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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
二年目

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90/600

修学旅行二日目〜四日目。


 生兎は白い街だった。いや、どちらかと言えば桃色、だろうか。


 駅を出てすぐに、桃色の風景が薬術の魔女を出迎えた。

 薄らと赤みがかった白いレンガの壁に、少し濃さの違う桃色の石畳。そして、薔薇色の屋根。

 新しいものや古いものによって色()せていたり、色がはっきりしていたり。薄く汚れているものもあったが、似たような配色をしていた。


「あなた、中心地に来たのは初めてだったわよね」


 立ち尽くす薬術の魔女に友人Aは声をかける。


「うん。この景色は見たことないよ」


 実は、薬術の魔女は生兎の付近の出身であった。だがそこは中心地ではなく辺鄙(へんぴ)な田舎であり、整備も少ししか整っていない。要は、生兎の中心地のように甘やかな色合いをしていないのだ。


「……すっごい色……」


 生兎の滞在期間中に利用する宿泊施設へ向かう道中で、明るく淡い色合いの街に薬術の魔女は嘆息する。すごく綺麗に色が整っていた。


「統治者が変われば、街の雰囲気もすっかり変わるのよね」


 ややうんざりした様子で薬術の魔女の横に並んだ友人Aが呟く。

 この地域は『古き貴族』である生兎の者が治めている場所であり、病院や育児施設、学校などの設備がすごく整っている地域だ。


「そういえば、生兎の中心(ここ)にお家があるんだっけ?」


 薬術の魔女は、友人Aを見上げながら問いかける。少しして、同じグループであるその2とその3が付いてきた。


「あら。あなたにしては、ちゃんと覚えていたのね」


 首を傾げる薬術の魔女に、友人Aは小さく笑った。


「……さすがに、友達の故郷くらいは覚えるよ」


「冗談よ。別に、覚えていてもそうでなくても全く気にしてないから」


 口を尖らせ()ねる薬術の魔女を慰めるように、友人Aはその背中を優しく撫でる。

 柔らかい配色ややや古い形状の建物が多く、まるで御伽噺(おとぎばなし)の中へ迷い込んだかのような心地になる。

 建物は全て背が低く、高くとも3、4階建てのものしかなかった。


「知ってるかもしれないけれど、生兎(うち)では建物の階数や高さ、色が決まっているのよ」


 友人Aは薬術の魔女達と景色を見ながら、解説をしてくれる。


「両方ともに、『景観を崩さないため』って感じなのが多いのだけれど……」


そこで言葉を切ると、


「……ほら、あそこを見て」


と、背に高い時計塔のような建物し指した。酷く尖った屋根の塔が複数突き出た、城のような巨大な建物だ。


「なに?」


 屋根や壁の一部には、他の建物と同じように薔薇色が使われている。

 だが、それ以外の壁がすごく真っ白で、桃色の外観の中ではいやでも目に入ってしまう。


「生兎の中心であって、生兎の本家が直接経営している病院よ」


 今から見学に行くところね、と友人Aは言う。

 また、あの建物がどこからでも見えるように、そして屋根の上を通る者が居るために、この景観が定められているのだとか。

 他にも、施設によって建物の屋根や壁のデザインが統一されているのよ、と、友人Aは教えてくれた。


×


 それから三日間、薬術の魔女達は病院や保育施設などの見学を行ったり、実際に体験をしたりと、忙しかった。


「そういえば、兎のところの人って可愛い顔の人が多いよね」


 とある休憩時間に、休憩室で薬術の魔女はなんとなしに呟いた。その2とその3はまだ別のところにいるようで、ここには居ない。

 思い出す限り、施設で出会う生兎の者と思われる職員達は皆、ぱっちりした目や幼い顔など可愛らしい顔立ちや低身長の者ばかりだった。

 だが、友人Aは背が高く涼やかな目鼻立ちでいわゆる綺麗系に属する顔立ちをしている。可愛らしくもあるが、きらきら、うるうるした雰囲気ではない。


「そうね。まあ、そういう血筋だから」


 友人Aはなんてこともない様子で答える。


「『可愛い至上主義』なのよ」


そう答える友人Aは、少し呆れと寂しさが混ざったような表情をしていた。


「だから。『可愛くない』って言われる私は、あんまり仲間に入れてもらえなかったのよね」


「そう? わたしは可愛いと思うけど」


 遠い目をする友人Aに、薬術の魔女は首を傾げる。


「そんなこと言うのはあなた達や『よその人』だけよ。まあ、うちは少し特殊だったけど」


特殊、というのは『可愛くない』()()()()()()()()()()()だという。


「それに。あなたみたいな、よその子を受け入れて育てるなんてね」


頬杖を付き、友人Aは薬術の魔女に視線を向けた。人形のように整ったその顔は間違いなく、『愛される顔』だ。『育てる』とは言いつつも、友人Aの家族が薬術の魔女に行ったことは社会の常識を教える程度である。


