で自暴自棄になり始めた僕の目の前に、すっと鞄から可愛らしい布で包まれた何かを差し出してきた。
あははh..これは、お弁当?




