運命伐採9
「神を、降ろした!」
星海の神の姿を見、『暁の君』は感嘆の声を漏らす。
「そうですな。此処迄御苦労様で御座いました」
すっと冷えた眼差しで、術師は『暁の君』を視止めた。
「……は?」
呆けた声を零す『暁の君』をそのままに、術師は懐から巻物のようなものを取り出して淡々と言葉を述べる。
「『暁の君』……いえ。第二王弟殿下。世界を破壊せんと活動した事、『精霊の偽王国』などという組織を扇動し、同盟国及び世界へ混乱を起こした事等の罪に依り捕縛致します」
その言葉と共に、『暁の君』の首、手首、足首に金属製の拘束具が現れた。
「極めつけは宣言。『樹木の破壊者』達の抹消、世界に他所の『神』を降ろし、世界のきまりや約束事を破壊し、御自身が王と成る世界を作るなどと言う世迷い事を吐き、古の約束を愚弄する行為。見過ごす訳にはいきませぬ。――監視員長依り、命を頂いております。また、副官の権限にて報告は不要」
「こ、これはどういう事だ!」
「そういう事で御座いますが? ……御理解頂けるよう、言葉は選んだ積りですが」
「裏切ったな29番目!」
「『裏切った』? 何を吐かす童。儂は元よりお前の仲間だとは言っておりませぬ」
「わ、童……?!」
「抑々、其れは儂の名でも無い」
「は? だが嘘ではないはずだ……!」
「えぇ。『白き森の主』に呼ばれし殻の名ではあります故」
「な……殻?」
「魔術師はそういう物だと言うたではありませんか」
狼狽する『暁の君』を、術師は嗤う。
「私の仕える者は第一王弟殿下。而、儂が心依りお慕い申し上げているのは小娘。我が妻のみぞ。……警戒を怠るなと毎度言うたでしょうに」
そして、術師は斜陽卿の方に居る猫を振り返る。
「見て居りましたよね、裁判長殿」
「——えぇ、そうですね。監視員副官殿……詳しい話は後々で聞きましょう。どこまでが、貴方の意思だったのかも」
「ふふ。此れは手厳しい」
ツンと澄ました態度で、猫は答えた。術師は笑うが、それはどこか含みのような感情を、魔女は感じる。
「ど、どういうこと……?」
急な展開についていけず、魔女は思わず側に居たその3に問うた。
「あの人、自身の罪全て『偽王国』になすりつけて、自身の行動は全部『第二王弟殿下を合法的に逮捕するための王命だった』って言ってるみたいだね」
「はえー」
その3の冷静な返答は、彼の行動のすべてを表しているのだろう。「やっぱ最悪な奴じゃねぇかよ」とその1のぼやく声が聞こえた。
そうしている合間にも、星海の神は成長を続ける。周囲の夜のような世界の端が、だんだんと薄青く光り始めていた。
鐘の音のような音が聞こえる。
「……このままだと、『虚数世界』打ち破って外に出ちゃうわよ」
斜陽卿が、少々焦った声を上げる。
「外に出ちゃったらどうなるの?」
「さっき言ってるのを実行するっていうなら、世界を壊すんじゃないかしら?」
「……それはまずいですね」
若者達が口々に言葉を吐く。
「どうしたらいいの、ねこちゃん」
魔女が術師を見上げた。
「召喚の儀式は終了いたしました。触れますよ」
そうして、術師は宮廷魔術師の杖を発生させ手に取る。
「では、皆様。神殺しを始めましょうか」




