運命伐採20
「尋問を開始する」
暗い部屋の中で、拘束された術師に軍服の男が声をかけた。
「『神が関係している』?」
「はい」
「なあもう帰っていい?」
同僚の男はうんざりした顔で他の軍人達を見た。
困惑した様子だが他の軍人達が首を振ったので、面倒そうにしながらも同僚の男は術師を向いた。
巨大樹木を所持している、『精霊の偽王国』と関わっていた情報がある……ということで術師は魔女の同僚の男によって拘束されたのだ。
「巨大樹木その全ては賜るだけでは良く無く、行き過ぎても宜しく無い。運命に抗い知恵を理解し知識を利用して逆に嚥下する。それ以上の気概がなければ。慈悲と峻厳だけでは物事は上手く立ち行かず壮麗な勝利と栄光を得る必要がある。その基礎あってこそ王国は成り立つものである」
つらつらと、術師は言葉を述べた。
「つまり?」
「『王国』は、何れ偶然でも破られてしまう恐れがあった。だから重要な『基礎』を私の最も信頼できる息子に任せたのですよ。彼は真面目ですし、人を見る目は有る。現状で最も増しな相手を『樹木の破壊者』に選ぶだろうと思いまして。其れを過ぎれば後はまあ同じもの。私の居た『栄光』で力に箔を付ければあの通り。彼らは『勝利』を破りました。なので、彼らが最後まで辿り着く等当然の話でしょう? 『峻厳』で正義の正当性を疑い、『慈悲』で公平性の正体を知る。後は『理解』し『知恵』を得て、『運命』に従えば宜しい」
「ほーん。で、あんたは天地の神様に何と言われたんだ」
「『奇跡を一旦剥がし、奇跡と現実の隙間を塞ぐ手伝いをしてください』と」
「なんでそんな聞くからにやばそうな案件引き受けたんだよ」
「伴侶の命が存える方法だと言われまして」
「……つまり、神に唆されたんだな」
「有体に言えば、そうです」
×
「思いの外短かったね」
尋問から解放される術師に、「帰るよ」と声を掛ける魔女。
「尋問は数日に分けてやるんだがな。こいつすっげーするする吐くんだもんな。尋問のやり甲斐が無いぜ」
同僚の男がつまらなそうに答える。「じゃあまた明日も同じ時間から始めるからな。ちゃんと来いよ」そう言い、同僚の男は他の軍人達と去っていった。
「おいで、ねこちゃん」
牢から出た瞬間、術師は巨大な猫になる。
不満気な術師に
「尋問が全部終わるまで、ねこちゃんは猫のまんまって約束してるもんね」
そう、魔女は告げた。一応、これでも拘束されている(という体がある)ので、人の姿で出入りができないのだ。
魔女と術師が屋敷に帰れば、星海の少女が待っている。
「わたしね、軍医中将を辞めようと思ってるんだ」
帰り道、魔女は術師に声をかけた。術師が魔女を見る。
「次はまた、お店屋さん開こうかな」
「其れは。楽しそうですね」
(樹木編おわり)
薬術の魔女の結婚事情、樹木編をここまで閲覧いただき誠にありがとうございます。
おまけが本編より長くなってしまいました。
今回はここでおしまいです。
仮にこの話の続きを執筆することがあれば、またこの話の続きとして執筆することがあるかもしれませんが。
魔女と術師の他の話が気になる方は『薬術の魔女の宮廷医生活』(https://ncode.syosetu.com/n2390jk/)や、シリーズの短編作品などを御目通しいただければ幸いです。
宮廷医生活は魔女が宮廷に行き、そこで繰り広げられる事件を解決していくミステリ(のつもり)です。
(ついでに魔女と術師のやや年齢高めのいちゃつき描写も入れております)(小声)
そうでなければまたいつか、お会いいたしましょう。




