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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
二年目

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愛を返す日 。


「難しい本がいっぱいある」


 周囲を見回し、思ったことをそのまま口に出す。この娘は薬草の知識は豊富でも、語彙が乏しいのであった。

 以前魔術師の男に告げたように、いくら『相性結婚の付属物なので自由にして良い』と言われても、家主がいない家に居座ることは少し気後れする。

 しかし薬術の魔女は、周囲にある未知の本達にも興味津々だった。


「これなんだろ。おもしろそう」


 目に付いた本棚に近づき、早速、一冊の本を手に取る。


「あ、外国語のやつだ」


 周囲をよく見ると、異国の文字のものが幾つかあった。それも複数の言語もある。どうやら、彼の家の本は、国内外を問わないらしい。


「んー、挿絵ある……気になる」


本を少し開き、挿絵に目を通した。そして、その中で興味を惹かれた本だけを手元に残す。

 この書庫にある本のほとんどがハードカバーのものばかりで分厚く重たい。だが、丁度近くに置いてあった車付きの手押し台に乗せているので、本を持ち運びながらの移動はそこまで苦ではなかった。


「えっと、辞書……」


先程、魔術師の男から渡された案内図を見る。


「……あ、あった!」


辞書だけをまとめて置いてある本棚が、閲覧用の椅子の近くに置いてあるらしい。


「へぇー。親切設計だー」


 呟きながら、辞書がそこに置いてあるならばまとめて色々な国の言葉の本を持っていこうと思い至り、薬術の魔女は興味の(おもむ)くままに様々な本を手に取った。


×


「うーん、さすがに取りすぎたかな」


 手押し台と机に積まれた本を見て、薬術の魔女は呟く。魔術の技術書、魔術の文献、外国の本、魔術の操作方法の基本と応用の本、魔術式の構造や組み方の本……と、さまざまな魔術に関する本。そして、外国の本を読むための辞書。


「まあいっか。読めなかったらまた行けばいいだけだし」


 と、彼女は椅子に座った。

 そして、薬術の魔女は一冊めの本を開く。


×


 書庫内に在る本達は非常に興味深いものばかりだった。

 確かに、書庫内部にあった書籍のほとんどが魔術に関連するものだ。しかし、それに紛れて魔術に使用する薬品や薬草、魔石等の書籍もあった。

 それは薬術の魔女の知っている効能はもちろんだが、込められた意味(石言葉)や魔術的な由来、役割と、知らない情報も山ほど記載されていたのだ。


「へぇ……あ、これ聞いたことあるかも」


 小さく、薬術の魔女は呟いた。

 家族経由で聞いた効能もいくつかある。それを思い出すと懐かしさを想うと同時に、家族から教わった色々の意味の理解がなんとなく深まった。


×


「……ん、なに?」


 誰かに、つつかれたような気がして薬術の魔女は顔を上げた。

 しかし。


「あれ、誰もいない」


周囲を見回しても、誰の姿も見られなかった。

 そもそも、使用人が居らず人の気配のないこの屋敷に、()()()()()というのがおかしいのだ。

 家主である魔術師の男は仕事で家を出たはずで、ここには戻っていない。


「…………もしかして、『式神』ってやつなのかな」


 と、薬術の魔女は呟いてみる。『使用人の代わりに式神を使っている』と魔術師の男が答えていたのを思い出したからだ。


「ん?」


 なにか、物音がした。薬術の魔女は本を読む手を止め、物音のする方へ近づく。すると、


「……あ、もうすぐ門限だ!」


目に付く場所に時計があったのだ。

 慌てて魔女は本を置いていた場所に戻る。


「…………手紙?」


そこに、先程まではなかったはずの紙が置いてあった。


「ふむふむ……」


 目を通すと、そこには『読み終わっていない本はそのままでも、最終的に元の場所へ戻してくださるならば問題は有りません』と、魔術師の男のものらしき字で書いてあった。


「……準備がいいな」


 なんとなく、手のひらの上で転がされた気がした薬術の魔女だった。


 帰る時に、もらった部屋に行くと、小さな紙袋と手紙が置いてあった。要約すると、『愛を返す日』の贈り物らしい。


「…………手作りかもしれないお菓子と、なんかいいとこのものっぽいお菓子が2種類だ」


 今回も、少なくとも個数と品質は三倍返しにしてきたらしい。


「やっぱり変なひと」


でも、嫌な感じはしなかった。


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