「まあ、よその子でも可愛い子に甘いのは確かよ。生兎の血がそうさせるのかしらね」


 少し楽しげに笑い、優しい目で薬術の魔女を見つめた。


「私、びっくりしたんだからね。あなたが『森の中(あっち)からきた』って言った時」


それは過去を慈しみ懐かしんでいるようだった。


「そうだったね。なんだか何度も『本当にそこから来たの』って聞かれてたっけ」


思い出し、薬術の魔女も頷く。


「あの森は、普通なら人が住めるような場所じゃないから」


どう考えても『住んだらおかしい場所』らしい。


「でも、あなたが玉のように可愛かったから、許されたのよ。許された、というより『どうでもいい』って投げられた、って感じかしら。……きっと、運が良かったのね」



「そういえば、()()()()()()()()()()()()()


 そう、友人Aは後ろを振り返る。丁度、その3が休憩室に入った所だった。

 ちなみに、その2は子供達に囲まれて動けなくなっていた。困った顔をしながらも満更でなさそうなので、子供の世話が好きなのかもしれない。


「そうだね」


「そうなの?」


 頷くその3に薬術の魔女は目を丸くする。


「転入した時に言ってたんだけど」


「熊公爵と祈羊、北部の不可侵領域の森、よ。あなたは南部の不可侵領域の森だけれど」


「言われてもわかんない」


苦笑する友人達に、薬術の魔女は不満気に口を尖らせる。友人Aが言ったのは恐らく転入生達のそれぞれの出身地だ。


「だから、彼があなたのところにきた時、幼馴染か家族みたいな人なのかと思ってたけれど」


「うーん?」


「何か思い出せるものとかあったら言ってみれば?」


そう、友人Aはその3を見た。


「……ちょっと用事があるから、少し抜けるわ。あの子もついでに助けてくるわね」


 そう告げ、友人Aは薬術の魔女とその3を置いて休憩室を出る。


×


「えっと……」


 困った様子でその3をみる。どう話せば良いのだろう、とよく分からなかった。


「どうしたの」


「一緒に居る事は多かったけど、あんまりちゃんと話したことなかったなって思って」


首を傾げるその3に、薬術の魔女は困った笑みを浮かべ正直に内心を答えた。


「別に気にしなくても良いけど」


 その3は面倒なら思い出さなくても良いと言ってくれた。だが


「それじゃあ駄目な気がする」


そう、薬術の魔女は首を振る。そこで、その3は話を提案する事にした。


「うーん、僕が君と会った時の話でもする?」


「うん、お願い」


「僕と君はね、森の中で出会ったんだ」


 それからその3は、薬術の魔女が話しかけてくれたこととそれに伴う自身の世界の広がりを伝えた。


「そうだったんだね」


 あの時の、祠の中にいた子。

 そこでようやく、実感を持って思い出せた。


 そのあと、初等部で魔女がいなかった頃の家の人の話をその3はしてくれる。


「ずっと、会いたかったんだ。そしてお礼を言いたかった」


「お礼?」


「僕に話しかけてくれてありがとうって」


「じゃあわたしがおねーちゃんみたいなもの?」


「どうだろう。肉体は君の後だけど、精神は君よりずぅっと前から有ったし」


「ふーん。まあどっちでもいっか」


そうして、二人は楽しく昔話に花を咲かせた。


×


 しばらくして、友人Aがその2を連れて休憩室に戻ってくる。


「どうだった? ちゃんと話し合ったんでしょう」


その2も心配そうに薬術の魔女とその3に視線を向けていたので、きっと友人Aからある程度の話は聞いているのだろう。


「思い出せたよ!」


友人Aは元気な薬術の魔女の返事に満足気に頷いた。そして、「よかったわね」とその3の方を見る。


「気にしてないよ。だって、色々変わっちゃってたから。君も分かんなかったでしょ?」


「うん」


 深く頷く薬術の魔女に友人Aは呆れて肩を(すく)め、その2は苦笑いを零した。


「ところで、用事ってなんだったの?」


 そう、その3が友人Aに問う。


「んー……ちょっと、従姉妹(いとこ)に会いに行ってたのよ。『ちょうど近くにいるから来て』って呼ばれたから」


友人Aの従姉妹、というと生兎の血筋の人のはずだ。


「どうだった?」


「最悪ね。ま、あなた達は関係ない話よ。別に、仲が険悪っていう訳じゃないし。ただ、鬱陶しいのよ」


「ふーん?」


そう、友人Aは曖昧に返事をする。


×


 三日間の滞在が終われば、次は祈羊へと移動する。

 生兎から祈羊への移動も、やはり一日かかるので今回の移動でも寝台汽車に乗った。


 そして、薬術の魔女は首を傾げた。


「……なんか知らないけど。生兎(あそこ)の人の何人か、わたしを見てた気がする……」


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