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50日目の交差点

作者: 霜野由斗

10月28日 18時40分・街中

 今日は、ある友人と一緒に、超人気焼き肉店に行く予定だった日だ。

 なにやらその人気ぶりは、予約すれば数か月待ちは当たり前なほどだそうだ。

 しかし、そんなに人気な店なら、値段も大層なものだと思うのだが。

 あいつに一人じゃだめなのかと聞いたところ、


「せっかく久しぶりに焼き肉を食いに行くのだから、どうせなら誰かしらと一緒に行きたい」


 とのことだそうだ。

 それならなぜ俺を誘ったのかと聞くと、


「いやあ焼き肉とか一緒に食いに行くんだったら、お前が一番いいかなあ」


 だそうで。

 なんだか、俺がやたらと食にうるさい奴やら、食い意地張ってる奴だと思っているような口ぶりだったが。

 まあ実際、俺自身も心当たりがある場面はいくつかあったように思う。

 しかし焼き肉か。

 俺が子供の頃は、誕生日などでよく両親に連れて行ってもらっては色々食べていたが、大人になってからというもの、めっきり行かなくなっていた。

 別に焼き肉が嫌いになったわけではない。

 成長期の時と比べれば、食べれる量は減ってしまったと思うが、もしそうだとしても、未だに焼き肉は俺の大好物だ。

 ……仕事を始めたからだろうか。

 入社したうちは色々なことがあって疲れやすく、焼き肉自体は食べたいが、そこに行くまでの労力があの時の自分には重すぎたのだろうか。

 だからこそ、あいつが久しぶりの焼き肉を二人で一緒に食いに行くきっかけをくれた時は、とても嬉しかった。

 いや、もしかしたら俺の食いっぷりを横から見て、ゲラゲラ笑いたかっただけだろうか。

 あいつも成長期の時は、俺と大して変わんなかっただろうに。

 そんなことを考えていたら、いつの間にか待ち合わせをしていた場所の目の前まで来た。

 この交差点の横断歩道を渡り切れば、待ち合わせしていた場所だ。

 歩行者用信号が青になる。

 俺を含めた人々が、一斉に歩き出す。

 全員、何事もなく渡りきる。





 ……悲しいものだ。

 50日前、ここで事故が起こったことなど、まるでなかったかのように皆歩いていた。

 俺にとっては忘れもしない。

 青天の霹靂のような、あの衝撃を。

 忘れることなど、できるはずがない。

 あの日から既に50日が経過している。

 あいつの魂すら、もうこの世には残っていないだろう。

 俺は、あいつと一緒に行く予定だった焼き肉店へと、一人歩きだす。

 ……悲しいものだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  読めば読むほど、何とも言えない感情が湧き出てきました。何だか哀しくなってきます……とても良かったです……。 [一言] Twitterの#より、来ました。
2022/04/13 12:15 退会済み
管理
[良い点] 交差点で思い出すあいつとの会話。それを見た瞬間、グッと来ました。 [気になる点] 適度な行間があると読みやすいかもです。 [一言] Twitterの短編読む より、参りましたm(._.)m…
[良い点]  文章から哀愁と懐かしさを感じさせられました。 [一言]  これからも頑張って下さい。
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