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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
二年目

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二日目。


「(……そういえば結局、昨日はあの子には会わなかったな)」


 早朝、本日の展示や販売に向けて準備をしながら、薬術の魔女は首を傾げた。その相手とは、転入生のその2のことだ。


「(学生会とかが忙しいのかな)」


学生会の末席に入ってのは覚えているが、何の役職だったかは覚えていない。

 だが、学生会に所属していたという魔術師の男が『イベントに一度も、まともに参加したことがない』と言っていたのを思い出す。だから、末席でも忙しいのだろうと考えたのだ。

 実際のところ、学生会の会長や副会長、書紀などの役員が彼女の近くを通ったり色々していたりするのだが、薬術の魔女は学生会所属者の顔を覚えていないので全く気付いていない。


「(疲れが取れる薬でも作っとこうかなぁ)」


 薬術の魔女は学生会メンバーではないし、手伝える訳も(手伝う気も)ないのでそう思考を巡らせた。


×


 学芸会二日目の午後、ようやくその2が薬術の魔女達の元に姿を現した。心なしか、少し疲れている様にも見える。


「ごめんなさい。昨日はちょっと学生会のお仕事で色々あって、学生会のお部屋から出られなかったんです」


 そう、その2は申し訳なさそうに告げる。一応、その2も仮装をしているらしく、顔の描かれた作物((いわ)く、作物のお化け)の飾りを身に着けていた。


「別に謝ることじゃないよ。お疲れさま。それで、これあげるね」


その2を(いた)わり、薬術の魔女は可愛らしい小瓶をその2に差し出す。


「……これは?」


「疲れが取れるお薬だよ。甘くしたから飲みやすいと思うんだけど」


小首を傾げるその2に、薬術の魔女は素直に答えた。効果は疲労回復と軽めの滋養強壮である。


「そうなんですか? ありがとう、ございますぅ」


その2はとても嬉しそうに小瓶を受け取り、


「あとでいただきますね」


と、手持ちの小物入れに入れた。


「……末席だったから、色々な仕事を押し付けられたとかされてないわよね?」


(いぶか)し気に友人Aが訊くと、


「そうじゃないんです。明日、思いっきり楽しむために、頑張ってお仕事を終わらせてきたんです!」


と、少し自慢気に笑う。


「へぇ。じゃあ今ここに居るって事は終わったって事?」


それを受けて友人Bがその2へ問いかけると


「もちろんです!」


と、その2は力強く頷いた。


×


 学芸祭二日目は、アカデミーの一般公開された色々な場所で盛り上がりを見せる。

 例えば、武闘大会の有力者同士の戦いや決勝戦があるとか、学生の演奏を披露する場であるとか。また、三日目は午後の虚霊祭に向けて店を畳む所も多いので客を集める書き入れ時だと気合いを入れているだとか。

 しかし薬術の魔女は特に気合いを入れる事なく平常運転で店の運営を行なっていた。食品や娯楽の店ではないので、焦ってもしょうがないのだと。

 それに、彼女が利益を得るために自身へと課した目標は(おおむ)ね達成できているので、本当に気にしていなかった。


 だから、ちょっと友人達に手伝ってもらったり早めに休憩に入ったりして学芸祭を見て回った。

 昨日、去年よりもちょっぴり学芸祭をつまらなく感じたのは、学芸祭を見て回らなかったからかもしれないと思ったのだ。

 実際、友人達と学芸祭を回るのは楽しかった。

 けれど、少し物足りない気がする。


×


 学芸祭の二日目が終わった夕方。


「……ねぇ、魔女ちゃん」


「ん、なに?」


 薬術の魔女のお店の店じまいの手伝いをしながら、その2が遠慮がちに薬術の魔女へ問いかける。友人Aと友人Bは他の場所の手伝いをしているので、今はその2と二人きりだった。


「あなたの……婚約者の人ってもしかして、宮廷にいる人ですか?」


「うん、そうだけど」


 隠しているわけでもなく、事実なので薬術の魔女は頷く。すると、その2は「やっぱり……」と、不安そうな顔をした。


「どうしたの?」


「……なんでも、ないです」


 薬術の魔女が顔を伏せたその2の顔を覗き込むと、その2は一瞬、驚いた様子を見せ目を泳がせる。


「本当に?」


明らかになんでもなさそうではないその2に、薬術の魔女は口を尖らせた。


「……ただ、ちょっと気になっただけなんです」


少し間を空けて、その2は口を開く。


「なにに?」


「……えっとぉ、なんというか」


「うん」


「宮廷に仕えている魔術師の人って……あんまり信用できないような感じの人が多くて」


 例えば仕事の関係上、大体の者が秘密主義であり真実を話さない傾向にあるだとか、腹に一物抱えている者が多いだとか。「だから、気を付けた方が良いかもしれません」と、その2は注意を促す。


「そなの?」


「……はい。なので、魔女ちゃんがそういう人と一緒になって幸せになれるのかなぁ、って勝手に考えちゃって」


「ふーん」


「…………気にしてない感じですか?」


「ん、そーじゃないけど」


 薬術の魔女は少し、考えるように目を動かしたのち、


「自分が幸せかどうかは自分で決めるから、気にしなくていいよ。幸せじゃなかったら、自分でどうにかするつもりだし」


そう、答えた。


 婚約者の魔術師の男のことは、ほとんど何も知らない。だけど、薬術の魔女自身にとっては悪い人ではないだろうと、思った。


「そう、ですよね……わかりました」


 その2は曖昧に微笑み、


「あなた達の事を何も知らないのに、勝手に色々と口を出してごめんなさい」


と頭を下げる。


「ううん。むしろ、心配してくれてありがとう」


 いい友人に恵まれたなぁと、薬術の魔女は笑顔を返した。


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