運命伐採15
それから数日。世界の端が消えると言うことがあったものの、思いの外混乱は起こらず日常に戻った。
そして魔女は、長男に謝礼金を支払うことになっていた。(正しくは魔女というより軍部だが。)
「ようやく解放かー」
「ありがとうね」
魔女の執務室(軍部ではなく医術薬術開発局)で、長男は深く息を吐いた。それに魔女は今までのお礼を述べる。
「やっと本名に戻れる。そして大っぴらに嫁と子供に会える!」
「本当にごめん」
「んー? 気にしてないよ。国からもたっぷりと補償を貰ったしさ」
「それはよかった」
「俺は大切な人達と平穏に過ごせたらいいからさ。母さんの方こそ、これからの事とか頑張ってね」
「うん……」
「あと、ちゃんと父さんと話するんだよ? またすれ違って拗れるとか嫌だからね。次拗れたら何が起きるかもう分かんないよ。今回だって、元を辿れば父さんと母さんの関係性のこじれでしょ?」
「そ、そうなのかな」
「まあちょっと事情は複雑っぽいけどさ」
長男は魔女を見つめた。
「ともかく。父さんとたっぷりお話しすること。逃げちゃだめだよ? そういう気質なのは仕方ないけど」
「うん。『黒い人』にも『変に逃げたら欲しいものは手に入らない』って言われたから……頑張る」
魔女はどうしても、夫の術師にはなんだか素直になれないのだ。(ちょっぴりカッコつけたくなる)。無論、それが拗れた原因……かもしれないが、まあ、どうにかなるだろう。そう魔女は思った。(「素直になればいいのにー」とは『黒い人』の談。)
それから長男と魔女の引き継ぎ作業が終わったあと。
補佐官達は魔女の帰りを喜んでくれたようだった。手の掛かる上司だった自覚はあったので、少し新鮮に映る。
「まだ少し小さいですね」
「まあ、何とかなるでしょう」
金髪の補佐官1、銀髪の補佐官2、共々少し小さい魔女に少々困った様子を見せていた。
「息子さん、とても有能でしたよ」
「息子さん以上の働きを期待してますよ、『軍医中将』殿」
そう、補佐官1、補佐官2に言われて少し誇らしい気持ちと不安な気持ちを持つ。
「そういえば。聞きました? 国交の話」
補佐官1が雑談を交えてくれる。どうやら断絶していた国交が回復するようで『古き貴族』当主とその伴侶、祖国が協力し合うことになったらしい。
しばらくは軍部がそれ関連で忙しくなるのだそうだ。
また、同盟国でなかった国々は混乱しながらも、ゆっくりとあるべき姿に戻っていくらしい。そうおばあちゃんと呪猫当主が告げていたのを、魔女は思い出した。




