運命伐採17
それから世界が落ち着いてきたころの話。
「次女が結婚するなんてね」
「予想外でしたか」
「どうかな。するような気はしてたけど」
「『花の島国』の者、とは」
「金の国では見つからないわけだよね」
魔女と術師は、呪猫にある拠点で身支度をしながら話をしていた。
周囲では長女や三男も、身支度をしている。長男は自宅で伴侶と子供達の身支度をしたのちに移動の魔術式ですぐに来ると告げており、次男も自宅で伴侶と共に身支度してから来るそうだ。
全員が、灰色の衣服を身に纏っている。
呪猫で、次女の結婚式が行われることになったのだ。
今日はその披露宴の日だった。
「なんかこの服の色、どっかで見た気がする」
「然様ですか」
「なんだったかなー」
そう魔女は首を傾げるが、術師は特に気にも留めていない様子でさらりと流す。
×
それから招待された屋敷に入る魔女と術師(と子供達)。
「席とか決まってるんだね」
「長男や次男の挙式もそうでしたでしょう」
「そういえばそっか」
そして魔女は灰色に飾られた屋敷を見、
「このおうち、一回来たことあるよね」
と術師に声を掛ける。
「其れもそうでしょう。私共の実家で御座います故」
「え、そうなの? 全然雰囲気違うからわかんなかった。というか、猫のところのおうちって形似てるよね」
「建築様式の問題ですね」
周囲には家族の他にも見知らぬ人が大勢いる。恐らく(術師や呪猫当主の)血縁だろうが、皆一様に顔を灰色の布で隠しており顔が分からないし灰色の呪猫特有の服である。
長男と次男、次男の伴侶は慶事専用の灰色の軍服で三男は慶事用の宮廷錬金術師の服、長女は灰色のドレスだ。魔女も軍医中将としての服(灰色)を着、術師は慶事用の宮廷魔術師の服を着ている。
呪猫の服を着ていなかったことに周囲の者は眉をひそめていたが、呪猫当主と次女、その伴侶は気にしていなかった。
そして、式が始まる。
×
挙式が終わった後。
魔女は、ようやく自身に仕掛けられていた術に気付く。それは出会って三年目の、体調を崩した術師のお見舞いに呪猫に来た時の話だ。
「あれ、猫のところの結婚式だったんだ!」
「今更気付いても、もう遅い」
うわ、と声を上げた魔女に、術師はくつくつと喉の奥で笑う。
×
その後、また何やら儀式が始まり呪猫当主になった次女。
「なんかね、やることになっちゃった」
困惑する魔女に、次女はあっけらかんとした態度で言った。呪猫当主は隠居するらしい。
「奥様と一緒に色々出かけたいとか言ってた。まあ、旅が意外と楽しかったんだろうね」
薄紫(霞色)のねこちゃんとしての活動が楽しかったんなら仕方ないなぁ、と思う魔女。
「しばらくはあたしに指導とかしてくれるらしいんだけど。従兄弟とかと協力していくつもりだから、おじさんの頃みたいにそんなに忙しくならないはずだよ」
そう、次女は告げた。暇が出来たら遊びに行く、と言っていたのでその言葉を信じて楽しみにしておくことにする。




