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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
二年目

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85/600

予定。


 春休みが終わり、後期が始まる。

 後期初めのテストでも相変わらず、薬術の魔女は一位の成績を修めた。


「ふふー。やっぱりすごいなぁ」


 HR(ホームルーム)で配られた答案を抱えて、薬術の魔女は上機嫌だ。

 さすがに全教科で満点を取ることはできないが、婚約者である魔術師の男から色々と勉強を見てもらってから以前よりも試験の成績が上がった。

 だからその分、試験後の課題も減って薬の生成により時間を割ける。

 座席に着くと友人達と点数について少しだけ話して、担任の教師が連絡事項を語りだした。


 それを聞き流しながら、薬術の魔女は魔術師の男の事を少し考える。


「(……なんで、あんまり人とか信じられないんだろ)」


 彼は、屋敷の管理を全て式神に任せていた。

 それは薬術の魔女が勉強のために何度も屋敷に訪れても変わる事はなかったから、間違いではないだろう。

 おまけに、彼の知り合いらしき人物が訪ねてくることも無かったから、彼には家に招くような友人も居ないのだろうとなんとなく分かった。


 信じられる人が居ないのは寂しい事だと、薬術の魔女は思う。


「(……あの人、わたしのことは信じてくれるのかな)」


思ってみるが、どうやったら魔術師の男に信じてもらえるかなんて分からなかった。


「(あの人の事をもっと知ったら、いつかは分かるのかな)」


頬杖を突いて、彼に思いを()せる。


「……ん」


 ふと、思いの外魔術師の男のことを考えている自身に、ちょっとだけ驚いた。


「(きっと、ちょっと変で気になる人だからだよ、うん)」


(かぶり)を振って、どうにか自分を納得させる。


「(というか、さっきからあの人の事ばっかり)」


頬がなぜだか熱くなり、他のことを考えようと周囲に視線を向けた。そうすれば、いつの間にか周囲に複数班があったことに気付く。


×


 薬術の魔女の周囲には友人A、その2、その3が居た。


 なんで集まってるんだろ、と思う間も無く、


「ねぇ、大丈夫? ちょっと熱ある?」


友人Aに問われてそっと手の甲で額に触れられる。


「……ちょっと熱いわね」

「風邪薬が必要ですか?」


「だ、大丈夫!」


神妙な表情の友人Aと、風邪薬を用意しようとしたその2に慌てて返した。この熱は風邪でない事ぐらい、さすがの薬術の魔女でも理解している。


「そう?」「それなら良いのですけど」


怪訝な様子でも二人は納得してくれた。


「それで。来月の修学旅行、どうする?」


 女子達が落ち着いたのでその3は声をかける。


 来月には第五学年生は修学旅行があり、魔術コースの者は宮廷の一部や軍部の内部、時計塔、天文台の見学を行い、薬術の魔女が在籍する薬学コースの者は、生兎と祈羊、薬猿の施設の見学を行う。

 宿泊施設や食事については魔術アカデミーが各施設と相談し決めているらしく、また利用料金は学費から負担してくれるので、何の問題もない。


 修学旅行は2週間とやや長く、修学旅行が終わった後もレポートを書いたりお礼の手紙を書いたりと色々とやることがあるらしい。


 第五学年生は活動の班を組んだり、見に行く施設について軽く下調べを行ったりと、修学旅行の準備をしていた。

 薬術の魔女は友人A、その2、その3と同じ班になったらしい。彼らがそう声をかけたことで、薬術の魔女は知った。

 

×


 修学旅行の行動班を決めた後はどの順番で施設を巡るのかを話し合い、生兎、祈羊、薬猿の順番に決める。

 意外にあっさりと行動班と移動順が決まったので、薬術の魔女達は行く予定の土地や施設について調べることになった。

 医者になりたいらしい友人Aは生兎のこと、聖職者になる予定のその2は祈羊のこと、薬術の魔女は薬猿のことを。その3は、全員の手伝いをするらしい。


×


「……あの、魔女ちゃん……」


 休憩時間中に、その2が薬術の魔女に話しかけた。


「なに?」


その2はやや気まずそうな顔をしている。


「ちょっと、渡すように頼まれていたものがあって」


そう言うと、一枚の紙を薬術の魔女へ差し出した。


「手紙?」


 どうやら、その手紙は魔術師の男の文字のようだ。


「あ。私、春休みにお城に行く用事があって……その時に、魔女ちゃんの婚約者の人とたまたま会う機会とかあって、それで渡されたものなんだけど、」


 その2は薬術の魔女が変に誤解しないか気を遣ったつもりだったが、薬術の魔女は何も思っていなかった。ただ、「へぇ、そういうこともあるんだ」と、呑気に考えていた。

 やや慌てたその2の様子に首を傾げながらも、薬術の魔女は手紙に目を通す。


「……中身は、遺書みたいなものらしいんです」


 ちら、と薬術の魔女の顔を伺い見ながらその2は言う。


「ん。そーみたいだね」


言いつつ、薬術の魔女は手紙を胸ポケットに入れた。


「……驚かないの?」


 問いかけるその2に、


「え? ……うん、まあ婚約者だし」


と、何か考えている様子で薬術の魔女は頷く。


「宮廷魔術師も軍人みたいに色々外に出向いたり、魔獣への対処を行ったりするらしいし」


 薬術の魔女はあまり気にしていない様子だった。


「(……普通のこと、なのかな?)」


 その2は首を傾げた。


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