運命伐採12
「これは……!」「神召喚の文言?」
斜陽卿と猫が、訝し気な声を上げる。
文言はとても短く、途端に魔力を消費する術師。そして。まだ魔力が減り続けていることが魔女にはわかる。何か別の力——先ほどの文言で糧にした星海の神の魔力——も利用しているようだが、それでも彼の魔力が速い速度で減ってきていた。
「まさか、自身の命を引き換えに天地の神を召喚するつもり?」
斜陽卿の言葉に、魔女ははっと顔を上げる。
「今度こそ、私の言う事を聞く約束を行使する時です」
そして、術師はそんなことを言った。
「聞いていただく約束は、『私が居なくとも、天寿を全うする事』。永く、生きてくださいまし」
「嫌!」
間髪入れず、魔女は返す。
「君が居ないと嫌だよ!」
「ハァ? 『厭だ』と申される?」
「うん。いや」
怪訝な表情の術師に、魔女は力強く頷いた。
「私が何れ程の時間と手間を掛けて用意したと思っておるのです?」
「でも嫌」
「何故。死にたくはない、でしょう」
「そーだけど」
「成らば何故」
「だって、その先の世界にはきみが居ない」
「……………………は」
魔女の返答に虚を突かれたのか、術師は目を見開く。
「わたしは、きみがいない世界とか嫌」
「し、然し……」
「しかしもカカシもないの!」
「……」
眉を吊り上げる魔女に、術師は狼狽え視線を逸らした。
「きみ自身を大切にしてほしいって何度も言ってるでしょ」
「……其れは」
確かに言われている。それも彼なりに対処していた……つもりだったのだと、術師は気付いた。彼女の本当の気持ちを、蔑ろにしていたのだ。
「きみは死んじゃいたいの?」
「私は……」
「うん」
「私は、貴女に永く生きていて欲しい。其れが叶わぬ成らば、この命等要らぬ」
「ばか! きみが死んじゃったら意味ないじゃん!」
魔女の眦に、涙の粒が見える。彼女を泣かせしまったと、術師は動揺した。
「……元々、私の命等有って無い様なもので」
「じゃあ、仮にきみの命と引き換えにわたしが長生きしできるようになったとして」
「はい」
「きみが居ないのが嫌で、あっさり死んじゃったらどうするのさ!」
「……」
「きみがいなくなるなんて、そんなのヤダーーっ!!」
術師に縋り付き、子供のように魔女は泣く。そして
「『おばーちゃーん』!!、『黒い人』ーっ!!」
そう、子供が親を求めるように叫んだ。
途端に、魔女の胸元から何かが転がり出て、召喚陣の上に落ちる。
――パキン
そして、砕けた。それは、黒い人が渡した『都合のいいことが起こる石』だ。
「あ、開いた」「よく、わたくし達を呼んでくれました」
瞬間、『おばあちゃん』と『黒い人』が現れる。
同時に、召喚陣が焼き切れた。
「……本当に、召喚したわ」「森の主、ですか……」
斜陽卿と猫が感嘆の声を漏らす中、曙光卿はほっと息を吐く。
「…………可成り、研究を費やした召喚陣だったのですが?」
低く声を零す術師に、
「あなたのおかげで座標が細かく判りましたから、助かりました」
「そうそう、安心して」
そう、『おばあちゃん』と『黒い人』は簡単なフォローを入れた。
「はい『命の息吹』とくっついてー『呪う猫』ー、魔力回復だよ」
と、『黒い人』は魔女を抱き上げ術師にくっつける。
「むぎゅ」
必死に、魔女は引っ付いた。体が冷えていて、彼がとんでもない量の魔力を費やしたのだと分かる。
「助かりました」「ありがとね、『命の息吹』『呪う猫』」
二人が呼んでくれたおかげて『虚数世界』に来ることができた、と『おばあちゃん』と『黒い人』は言った。
「わ、『魂の石』と『夜明けの勇者』、『樹木の星』もいる」
周囲を見、『黒い人』は関心の声を上げる。
『な、なんであなた達がここにいるの!?』
星海の神が抗議の声を上げた。




