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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
二年目

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休み明け2。


「……ふふー、」


 一番に挨拶しちゃった、と実家の自室に戻った薬術の魔女は熱くなる頬を押さえた。理由はわからないけれど、なんとなく嬉しく感じている。


 木の札を使ってそっと魔術師の男の屋敷へ入った際、誰も居なかった。それの事はそれなりに予想できていが、冷え切った屋敷に酷く寂しさを感じたのだ。

 だから、例え薬術の魔女自身に会いに来た訳でなくとも、彼が戻ってくれた事が嬉しかった。


 急に彼が帰って来た時、思わず隠れて変な誤魔化し方をしてしまった。だが彼は怒らずに薬術の魔女との会話を『良い気分転換』だと言った。


「(それは『いい事』……なのかな?)」


 首を傾げ、考えてみる。彼の価値観がいまいち分からないので断言は難しい。


「(でも)」


 儀式後の宴会よりずっと良いと言ってくれたのなら、きっと『いい事』なのだろう。そう思えば、嬉しくなる気持ちが湧き上がった。


×


 今回の冬季休暇でもらった『聖人の祝福』は、様々な薬草の活用法の書かれた分厚い本と


「……古い腕輪?」


やや黒ずんだ、金属製の腕輪だった。

 やや太く、何やら文字のような紋様のようなものが彫られている。

 それは薬術の魔女にとって少し大きく、家族に聞いても「知らない」と言われたので、よく分からないものだった。

 よく分からないのは気になるものの、何故か腕輪の存在自体は気にならない。なので、とりあえず魔術アカデミーに持ち帰る事にした。魔術アカデミーの教員や婚約者の魔術師の男に聞けば、何かしらの答えが見つかるだろうと考えたからだ。


 そして休み明けが近付き、薬術の魔女は列車で魔術アカデミーまで戻る事になる。


「いつか、心配性な旦那さんもこちらに連れてきてくださいね」とか「待ってる」とか言われ


「まだ旦那さんじゃないよ」


と、きょとんとした顔で返した。今は書類上での婚約者なだけであるし、お試し期間を行なっても結婚するかなんて分からないからだ。

 だが「別れちゃうの?」と訊かれれば「え?」と首を傾げてしまう。


「(……そうだった。結婚しないなら別れるのか)」


それは何故だか思い至らなかった事で、実際にそうなるなら惜しい気持ちになる。


「そこは分からないかな」


 だから、無難に答えた。

 自分が望んでも、彼が断ってしまえば身分の関係上その意見は通らないからだ。

 でも、できるのならば……。


 列車で魔術アカデミーに戻る旅の途中で、ふと札で列車を使わなくとも魔術師の男の家経由で早く魔術アカデミーに帰れることに気付く。だが、


「お金はかかるけど、列車で帰るのが楽しいんだよねー」


と、列車で帰ることを決めていた。

 それに、年明けに一度魔術師の男の元に行った後から、なぜか木の札が発動しなくなっていたのだ。


 いつか木の札について聞いてみようと思っていたが、なんとなく連絡を入れることができなかった。


×


「おかえりー!」

「あら。あなた、なんだか凄く嬉しそうね」


 魔術アカデミーの最寄り駅に着き、例年通りに友人Bと友人Aが出迎えてくれる。


「ただいまー。お迎えに来てくれてありがと! 今年もよろしくねー!」


「こちらこそよろしく!」

「今年も、よろしくお願いするわ」


 お互いに挨拶を交わし、みんなで街を巡りながら魔術アカデミーへと戻った。


 そして、薬術の魔女が魔術アカデミーの寮の自室に戻った時。


「……おん?」


 いつのまにか、枕元にラッピングされた袋と魔術師の男からもらったものと瓜二つな、木の札が綺麗に置かれていた。


「(……ま、まさか。……わたしが居ない時に不法侵入したの……)」


 と、戸惑いはしたものの


「わぁ、綺麗な手袋だー!」


と、ラッピングされた袋に入っていた、光沢を持つ柔らかい生地製の手袋に、その戸惑いを忘れた。

 表面が細かく毛羽立ち、手首までを覆う程度の長さのものだ。


「……(なんでプレゼントくれたんだろ?)」


 思いながらも、薬術の魔女はそっと手袋をはめてみる。


「おー、ぴったりだ」


 手を開いたり閉じたり、ひねってみたり物を持ってみたり。色々と動かしてみるが、無駄に生地が余らない。


「逆にすごい。……でも、どうやってわたしの手の大きさを知ったのかな」


 首を傾げる薬術の魔女だった。


 枕元にあった木の札と、薬術の魔女が今まで持っていた木の札を横に並べてみる。


「ちょっと、デザイン変わった?」


 少し文字が増えたか変形しているかの違いしかない。


 そして、


「うわ?!」


しばらく見ているうちに古い札がじわりと燃え始めた。それに慌てて燃える木の札を手に取るが、熱さを感じなかった。札しか燃えていないようだ。


「おんなじ物は二つもいらない、みたいなやつかな」


 燃えて行く古い札を見て、薬術の魔女は唇をやや尖らせた。


×


 休み明けのテストはどうにか自力で頑張ったものの、やはり魔術師の男に見てもらった時ほどの安心感を得られない。


「やっぱり、みてもらった方が安心できるなぁ……」


と、返却された答案を眺め呟いた。


「……むん」


 薬術の魔女は連絡機に視線を向ける。


 今回は、連絡を入れても大丈夫なような気がした。


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