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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
二年目

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初めての訪問。

薬術の魔女の髪色、目の色を


バーントオレンジ→蜜柑色(髪)

レッドコーラル→珊瑚珠色(目)


へと、変更しました。


 冬休み前のテスト勉強を見てほしい(むね)を魔術師の男に連絡をしてすぐの休日。


 魔術アカデミーの寮の自室で、薬術の魔女は緊張していた。少し、どころではなくかなりの緊張である。


「(……あの人の家って、どんな感じなんだろ)」


今日は、初めて婚約者である魔術師の男の家に行くのだ。


「(『寒い中外を歩きたくない』なんて理由だけで行くの決めなきゃよかったかな……)」


 後悔しても今更である。薬術の魔女は深く溜息を吐いた。

 初めに連絡してから、『何時(なんじ)に行くのか』『何時まで居ても良いのか』『持っていくものは何か』などの確認をした。

 最終的には『行く前に連絡を入れること』『門限の時間前までには寮の自室に帰ること』を決めた。

 持ち物に関して言えば、どうせすぐに自室に帰れるのだから相談してもしょうがないという話になったので、もう気にしてはいない。


「(……どんなお家、なんだろ)」


 少し思考してみる。

 あの人は貴族っぽいから、やはり宮廷に似た雰囲気でもしているのだろうか。

 だがそれはあまり趣味ではないので少しくらい控えめだと嬉しいな、と思う。窮屈に感じられて、そこから逃げ出してしまうのはもったいない気がしたからだ。


「(服装は……)」


 姿見の前に立ち、反転した自身の体に視線を向ける。そして糸屑や(ほこり)、しわがないかを確認のために一周回った。大丈夫そうだ。

 格好は魔術アカデミーの制服にしておいた。他に服は持っているが、一番着慣れている上に変に悩まないで済むからだ。しかしそうなると、家が宮廷のように豪華絢爛だと浮いてしまう恐れがある。だから、その点でも控えめな装飾だと嬉しい。

 『もう少しおしゃれな服も用意しよう』と思ったのは内緒の話だ。


「……よし、準備はだいじょーぶ」


 幾度目かの持ち物と格好の確認を終え、ようやく薬術の魔女は魔術師の男に連絡を入れる。


「準備できたから、今から行くよー」


『……はい。何時(いつ)でもどうぞ』


「うん」


 魔術師の男の返事を聞いてすぐに連絡を切り、薬術の魔女は木札をそっと踏む。


「……わわっ?!」


 途端に、足元の札から魔女の目と同じ珊瑚珠色の色を帯びた魔術陣が拡がりながら現れ、空気の流れが生まれる。それと同時に薬術の魔女の視界が変わり始めたーー。


×


「……ようこそいらっしゃいました。『薬術の魔女』殿」


 魔術師の男の声に、いつのまにか閉じていた目を恐る恐る開く。


「うわ、ちゃんと移動してる」


 周囲は魔術アカデミーの薬術の魔女の部屋ではなく、全く見慣れない風景へと変貌していた。背後には外に繋がっているであろう扉があり、前には廊下と来客のためか壁に掛けられた絵画がある。


「(……思ってたより、派手じゃない……!)」


 薬術の魔女は、ほう、と内心で感心した。

 白い壁や天井に、暗めの色合いをした木の柱や板張りの床だ。扉やその縁に窓と窓枠、天井と壁の間の飾り(廻り縁)の色合いも同じ木の色で統一されていた。

 取手や金具に使われている金属類は一般的な黄金色(真鍮製)ではなく無機質感の強い白銀色。

 絵画の額縁や壁、その他扉や家具の装飾など、現在見えるものには無駄な装飾はなく非常に簡素である。

 様々な物語や写真などで見聞きしていた貴族の屋敷は派手な装飾のものばかりだったので、この屋敷の簡素さが真新しかった。


「(あれ、この壁紙……)」


 真っ白の無地の壁かと思っていたが、よく目を凝らしてみると薄らと何かの紋様が見える。さらさらで滑らかな手触りの壁は、平民家で見られるような土壁や漆喰、壁紙ではなく布張りだった。安い紙でなく、手間がかかるであろう布。

 ならば余計に真っ白な事に違和感を抱くだろうが、薬術の魔女は室内装飾の(たぐ)いには(うと)いのでわからない。


「(何の模様だろう)」


 一般的な壁で見られる紋様とは違う、珍しいものに見えた。植物を模した柄に見えるが、これは文字のような、目のような。


「……入らないのですか」


 周囲を観察していた薬術の魔女に、魔術師の男が声をかける。


「ん、えーっと……お邪魔します」


薬術の魔女は、先を歩き出した魔術師の男の後を付いて、屋敷内に足を踏み入れた。


×


「……(本当に、誰もいないな……)」


 やや長い廊下を歩きながら、薬術の魔女は周囲を観察する。本当に、魔術師の男以外、人の姿は無く、気配も無かった。


「(あ、庭がある)」


 窓の外に見えた庭は広く、芝生や植木などがある。庭の終わりには生垣が見えており、そこから先の景色は確認できなかった。恐らく建物全体を生垣が囲っており、それが建物と外界を視界的・魔術的に分けているのだろう。

 植物達の様子は非常に健康そうで、綺麗に手入れをされているようだ。


「『薬術の魔女』殿」


「ん、なぁに?」


 不意にかかった彼の声に振り返る。


此方(こちら)ですよ」


少し進んだ先の扉を一つ開き、その横に魔術師の男が立って薬術の魔女を待っていた。


「あ、ごめん」


 呼ばれた薬術の魔女は、やや小走りで彼の元に向かう。


 そして、その先の部屋で薬術の魔女は魔術師の男に勉強を見てもらうのだった。


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